28話

 子供と目が合う。俺は、そうか聞いてくれるか。と、親愛の情を抱いた。

 大袈裟かもしれんがこうして他人に自分の話をするというのは初めての事で、竹馬に触れる幼児のように興奮と不安が交差する。語るというのは思ったよりも緊張の汗が噴き出るものだなと実感。染み出した脇や首周りから異臭がしやしないかと気が気でなく、俺は混乱し要領を得ない一言二言を短く吐き出してしどろもどろとなるのだった。



「あ、リラックス。リラックスしたらいかがですか。深呼吸が良いと聞きます」



 子供に促され息を吸い、吐いた。コーヒや芳香剤の香りが混じってできた空気に多少の落ち着きと吐き気が催され、冷静さを取り戻す。



「ありがとう。心穏やかになったよ」


「どういたしまして」



 コーヒーを啜り一息。やはり慣れない真似をするものではないと反省。今日はおとなしく沈黙を噛み締める日であると自身に言い聞かせ深く腰掛ける。染み渡る安堵の呼吸が尊い。



「……あの」



 外を見る俺に一声。目を向けると、子供が怪訝そうな表情を向けている。



「なんだい」


「お話をすると伺ったのですが」


「あぁ。あれはもういいんだ。気が済んだ」


「それは困ります」


「何が困るんだい」


「何を仰りたかったか気になってしょうがないじゃないじゃないですか」


「……」



 そういうものか。しかし、大した内容でもないのだから、そう期待されても困る。



「忘れてくれるかい。退屈な話なんだ」


「そういうわけにはいきません。白状してくれないなら、僕は今日帰りませんから」


「君は塾があるのだろう」


「休みます」



 力強い宣言に俺はたじろぎ、「じゃあ仕方ないな」などと言ってどうでもいい世間話をせざる得なくなってしまった。「後悔しないかい」と念を押したかったが、それこそ期待を増大させそうだったため止め、ボソボソと口を開き、エピソードを語る。

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