16話

 それを見て気を揉んだのか「大丈夫ですか」との労りが子供から聞こえたため頭を上げる。大人としてあまり情けない姿は見せられない。が、見栄を張っても仕方がなく、俺は入らない力を振り絞って弱々しく白状した。



「いや、俺も女と話したりするのら苦手なんだ。交際もした事がない」



 間を置き、吹き出す子供。どうやら俺の姿は他人の目において奇異に映ったらしい。



「おかしいかな」



「いいえ。ただ、随分落胆していたものですから」



「そりゃ頭もかかえるさ。俺は君よりうんと歳上なのに、君と同じく、異性とはこれっぽっちも縁がないんだから」



 笑ってみせたが言っていて無性に苦しい気持ちとなった。周りはぼちぼちと所帯を持ち、こさえた子供があんよを始めるような年代である。自分に大人としての資格がないと宣言しているようなもなのだから、溜息も出よう。



「一緒に頑張りましょうよ」



 憐れみのような声をかけられた俺は「そうだね」と一応頷いたが、とはいえやはり恋人を作るという行為には消極的だった。これだけ落ち込んだにも関わらず、先と変わらず恥と面倒が浮かび億劫となるのである。酸っぱい葡萄かもしれないが、独り身の気楽さに比べたら番の享受できるメリットなど考慮にも値しないという結論に行き着いてしまうのだ。悩ませるのは対面と孤独の寂しさと、性欲くらいなものであろうか。天秤にかけるとどうにも、軽い。


 それにしても、性欲か。


 恋愛とは果たして性欲なしにして成立するものなのだろうか。アガペなる言葉は知ってはいるが、俺はこの概念に懐疑的である。愛しているだの好きだのとった表明は道徳によって上書きされた表現に過ぎず、一皮剥けば破廉恥極まりない姿が顕となるだろう。人は獣である。

 では、この子供のいう、好き。も、同じくオブラートでラッピングされたリビドーに過ぎないのだろうか。この辺りは実に気になるが、口にするのは下衆そのもの。触れぬのがいいだろう。

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