03 「話し方が悪いんじゃないの?」
私はかなりおバカだと思う。
小さい頃は毎晩のように「お前はダメなヤツだ」と2~3時間延々父親から言われ続けていても、父親を憎むことはなく、なんだか父親に冷たい母親のことを「お父さんはさみしいだけだからもっと優しくすればいいのに」とか思う子どもだった。
優しくすれば、相手を満たせたら変えられると思っていたんだと思う。
さみしかったらなにをしてもいいというわけじゃない、とわかるのが遅すぎた。
なんだかんだと父親の気を引くことで、私は母親をけなす言動をとる父親を止めているつもりだった。父親にとって私はお気に入りの子だったにもかかわらず、毎晩のように言われる「お前はダメなヤツだ」。
たまに途中で父親が母親に「なにか言いたいことあるか?」とふると、母親は「なにもない」と答える。
これがまたキツい。
かばうというか否定してもらえないと、母親からも「うんうん。その通り。この子はダメな子なのよ」と言われているのと同じように感じてしまうからだ。
母親のスルー行動は、ただ単純に、「ここで反論したところでダメなヤツ談義が長くなるだけだから、この延々続く話をさっさと終わらせるために『なにもない』と言うしかない」だとわかっていても、ガッカリする。
私も母も、ズバリ父に「そんな言動をしないでほしい」とは言わず、ただその場をしのぐだけで、根本的な問題を解決するために動いていなかったと思う。
さて。
いざ自分の子どもが産まれて、なぜかパートナーが実の子どもに対して「お前はほんと頭悪いな」「頭おかしい」などと言うようになると、私はすぐさま間に入るようにした。
きっと最初にハッキリ言わなきゃわからない。
自分の父親に言えなかったことをずっと後悔していたから、空気が悪くなろうが、その場で言うようにした。
パートナーには「子どもにそんな言葉を使わないでほしい」「子どもは言われた通りに育つから、否定語を浴びせないで欲しい」とお願いした。言い方が悪ければ「こういう風に言って」と具体例をあげた。
子どもには「わたしは見捨てられた」「両親ふたりからそう思われているんだ」と思わせないように、できる限り即フォローに入った。「パパはこう言いたかっただけなんだよ」とパートナーへのフォローもした。
ちなみに一回とか数十回とかじゃない。
十年間ずっと毎日その都度だ。
(平日なら朝晩、休日なら最低三回平均十回。実際はそれ以上だけど、おおよそ一年間で約千回くらいとして、十年間で少なくとも一万回以上)。
ずっと「いつかは通じる」と心の底から信じていたし、十年の間、子どもにパートナーのことを悪く言ったことは一度もなかった。
それは私が昔自分自身にそうしてもらいたかったからでもあったし、「愛情をもって伝えればきっと通じる」と信じていたからなのだけれども、これがなぜか全然通じないのだ。
パートナーからは「思ったことを言ってなにが悪い!」「専門家でもないのに、えらそうに言うな!」と返ってきた。
子どもの心のフォローはできたかもしれないが、なぐさめるばかりだったので、私はだんだんと子どもたちから大変なめられた存在になっていった。
(一番上の子は私のことを、なにがあっても動じない宇宙人だと思っていたらしい)
今思えば、パートナーからすれば、子どもを叱っている時に(私には理不尽に怒りをぶつけているだけに見えるが)パートナーの味方をするのではなく子どもの味方をすることで、私は「パートナーの敵」だと認定されていったのだと思う。
(子どもの前で否定される→「恥をかかされた!」になるから)
↑
(それを言うなら、子どもを食卓や店内などで怒鳴りつけるのも、人前で否定するのと同じなので止めて欲しいと伝えたけど←そもそも怒鳴らなければこっちだってパートナーを注意しないのだけど、「子どもは別」とわかってもらえなかった)
(じゃあ後でパートナーと二人のときに話せばいいかと言うと、後から言うとけっこうな割合で「いつの話?」か「今さらなに言ってんだ」となる。直後は怒り心頭していてまったく話が入らず、あまり間を空ければそのこと自体を忘れられるか、むしかえされて不快に思われる。適度な時間を空けて落ち着いたと思われる頃に静かにシンプルに話す必要がある)
↑
「出かける前の子どもにテンションを下げる言動をとらないでほしい」(「朝から怒鳴りつけないでほしい」。早く学校に行かないと心配なのはわかるけれども「さっさと出て行け!」「ほんとグズが!」などとは言わないでほしい)という内容を、ずーっとそれこそ毎日365日言い続けているけれども、いまだに通じる気配がない。
(パートナーの中に「子どもと俺のどっちをとるの?」という前提がある感じ→子どもに味方してるようにパートナーが感じると「俺は見捨てられたってことか」と、なぜか勝手に被害者側になる)
↑
(
敵認定した人の言葉を聞くだろうか?
