14話

 あまり脱線しては収集がつかなくなるため、あくまで色恋沙汰に絞った話をしたい。とすれば、俺の事よりこの子供について焦点を合わせるべきだろう。俺にスポットを当てるとまた生き死にとかの方向へ逸れてしまいかねない。



「君は好きな女の子はいないのかい?」



 特に考えずに尋ねる。いてもいなくても別にどちらでもという心持ちであったが、子供はたちどころにしどろもどろとなり要領を得ない返事を寄越した。狼狽える姿に、申し訳なささえ覚える。



「話したくないなら、別にいいんだ」



 動揺を鎮めるためにゆっくりとした口調となるよう努めたのだが効果はあったようで、子供は少しずつ落ち着きを取り戻しカフェオレを飲むくらいの冷静さを見せる。とはいえ未だ額の汗はおびただしく、店内の光が反射してギラリと鈍く輝く。ハンカチを持っていれば差し出していたが生憎と俺はそこまで優れた衛生観念を持ち合わせてはいないためそのまとしておいた。



「いるのですが、その、やはり恥ずかしく、会話さえままならない関係です」



 話さなくともいいと言ったはずだが子供は自らの恋慕と焦燥を訴えてきた。どうやら、そういった内容に花を咲かせたいらしい。恋も愛も、実体験は未履修な俺の弁が助力になるとも思えんが、望むのであれば、合わせてやるほかない。



「どんな子なんだい?」



 そう問うと、子供はもじもじしながら目を泳がせた。ようやく引きかけた汗がまた吹き出してくるあたり、余程恥ずかしさが強く、感情の整理がつかない状態なのだろう。俺は黙し、温くなりかけているコーヒーを飲みながら言葉が出るのを待つ。しかし、しばらく、「あ」とか「うん」とか、息だか声だか分からない音を聞いていると、こいつは大丈夫だろうかと心配してしまう。そこまで難儀な事なら無理に話さなくともいいのにという考えが浮かばなくもなかったけれど、子供が一所懸命に、自身の退っ引きならない感情を言語化しようとしている様子に目を奪われ、そんな無粋はすぐに掻き消えてしまった。少年の苦慮というのは尊く、また、見応えがあるものだ。

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