10話
仕事が終わると俺はチェーン店でコーヒーを飲み、目の前に座る子供と会話を交わすのだった。
彼とは初対面から幾日か経ち、週に二、三度顔を合わせるようになった。もはや知らない仲ではない間柄である。
とはいえ僕も彼もお互いの事情をまるで知らない。歳の離れた友人といえば聞こえはいいのだけれども、名前すら把握していない人間同士に友情が成立し得るものか疑問だったし、社会的に見ていい歳をした俺が子供と盟友を結ぶというのは非常に体裁が悪いため、ここは知人。あるいは、常連仲間としておく。
さて、その知り合った常連仲間の子供との会話であるが、主に悩み事や相談を打ち明けられる事が多い。子供のバックグラウンドについて知る由もないため邪推となるが、彼は家庭環境において些か不通気味であると睨んでいる。込み入った話をするのに同学年では頼りないため、親に代わって俺に助言を求めているのだと勝手に判断し、微力ながらも俺は大人として面倒を見てやろうと思い付き合っている。もしかしたらマセた部分をひけらかし、「僕は大人ですよ」と承認してもらいたいだけなのかもしれない。しかし、どちらにせよ俺はこの子供の話に耳を傾け、あれこれと悩みながら頼りない言葉を送っているのだった。
俺自身、話し相手が欲しくないといえば嘘となる。対象が一回り以上離れているというのはやはり世間体が悪く情けない限りで、なんとも小恥ずかしい気分となるも、店内で孤独に過ごす数時間は如何ともしがたいのだ。致し方ない。
だが、話題の内容によっては口を噤みたくなる時もあるのだった。
「あの、失礼かもしれませんが、そちら、恋人とかはいらっしゃらないのでしょうか」
そう聞かれた際、俺は目を背けざるを得なかった。恋人などいらっしゃらないからである。
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