聞かないよね。というか、「聞きたくもない」と思ってしまうものだ。
パートナーは、私が言ってもスルーしていたことを、第三者が言えば聞くようになっていった。
昔なら「これ面白い番組だよ」と見せれば一緒に見てくれたのが、チラッと見て「好みじゃない」と見ない。
それが同じ番組を、パートナーの友達から「面白いよ」と勧められたとかで、後から見るようになった。
好みじゃないけれども友達のオススメなら見るらしい。万事がそうなっていった。
もはや好みの問題じゃない。私の言動がパートナーの信用に値しないのだ。
それでもパートナーが理不尽なことを言っているなと思えば、注意しなくてはならない。
なにしろ、『言わなければパートナーは「前はそんなこと言ってなかっただろ」』となるし、『フォローしなければ子どもが傷つく』から。
「危険だからさわるな!」と扇風機のボタンをさわらせないのに、「扇風機も付けられないのか!」とはどんな意地悪問題か。「教えていないことはできないよ」とやんわり言って、子どもにボタンを説明する。
子どもが食卓でなにかこぼせば「なにこぼしてる!」と鬼の首をとったみたいに怒鳴られる。
いや注意すべきは、子どもの手の届く範囲にこぼれる物を置きっぱなしな大人の段取りの悪さだろうよ。
「こぼれるものは机の真ん中に置こうね」「大丈夫? こぼれたらふいたらいいんだよ」
こんなやりとりが続けば確かに「子どもが
私には、パートナーが子どもを泣かせては「うるさい!」と怒鳴る、マッチポンプ状態に思える。
むしろ思い切り怒鳴ることができる機会を
こんな毎日をどうにかしたい。
そんな想いで私は、子育て勉強会や、アンガーマネジメント、心理講座など色々通い、教わったことを試した。
どれも1週間くらいは効果があるけど、効果は続かず、また怒鳴られる生活に戻る。また別のを試して……の繰り返しだった。効果は1週間から長くても1ヶ月くらいしかもたない。
よくなったと思ってから再び元に戻ると、「またダメだったのか」「また同じ事を繰り返すのか」というガッカリ感がスゴい。
だんだん怒鳴り声を聞くとしんどくなるようになった。
どこかにいってくれないかなと願うようになった。
普通の家庭なら毎日怒鳴り声などしないだろう。
少なくとも私は、親から叱られたことはあっても、理不尽に怒鳴られたことはなかった。
だから理由を説明しても怒鳴り続けるパートナーが理解できなかった。
フォローしてもフォローしても
「話し方が悪いんじゃないの?」
白状しよう。
私も以前はそう思っていた。
熟年離婚した人の体験談やら、子どもができてすぐに子どもと一緒に家を飛び出した人の話を聞いて、「もっとうまくやれたんじゃないの?」と思っていた。「我慢が足りないんじゃないの?」とさえ。
ずいぶん前に、雑誌か新聞の相談欄に熟年夫婦の奥さんからの相談が載っていた。
ざっくりした相談内容は、
「退職したのだから少しでも家事をしてもらいたいのですが、夫は電子レンジも使えないので困っています」
それに対して、ざっくりした回答は、
「それはあなたがそういう夫にしたのです。教えなければできるようにはなりません」
読んだ瞬間は「それもそうだな」と思ったけれども、考えてみて欲しい。
はたしてこの相談者は、紙面という人目にとまるような場所で第三者に相談するまで、一度も夫に電子レンジの使い方を教えなかっただろうか?
私は、おそらく何度も教えたと思う。
相談者が思いつく限り、手を替え品を替え、様々に手を尽くして教えたと思う。
それでも覚えてもらえなかったから、わざわざペンをとって第三者に、その道のプロに相談したのだ。
どうしてそう思うかと言ったら、私でも家族のことを第三者に相談するのに抵抗があるのに、熟年のご婦人が、退職してからも一緒に暮らしている夫について相談するというのは、相当なことだと思うからだ。
それも内容は「電子レンジの使い方を覚えない」だ。
相手によったら「ぷっ」と笑われる内容だ。相談した方が恥ずかしくなる内容だ。
それを大真面目に紙面で回答を求めている。
私の勝手な想像だけど、このご婦人は「このままじゃあ、私が死んだあと夫が困るのでは」と、かなり本気で悩んで相談したんじゃないかな。
それに対して「お前がそうしたんだろ」という回答。
いやいやいや。
この夫は熟年の男性だ。ヒトケタのお子様じゃあない。
ヒトケタのお子様だって教えれば、あたためボタンひとつなら覚えて使える。
退職まで勤め上げている熟年男性が、電子レンジの使い方がわからないわけがない。
どうして電子レンジが使えないか。
理由は簡単「熟年夫に電子レンジの使い方を覚える気がないから」だ。
それをなんでご婦人のせいにするのかが、本当にわからない。
操作が難しいタイプなら、電子レンジのボタンに押す順番で数シールを貼ったらどうか、一番簡単な方法だけ教えたらどうか、電子レンジ自体が嫌いかもしれないから違う調理器具を用意してはどうかとか、そういう具体的な回答を返してあげて欲しかった。
で。
それをふまえて、私は聞きたい。
私は十年間、できる限りわかりやすくその場で注意してきたし、説明もしてきた。
「思ったことをなんでもそのまま言っていいわけではない(これ、みんな物心つくくらいから口酸っぱく注意されているものだと思っていたけど、地域差かなにかで違うの?)」
「『バカ』だの『頭悪い』だのいう言葉は、言われただけで傷付くのに、それを実の親から言われるのは、そのへんの通りすがりから言われるよりも子どもには重い言葉になるのでやめてほしい(少なくとも十数年間「お前はダメなヤツだ」とふわっとした内容でも実父から言われ続けた私の自己肯定感はかなり低い)」
「怒鳴られると脳に影響があると専門家の書いた本もあるからそれを読んでほしい」
参考にと詳しく書かれた本を渡せば「それはコイツがそう言ってるだけだ」というので、別の筆者のものも用意した。
それでも伝わらない場合は、どうしたらいいんでしょうか?
