8話
だがどう転んだって俺が偉そうに語るべき事柄ではないし、なんなら自己嫌悪すら抱く具合で心労が増しよろしくなかった。言い切って少し間が開くと頭がこんがらがって、本当にあんな事を申し上げてしまってよかったのかしらんと自分自身に繰り返し問い掛けられる。その滑稽さ、不毛さ、無益さといったらもう!
コーヒーを飲み干し、恐る恐る子供を伺うと、ぢっとこちらを視刺している。これは俺の思慮の浅さを看破し、どう文句を付けてやろうかという睨みだろうか。大変な事だ。俺はこれから、齢十くらいの児童から説教を賜るのか。前代未聞の屈辱であるが是非もなし。ここは語るべきでなかった事を語った自身への罪禍として受け入れよう。
カップを置き、覚悟を決めた俺は姿勢を正して子供の方を向く。丸い黒目が深く覗きまるで深淵から妖怪がこちらを捉えているようだった。非理論的な恐怖が息を詰まらせ、飲み干したコーヒーの香りが胃から逆流し気分が悪くなる。カウンターに置かれている、各自で注ぐ形式の水を持ってこればよかったと悔やみながら子供の第一声を待つ。
「そんなに考えていただけたんですか。僕について」
意外そうな声をあげる子供に俺も意外な心境となった。罵倒の一つ二つを覚悟していたからである。
「そう奇天烈な事でもないだろう」
平静に努めるも装ったベールが薄く明るみとなっているような気がしてならなかった。目の前の子供から「白々しい」と言われやしないか冷や冷やして、汗が増す。
「いえ、親とか先生って存外忙しく、あまり僕の話に付き合ってくれないんです。最終的にはいつも、好きにやってみたまへ。と言って立ち去ってしまうんですから、何を述べてもて糠に釘です。やんなっちゃう」
屈託ない笑顔。俺はようやくこの子供の中に子供らしい精神を見たような気がした。
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