第7話やめてくれ!

「殆どばれてるじゃないのよ」

だが、瑛美は吠える・・・


「あなたのやり方・・・危険すぎると思う。」


「ふん」


「学校中にわたしたちのことがばれたら一体どうするつもりだったの?」


「ばれるわけ、ねーだろ。現にばれてないし。人間にこんなことがわかるはずがないさ」


確かに…血を吸ってしまえば、記憶も消すことが出来る。多摩川は考える。


「たしかに。」


「俺が付けたマークで、お前らがどうするかなと思って見てた」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「ナマイキな。」

多摩川はえいみの顔を見る。


それから気を取り直した瑛美は多摩川に向かって話しかける。


「ねえ。気づいてたのね」


「・・・」

瑛美は多摩川を改めてじろじろと見まわしている。


「あなたって、一体何なの?」


多摩川は黙って首の後ろを搔いている。


「人間?」


「・・・うん」



「たぬき寝入りして、わたしを観察してたの?」


「ごめん。」


「どうして?」


「えいみさんに血を吸ってほし・・・吸わせてあげるためにだよ。」


「わたしに?」


「うん」


「何で?」


「それは・・・まだ言えない」


「ええっ?!」


「ごめん約束だから。」


「だれと?」


「言えないんだ」


「・・・」


「・・・」


「けどじつは、君のことはもうぜーんぶ知ってるんだ。だから」


「へ・・・」

K田はふんという声を吐く。


多摩川は頭をかきかき話し続ける。「あとあなたのお父さんとも、話したし・・・・いろいろ。」

「へっわたしの・・・お父さん?!」


うなづく多摩川。

「会ったの・・・!?」


「うん」


「お父さんが、、、、?」


瑛美は腕を組んでいたのをほどき、その場に立ち尽くしている・・・それをつまらなそうに見つめている生徒。その二人の前でふたたびうなづく多摩川。


ーーは!

「まさか。もしかして・・・」


どこかから立ち上がる瑛美。


「クソ!アイツ、いろいろ細工を・・・!」


物覚えがありまくり、たじろぐ多摩川。




「昔みたいに・・・・わたしの記憶を盗み見しやがったな!」

しーん!


(とととと。。。。)




ーしかし、二人がお互いの話に没入しているうち、気付けば多摩川の首は誰かの腕でガッチリと押さえられていた!


それは、K田(※生徒の名前)。

「ははは。知らんけど、この食糧は俺のものだ」


「あっ」


「やめろ」


「返しなさい!」とえいみ。


「やっだよ~ん」さっと逃げようとするK田と、羽交締めされている多摩川の体。


「多摩川くんはわたしのものよ!・・・て。」

勢いあまって出てしまった言葉に瑛美は今更のようにはっとし、たま川をちらりと見る。


・・・・・・。


「じゃなくて・・・えと、。吸われ過ぎたら具合が悪くなるでしょ!とにかく・・・下ろしなさい!


あぶなっ」


「そんな事は知らん!いま、ここで食ってやる!」

多摩川の耳たぶにかぶりつくK田。





「そんな・・・立ちながら・・・

あぶないでしょ!」


(うう。なんだ、この状況わ…)



「だから、離しなさいよ!とにかく首!このままだとくびが取れちゃうわよ!」

K田の腕を多摩川の襟元から避けようとするえいみ。思いきり、K田の足を蹴っている。


お、俺の取り合いに…???まさか。

「・・・・・」


「ごちゃごちゃうるせーな。」


「そりゃごちゃごちゃにもなります!」


「どけろよブス!」


「おまえがうるさいんじゃこの脳みそ筋肉野郎!」

激しく中身のないののしり合いが続く。


一方で多摩川(

おれが、取り合いの中心に?!)


イヤッ。





・・・ぶんぶん(首を振る)












「ちゅうちゅうさせろ!」

「その発言キモいからやめろ!」


「やめろおおおおおー!」


K田とえいみの顔面をぶんなぐる多摩川。


「いてっ!」「いたっ・・・」




「はあ、はあ。」






「お前ら!


