マスメディア部
「初めまして。マスメディア部2年の
「お、同じく2年の
相談部を訪れたのは1組の男女。色っぽい雰囲気漂う女子生徒の神楽坂先輩と、少し猫背気味な男子生徒の百目鬼先輩だ。
「二人はマスメディア部のこと知ってる?」
ハキハキとした口調で神楽坂先輩が問いかけてくる。
名前くらいは聞いたことがあるが、具体的にどのようなことをしているのか俺は知らなかった。
「確か壁新聞とか発行してますよね? 週に1回」
「ああ、あれマスメディア部のだったのか」
聞けば、マスメディア部はその壁新聞だけでなく、保護者向けの学報の作成や、学園ホームページの更新、さらにはSNSへの投稿などなど、幅広い分野で活動を行なっているそうだ。
「マスメディア部って部員がたくさんいてね。壁新聞の記事の掲載なんかも毎回争奪戦になったりするのよね」
「ぐ、具体的には企画をプレゼンして、それが部長のお眼鏡に叶うかどうか」
「そう! やっぱりマスメディア部に入ったからには自分が調べて書いた記事を皆に見てもらいたいじゃない。だから今回、百目鬼と二人で企画を立てたの」
その企画というのがーー
「心霊特集よ」
ふふふ、と怪しげな笑みを浮かべながら神楽坂先輩はそう言った。
「二人は最近、この学園で色々な怪談が広まっているのは知ってるわね?」
「……ええ。
桐花が苦々しい表情を浮かべながら答える。
またですか。という心の声が聞こえそうだった。
「この学園の皆が注目しているからね、話題性はバッチリ」
「お、オカルトとエンタメは切っても切れない関係」
「だからね、学園で特に話題になっている怪談についてピックアップして、実際に取材して特集を組もうと思うの」
「そこで相談部の二人には、し、取材に同行してほしい。最近色々な心霊相談をう、受けてるんだろ?」
そう言って二人揃って頭を下げてくる。
「……確かに心霊相談はいっぱい受けてきましたが。でも私たちがやったことって、怪談が嘘っぱちだったことを証明することだったんですよ?」
困惑したように桐花が答える。
「私たちに同行を頼むって、怪談の正体を明かして欲しいってことですか? そんな心霊特集面白いですかね?」
これまで受けてきた心霊相談。その正体は全てなんて事のない勘違いか、偶然が重なった結果によるもの。
怪談であるうちは恐ろしく、間違いなく人の興味を惹きつけるものだっただろう。しかし、その正体は毎回毎回拍子抜けするものだった。
手品の種を明かすようなものだ。正体がわかれば面白さは半減する。
事実、桐花が正体を解き明かした噂話はその後沈静化し、全く聞かなくなった。
「ああもちろん、怪談の正体がわかったとしてもそれを記事にするつもりはないわ。わざわざ記事をつまんなくすることなんてしないわよ」
「じゃあなんで私たちに同行を?」
「それは……百目鬼。説明してくれる?」
神楽坂先輩の目配せに百目鬼先輩は頷いた。
「い、今。この学園ではオカルトブームが起きている。で、でも、噂の流れ方がおかしい」
「おかしい?」
「うん。お、オカルトブームってのは日本全国どの学校でも起きるものなんだ」
「コックリさんとか、トイレの花子さんとかっすか?」
「そ、その通り。で、でもそういったブームは一つの学校だけじゃなく、その地区の他の学校でも同時期に発生するのが普通なんだ」
百目鬼先輩は、辿々しいながらもどこか目を輝かせながら説明を続ける。
「怪談なんて、すごく広まりやすいんだ。じゅ、塾の友達とか、違う学校に通う兄弟とか。そういったところからインフルエンザみたいにどんどん広まって、気づいたらみんな知ってる存在になる」
「確かに、コックリさんと花子さんの知名度は全国区ですね」
桐花は納得したように頷く。
「で、でも。この学園の怪談は全く広まっていない。色々なツテを使って調べたけど、近くのどの学校も、お、オカルトブームなんて起きていない。この学園だけなんだ」
「そりゃあ……なんでだ?」
「考えられる可能性は一つよ」
ここで、神楽坂先輩が割り込んできた。
「誰かが怪談を意図的に広めている。間違いないわ」
確信に満ちたセリフ。
「怪談は徐々に徐々に広まっていくもの。なんらかの形で生まれた怪談が噂話と言う形で人から人へと伝わり、それが数を増すことでオカルトブームは自然発生する。でも今回は広まる速度が早すぎる。よその学校に広まる前にこの学園全体に浸透するほどよ? 誰かが怪談を広めて、局地的にオカルトブームを作り出した。そんな黒幕がいるはず」
「黒幕」
つまり、人工的に作り出されたオカルトブームだと。
「これってすごいことなのよ。一つのブームを作り出すなんて、マスメディアを名乗る者にとっては悲願だわ。私はぜひその人に会って、どうやってこんな風に噂話を効率的に広められたのか聞いてみたいの」
「つまり、私たちへの依頼はオカルトブームを広めた、その黒幕を突き止めることだと」
「その通りよ」
期待に満ちた神楽坂先輩の目。
「……桐花ちょっと」
その目から逃れるようにしながら、俺は桐花に耳打ちする。
「お前どう思う?」
「どう思うって、何がです?」
「いや、そんな噂を広めた黒幕なんて本当にいると思うか?」
マスメディア部の二人はオカルトブームを作り出した人物がいると確信しているようだが、そんな人物が存在するかどうかどうにも怪しい。
「確かに、神楽坂先輩の話は推測に推測を重ねたもので、論理が飛躍しているように思えます」
「だろ?」
「ですが矛盾しているわけではありません。私自身、本当にそんな人物がいるのならなぜこんなことをしたのか気になります」
桐花の目には好奇心による光が宿り始めている。
「……ってことは、この依頼受けるつもりか?」
「何をそんな嫌そうな……あ、もしかして吉岡さん。怖いなんて言い出すんじゃないでしょうね? 我慢してください」
「……ちくしょう」
有無を言わせない口調。こうやって何かに興味を持った桐花を止められたためしがない。
桐花はマスメディ部の二人に向き直り、高らかに宣言した。
「いいでしょう! 謎の人物探しは、この恋愛探偵、桐花咲にお任せあれです!!」
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