やっぱり、私の「話し方が悪いんでしょ」うか?
しかも「話し方が悪いんじゃないの?」は、「あなたが選んだんでしょ」と同じで、言われたところでなんの解決にもならないセリフです。
それをあえて言う心理が知りたい。
「あなたが選んだんでしょ」と同じで、「話し方が悪いんじゃないの?」は「つまりお前(私)の能力が低いからだろ」ってことでファイナルアンサー?
ちなみに、前回出てきた親戚からはまさに「お前(私)の話し方が悪い」と思われています。
「お前(私)の能力が低い」からうまくできないのだと。
だから親戚の回答は「お前の努力が足りないんだから通じるまでお前が頑張れ」一択です。
うん。できる限り頑張って、もう頑張れない段階まできたから相談したんだけどね。
話聞いてないよね。知ってる。
今の私は、「話せばわかる」「いつかは通じる」なんて幻想は
誰もが「自分の想像するようにしか見ないし理解しない」のです。
「話せばわかる」「いつかは通じる」大団円は物語限定。
現実であれば奇跡です。
だから物語として成立する。
「話せばわかる」「いつかは通じる」が理想なのはわかる。
物語としてもその方がハッピーエンドに感じるし、私もそういう物語を書くことがある。
でも、「話せばわかる」「いつかは通じる」ばかりにかたよった物語は世界の認識を曲げてしまうんじゃないかな、とも思う。
あまりにも「話せばわかる」「いつかは通じる」物語がはばをきかせてその展開に慣れてしまうと、まるで現実世界のすべてが「話せばわかる」「いつかは通じる」展開になると勘違いするようになってしまうから。
それがいい意味で広がって、みんなが実際に話せばわかる世界になれば素晴らしいことだと思う。
でも、まるで「話せばわかる」「いつかは通じる」状態にできなかったら、(自分が知っている展開にならないのは)「間違っている」「努力が足りない」「そうならないのはおかしい」とまで思われてしまうのが今の現状だ。
「話せばわかる」「いつかは通じる」が通じないことは普通にあるんだけど、それを匂わせただけで、「お前の努力が足りない」「お前のやり方が悪い」と話を聞かずに全否定し、そうすることになんの疑問も持たないことに、本当に驚く。
第三者にとっては「知っている展開にならないのが問題」であって、実際の問題の内容や、そこに至るまでの、数日の、数週間の、数年間の耐えてきたつらさや努力は、考える舞台にさえ上げてもらえないように感じる。
それを不思議に思わないのが怖い。
正論だと思い込んでるのが怖い。
だいたいその「いつかは通じる」の「いつか」が、今から数年後ならともかく、40年後60年後だとしたら、私の命の残り時間すべてパートナーと子どものフォローをし続けることになるんだけど。
それは私にとって、「いつかは通じる」というよりも、「私の人生をパートナーと子どものフォローに
それでも第三者にとっては「いつかは通じる」に入るんだろう。
いつかは通じているから、言葉としては間違ってはいない。
もしかしたら、第三者の心の中では勝手に、「数十年後に通じ合った家族」という大長編の感動物語ができあがっているのかもしれない。
すでに私は吸い尽くされて干からびて感動できそうにないけれども。
そもそも確実に40年後に通じるなんて保証もない。
それなのに、よく「いつかは通じるから」と数十年かかってもムリかもしれないことを平気で勧められるなぁと驚く。
私が「じゃあ手伝って欲しい」と言えば「それはあんたたち家族の問題でしょ」と当然のように言って関わりもしないのに。
私は、自分のしたかったことをなにもできず、パートナーと子どものマネージャーみたいな自分の人生を送ることに納得できないから、私の心のブレイカーが勝手に落ちたんだと思っている。
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