俺のことをとりあ・・・イヤ・・・」




「んだよ」


K田の鋭い視線に見つめられて多摩川が口ごもる。えいみは、顔を抑えて多摩川を見ている。



「あ・・・ごめん」多摩川は思わずえいみまでぶん殴っていた事に気が付きあわてて謝る。



「・・・」



「だから・・・


俺の・・・


じゃない・・・

・・・


・・・


俺、みたいな・・・





じゃなくて。




お前ら。


もうデカいのにさ・・・



ご・・・・





ごごごごごはんの取り合いを、こんなとこでするのは止めなさい!!!」




顔を抑えて座り込みながら、仁王立ちする多摩川を見上げる二人。

ーいっぽう多摩川は、自分がむしろごはんで、ご飯ありきみたいな発言をしたことに顔を赤らめる。


「・・・」


「たまかわくん、どしたの」



「ちょ・・・待って。」顔を抑えて自分を取り戻そうとする多摩川。多摩川は文学青年なので、理想について話しかける事が恥ずかしいとかんがえているのだ。


「いってーな。暴力はやめろよな」


ふたたび多摩川に手をかけて来る純日本人顔のK田。



「んだからやめい!」



「やめへんのよ!」


「はあっ!・・・・俺はっ。

だからな、お前らみたいなのから取り合いされるようなお姫さまじゃないんだってええ!」


「…たまかわくん。」


「いや、おまえらが取り合いをするようなごっ、ごはんではない!って事!」


「・・・」


「ご飯なんだよ。」


「ちゃう」


「……ごはん」


小さい声で呟いたえいみの方を見る多摩川。


「特にお前!」


「は」とK田。


「お前とははじめから約束も何もしてないからな!」


「関係ねーだろ。てかだから、何のだよ」

えいみが多摩川のことをチラ見して来る。


「それは言えん」


「あ〜ん?それじゃ話になんねえな。」

「まだ、言ってんの」


「俺は腹が減ってる。それでお前はごはん。」K田がそれぞれを指差す。「そのうえで、一番取りたい奴が取る、でいいだろ」


「しつっこいわねえ。だからそれじゃ立ち行かなくなるからこんなふうになってるんじゃない。

だから順番をね…」


「こんなふう?」

生徒が屋上に今しがた降り立ったトリかラルクみたいにその場で手を広げて言う。

「・・・」


「順番にね」


「それにはっきり言って…耐えがたい、って…」


「なんだよ」


「おまえみたいなでかいのがな!俺の耳からスポイトみたいに・・・耳から・・・て。



本っとうにいい加減にしろよ!」


「ああ?!仕方ねーだろ!」


「しかたないんかいな!!」

耳を抑えて、思わず怒鳴るたまかわ。


「・・・・」さすがにだまるK田と、それを人ごとのように見つめるえいみ。


「だから、なんっで俺をふたりで・・・」

耳やら首やらをさすりながらも、ちらとえいみを見る多摩川。


「てか、そだ!普通のものがたりの流れとしてはえいみさんを真ん中に置くべきなんだ!」


「は。」


「女のコから取って、きゃーってなるのがいちばんぞわぞわしなくって滞りがないのに・・・俺・・・・どうしちゃったんだろう?!」


「しらんわ」と生徒。

多摩川はすだれみたいにその場にお姉さん座りをしているえいみを指差していた。

えいみが自分を指差してきょとんとしてから、多摩川の方を逆に指さして、微笑む。

それから口ぱくをしながら、

「・・・・・ご、は、ん?」


うなずき、にっこりとほほえむえいみ。


(それはそれでかわいい。)




ーいっぽう、それをしらけた目で見ているK田。

K田はえいみの方を見た。

それから、K田はつかつかとえいみの方へと近づいて来る。


「なによ」K田が、えいみの顔あたりの匂いをくんくんと嗅ぎながら顔をイノシシみたいにしかめる。

「うげっ。コイツ…不味そう」

はっという顔をして、声も出ないえいみ。



「知らぬわ」




「こいつはどう考えても食べ物じゃない。」


「そりゃそ・・・吸血鬼同士だからでしょ」


「ちっげーよ。」ふたたび多摩川の匂いを嗅いだ後で、くんくんとえいみのにおいを嗅ぐK田。

「うげっ。こんなの、食えんわ…」

ふたたび、イノシシみたく顔をしかめアピールして来るK田。

「しつこいっつうの」


「そんな事ないだろ」



「おまえ、毎日ちゃんと風呂はいってる?」K田が、真顔で瑛美に向かって問いかける。

顔を真っ赤にするえいみ。その横でたまかわがぶっと吹き出す。





「あ、当たり前でしょ! ! ! !」


「あのな。そういうこと、思ってもない事をおまえ、女の子相手に…」小学生か。


多摩川はK田に突っ込もうと思ったが、それを遮って「うるせえ!」とK田がほえる。



「腹がへった!食いたい!食わせろ食わせろ食わせろーーーー!」

すぐさま、K田が手を伸ばし多摩川の制服を掴もうとする。


「ちょ…だから、落ち着きなさいよ!」えいみがK田を蹴ろうとする。「そうだ落ち着け!」


「いやだ!!」


「落ち着いてるわ!」


「いいや落ち着いてない!」


「どこがだよ!」


「だっ・・・こういう流れだよ!!」


「ああん!?いま、イチバン良いとこだっただろ!」


「そりゃあお前にとってはな!」


「…多摩川くん、足踏まないで!」


「あ!ごっ、ごめん」


多摩川からK田が手を離してからも、瑛美とK田はしばらくの間争い合っていた。


数秒、その争いを棒立ちでみまもる多摩川。


「あの…」


ぎゃー!ぎゃー!


「ねえって」


うぎゃー!


「だから、、なんかこう、むずむずするから、俺を…ごはんみたいに扱うな・・・・って。」


ぎゃーす!ぎゃーす!


「おい。」


ぎゃあぎゃあ!


「ていうか、とにかく取り合うな!」ひときわ、でかい声で言う多摩川。


「……だってよ、ブス」

K田がえいみの顔をまんじゅうのように手で押し避けながら言う。


「だから・・・・特にお前!おまえだよおまえ!」



「あん?」



「おとこが、俺の耳からちゅうちゅうしてくんの止めろーー!!」






多摩川は、近づくK田からあとずさり、耳を女子生徒みたいに抑えながら走っていく。そしてそのまま屋上から階下へと飛び出していった。


(多摩川くん…、、、)

残され、立ち尽くす瑛美たち。




「あーあ。行っちゃった。お前のせいだぞ」


(これまで会っている間…いったい何を考えてたんだろう。)


瑛美は、多摩川がやけに近くに来ていたのにはわけがあったのか・・・とあらためて、先ほどから言われたことを思い直した。


(あと、腹へった…)

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