13話
それでいうと人付き合いに不向きな俺がこの手の話に口を出すというのは適切でない。正しい作法も分からないし、つい出た言葉が悪影響を及ぼして目の前に座る子供の将来を挫けさせないとも限らないのだか。慎重を機し、滅多な発言は控えるべきである。
べきなのだが、そんな表明を目の前の子供が知るはずもなく、容赦なく俺に口を割らせようとするのだったを
「お作りにならないのでしょうか」
何を。と聞くのは無粋だろう。この子供は当然恋人を指して言っている。
「そういう人がいればそんな気にもなれるかもしれないね」
わざと捻った言い方をした。直接的に「できない」と断言してしまうのは恥ずかしかった。
子供相手に何をと思うかもしれないが、この歳で特定のパートナーがいないというのは自らを不具者と申告しているようで後ろめたさを感じる。恋愛や結婚だけが人生ではないが、未だ社会的価値観は既婚者を優とし独り身を蔑む傾向にある。配偶者もその候補もいない俺は不適合と言わざるを得ず、くどく言い回さなければ体裁が保てないのだった。
「そういう相手であるか見極めるために交際をするのではないのでしょうか」
子供は容赦なく俺の面子を潰そうとしてくる。悪意がない分怒る事もできない。
「そういう風になりたい相手がいないから一人なのさ」
「では、死ぬまでに現れなかったら……」
「終ぞ孤独のまま、無縁仏となるだろうね」
自分の死に目を想像する。狭い部屋で横たわる身寄りもない俺は、ゴミに塗れて息を引き取るのだ。葬儀もなく粛々と死体が処理されて埋められていく風景。寂しさしかないが、それも悪くないかもしれない。意識がなければ悲涙も落ちないだろう。彩のない人生などない方がいい。また、帰りたくない、あの狭い部屋と縁を切れるのであれば願ったり叶ったりである。孤独死も捨てたものではない。
「話が飛躍しましたね」
子供の指摘に我へと帰った。色恋から生死へと話題がずれてしまうとは、俺も悲観が過ぎる。
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