18話

 仕事が終わると俺はいつも通りコーヒーチェーン店に寄り道しいつものオーダーを受け取る。


 見慣れた眺めは閑散としている。アフターファイブ直後はまだ客足は少ないが、これから徐々に騒めきが溢れかえり、十分もせず、店内はだいたい満員となる。想像以上に人は忙しく、また暇で、居場所を求めてやって来ては安いコーヒーを啜りながら時間を過ごす最中、俺もまた同じく安いコーヒーに満たされながら、虚無となりて人を待つのだった。




「こんばんは」



 現れた待ち人。

 歳の頃は十やそこらといったところで、親子というには近すぎるし、兄弟というには離れすぎている。そも、見てくれの問題から親族とは誰も思わないだろう。では他人からはどの様に見られているのか。そんなものは知らない。



「こんばんは」



 子供に向かって丁寧に返す。「やぁ」と気安くできればそちらの方がいいのだろうけども、どうにも俺には無理らしく、もうずっと長く隔たりのある挨拶をしている。世間一般では子供に対して敬いを示さなくとも良いという慣習が普及しているもののどうにもそうした無礼に合わせる気にはなれずこんな対応をとってしまうのである。もっともこれは相対する子供が望んでいるだろうと想像し敢えてそうしているという側面もあった。子供というのは往々にして背伸びをしたくなるもので、大人扱いされる事に喜びを得るものなのである(俺が昔そうだったように)。


 殊にこの子供はその気が強く、妙に大人を模倣したような言動をとる事が度々あった。それが時におかしく、時にはたと考えさせる事があって、会話というのは改めて自分を見つめさせるものだなと日々思うのである。そして、この日も例に漏れず、俺は子供の問いに耳を傾け、鑑みるのだった。



「仕事って、大変そうですよね」



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