05 「好きとか言うな」

 毎日いつでも私は子どもに言っていた。


「大好き」

「かわいい」

「好き」


 そう言いながら、むぎゅっと抱きしめたり、抱っこしたり、鼻先をつける鼻ちゅーをしたり。

 

 どうしても小さい子にそうする方が多くなるので、大きい子が「わたしは好きじゃないんだ」「わたしはかわいくないんだ」と言うようになった。


 そのたびに、「そんなことないよー。○○ちゃんも大好き」と言って抱きしめたり、鼻ちゅーしたりしていた。

 しかしそれを見ていたパートナーが言った。


「もう好きとか言うな! めんどくさい!」


 ええー。

 小さい頃にしかこんなに言えないのに、今言わずにいつ言うのか。

 あふれ出る「好き」を伝えないでどうするのか。


 そう思って、こっそり言っていたものの、言う通りにしないと怒鳴られるので、すっかり言わなくなった。



 同じように、寝る前に絵本を読んでいた時にも、


「絵本読むから寝ないんだ!」


 それならと今日あった出来事などを聞いていたら、


「話すから寝ない!」


 どんどん子どもとの会話は減っていった。

 かと言って、なにもしない状態で子どもがすんなり寝るはずもない。

 パートナーはひたすら「さっさと寝ろ!」と怒鳴る。


 子どもは、なにかしら満足したら寝てくれる気がする。

 それがなにかよくわからないけれど、昼間の外遊びでも、絵本を読むのにしても、話をするにしても、その行為そのものというよりも、なにかが満たされたら自分から寝てくれる。


 その状態にしたいのに、できない。

 

 ならパートナーが寝かしつけをしてくれるかと思えば、してくれない。

 せいぜい同じ部屋に入って「さっさと寝ろ!」と、誰か話せば怒鳴るだけ。

 

 これでは不満しか残らない。

 私自身も、子育ての楽しみがなくなっていった。


 

 数年後にパートナーが涙を流しながら言った。


「なんで俺に『愛してる』って言ってくれないんだ?」


 そりゃそうだろう。

 愛の言葉を封じた本人がよくそんなこと言えるなぁ。

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