27話

 いつものコーヒーチェーンにて、変わらぬ席で変わりなく顔を合わせる俺と子供であったのだが、この日はいつもと様子が違っていた。



「……」


「……」



 ないのだ。会話が。


 出会って数ヶ月。互いの為人について知るには十分な時間であったが、相互理解と同時に話の種が育ちきってしまっていたのだった。語るべくを語りきり、論ずべくを論じきってしまって、今はもうから。毎日なにかしらイベントが起こるわけでもなく、時には桂浜の砂浜のように潔く真っ白な日もあるだろうとは思うものの、沈黙は気まずい。また、為人を知っているといっても竹馬の友というには短すぎる付き合い。膝を突き合わせているだけでは間が持たず、喉が詰まる。孤独に対して忌避意識を持ってはいるが知人との沈黙もまた避けたい事象ではあり、陥ってしまったサイレントを打破したい気持ちは多分にあった。差し当たってはこちらから会話を開始しなければ道はないと考える。

 しかし、いったい何を。



「おいしいかい。そのカフェオレ」


「不味くはないです」


「そうかい」



 ままよと始め、二秒で完了する会話。何か、昔父親と似たような話をした記憶がある。あの頃は「無益なお喋りだ事」と内心嘲っていたが、今になって父親の気持ちが分かるとは思わなかった。子供がいない俺が父性について察するとはおかしな話だ。



 俺の父については置いておくとして、肝要なのは、今起こっている沈黙の付き合いをどう突き崩すか。それに尽きる。


 ……


 しばし思案し、結論が出る。無理にツーカーとならなくとも、一方的にこちらがトークを展開してやればいいのだ。さすれば向こうも何かしら感性が刺激され舌を動かさざるを得なくなるだろう。

 しかし、いったい何を。



「好きかい。そのカフェオレ」


「嫌いではないです」


「そうかい」



 ままよと始め、二秒で完了する会話。

 二度目の醜態。一方的に捲し立ててやろうと決めていたのについQ&A形式となってしまった。慣れない一人語りを敢行しようとして怖気付いてしまった事は認めざるを得ない。



 だがいい加減に居た堪れなくなってきたし、子供が塾へ向かうまでの時間が差し迫っている。このまま退屈なイメージを持たれ疎遠となるのも寂しいため、ない勇気を振り絞り、俺は三度目の正直と重い口を開いたのだった。



「なぁ、聞いてくれるかい」

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