25話
適当と思われる解答を精査するも煮詰まらぬ。刻々と迫る時間であったが、ついに子供がカフェオレの入ったカップを手に取った。
「君は何が腹に据えかねたのかな」
突いて出る早口。急拵えで繕ったため、口から音が出るばかりという具合であったがなんとか形にはなった。だが、満点とは言い難いが決して不適切ではない。取っ掛かりとしてはベターな内容。悪くない選択である。
「僕もよく分からなくって。先程も申し上げたのですが、何故か今日に限って許し難く、頭に血が上ってしまったのでございます」
苛立ちの要因は不明。それ故に子供も尾を引き摺っているのだろう。自身の中に生まれた不可思議な感覚。ヒステリーか、バイオリズム的なものかもしれんが、ともかく制御できないエゴへの対処法をこの子供は知らぬのだ。幼いながらに理知を働かせるインテリジェンス気質な人間だ。怒りによる情動の発露に関して、経験的理解が不足しているように思う。自身の激情をどう捉え受け入れるかについて無知なのだ。
一般論でいえば双方の対話による解決が望まれるのだろうが、この子供が言うには変わりない日常で起こった諍いとの事である。となれば、喧嘩相手からしたら変わらない会話をしたに過ぎず、急に怒り出した為に理不尽を被っているのは自分だという論調を展開する事が想定される。もちろんそれは認識の相違でだし、なにはなくとも無闇に囃し立てた人間が悪いのだがそんなものを子供が承伏する可能性は低くいように感じる。であれば対話など無意味であるばかりか関係を悪化させかねない。この場合、相手の歩み寄りを期待するのは不適切ではないか。ともすれば、問題解決ではなく、許容する心理に舵を取っていくのが的解ではなかろうか。
いやしかし、子供にとってそれは、理不尽を受け入れろと言っているに等しい。それは彼の尊厳を害するものであるからして、避けねばならない方針だろう。
出口が見えない。また、煮詰まらぬ。
八方塞がりでなんと励ませばいいか、てんで分からない。
子供は依然暗く俺もまた暗中。力になれない自分が歯痒い。いや、なんとかして声をかけよう。俺がそうしたいから、そうするのだ。それ自体は間違ってはいないはずである。そう、間違ってはいないはずなのだ。
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