32話

 身体的なコンプレックスというのは未熟な精神に重く響く。


 いつだったか、学友に眉が太いと揶揄われた時があった。そいつは単に笑い話のつもりだったろうし、俺もそれを承知していて軽く笑って終わったのだが、家に帰り鏡をみるとどうにも目の辺りが気になって仕様がなくなるのだった。瞼の上あるマジックテープのような塊が二つ。人差し指で押し付け、ブラシをかけるように横に流してみてもやはり塊のまま。しばらく自分の顔を見るたびに溜息が出るようになる。思春期によくある病だ。

 そんな自己へのインフェリオリティも失せて久しいが、成長真っ只中にある子供にとっては無視できない劣等でるに変わりはない。容貌の美醜や色形は、悩むに値する問題である。




「おや、眼鏡をかけているのかい」


 いつも通りにやってきた子供にそう聞くと、彼は眉間に皺を寄せて「まぁはい」と低く唸るように呟いた。どうやら眼鏡姿なのが気に入らないらしい。



「すまない。目が悪い事を気にしているのかな」


「というより、眼鏡が嫌なんです。いつもはコンタクトなのですが、切れてしまっていて」



 どんよりとした溜息がカフェオレにかかる。余程気に病んでいるのだろうか、常に下を向き人から顔が見られないようにしている。眼鏡くらいなんだと思わなくもないが、こればかりは本人の気持ち次第であるわけだから軽々に「考えすぎだよ」などと言ってはいけない。まずは気持ちに寄り添う事が肝要である。



「確かに心ない軽口など投げられるだろうね。眼鏡をかけていると」



 そう言ってやると「そうなんですよ」と前のめり、その勢いのまま立ち上がると卓に置かれたカフェオレが揺れたため「危ないよ」と注意。子供は「すみません」と言って椅子に座り直した。



「なんだか、みんな眼鏡に対して酷く容赦がないんです。こぞって笑い者にするんだから」



 むくれる姿に微笑みを向けそうになったが彼は真剣なのである。茶化したりしてはいけないと、俺は「そうなんだ」と言って、深く頷いてみせた。

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