15話

 それで、ようやく出たのが「いい子です」というものだった。

 なんら具体性がなく全貌の見えない返答ではあったが、俺は、あぁ、きっといい子なのだなと得心する。根拠のない想像の産物といってはそれまでで、どのようにしてそう確信したのか説明はできないけれど、兎にも角にも俺は子供の想い人に対して、いい子。という評価を下したのである。



「その子と仲良くしたらどうだい? 話をするくらいなら、さして難しくはないだろう」



 気楽に言ってはみたものの子供は「恥ずかしい」と俯き黙りこくる。これは重度のシャイだなと内心呆れるも、そういえば俺も子供の頃はこんなものだったなと自省し改める。そう、子供というのはそんなものなのだ。未だ幼い精神は、何故だか異性を受け入れられず変に固く、偏る。男児はより顕著で、暴力など、分かりやすく拒絶の症状が出る事もしばしば。性に対する禁忌や未知の恐怖。また、ステレオタイプな男性像を善とする文化から、硬派であるべきという価値観が刷り込まれた結果そうさせてしまうのかもしれない。歪な精神構造である。


 だがそれではいかん。


 幼少期から軟派な性格となるのも困るだろうが、そう極端に考える事もないだろう。一人の人間としてフラットにコミュニケーションを取ればいいだけなのだ。気構える必要はない。


 と、言ってやれればいいのだが、俺もまた、幼少期より引き摺る歪な精神構造から脱却できていなうも偉そうな事を喚いても説得力が伴わないし、責任が取れない。下手な助言は控えるべきだろう。


 ここまで考え、俺は、学級で半数の人間が異性交際をしていると述べた子供の言葉を思い出す。


 なんという事だ。俺は学童以下のメンタルとエクスペリエンスなのか。



 今度は俺ががくりと項垂れ言葉をなくした。悲嘆に暮れも落涙の気配がないのは、半ば呆れてしまって愉快でもあったからである。

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