第4話俺って食糧タイプ

二人は今日も、屋上で焚き火にあたりながら座っている。


(多摩川くんって、ちょっとヘン…よね。でもカッコいい…かも)


こんな昼間から屋上で焚火をしている多摩川と、それを隣で座りつつ見つめている瑛美。

多摩川はそこでざっ、ざっと木をひっくり返している。

「多摩川君て・・・何で皆のところ行かないの?」

「ん?考えごとしたいからかな」

「ふうん。」


「気になる?」

「うん。

・・・焚き火、何でするの?」

瑛美の顔を見つめる多摩川。

「・・・」

「落ち着くから。多分」


ボオーボオーと燃える焚き火。それからその前に座る多摩川を眺めるえいみ・・・


(これが…ニンゲンの男の子)

その時、瑛美のお腹がぐぐぐう〜と鳴る。


「あっ。」

「どした」

「べつに・・・なんでもない」

瑛美はうつむいて火のぱちぱちを眺めている。

「ちゃんと食べて・・・・」


言いかけてはっとした。そうだ・・・僕が瑛美さんの食糧なんだった。多摩川はふと思い出す。それから永続的に・・・僕がえいみさんに定期的に血を分けてあげなきゃならないんだった。

(それがおれの役目。血肉族の使命・・・か)

だが、多摩川はふと思った。この場合どうやって「自然に」分け与えればいいんだ?

ちらと瑛美の方を見る。瑛美には父親から多摩川の正体をばらすことは禁じられている。よくは分からないが、ばれるまで、現状維持・・・・それが契約なのである。

瑛美はそこに座って多摩川の持ってきた本の一冊を手に取り読んでいる。


多摩川は考えた。そして10秒後、もっともそれは単純な方法を選んだ。


「ハア~~。なーんか、眠くなって来たな」

いそいそとジャンバーを着込み寝る支度をはじめる多摩川。

「・・・・どしたの」

「瑛美さん。

ちょっと、俺寝るわ。」


「え」

多摩川屋上の床に横たわり、寝ようとする多摩川。だが、何か恥ずかしくなって瑛美に背を向けて寝たふりをしてみることにした。


それから焚き火の前で死んでしまった人間のように動かなくなる。


(イッツマイ・・・焚き火スタイル)





瑛美は本ごしに多摩川の背中を見つめている。

(何してるの?この人・・・)

たしかに昼休みが終るまではあと20分近くある。眠くなったら始業準備のチャイムが鳴るまで・・・昼寝をしてしまってもいいのかもしれない。瑛美は立ち上がり、多摩川の顔を覗き込もうとする。すると多摩川は既に寝息を立てて眠っているようだ・・・

ぐうう、とまた瑛美の腹が鳴る。

瑛美は最近ナワバリとのタイミングが合わなくてかなりお腹が減っていたところだったのだ。

だから多摩川の顔を覗き込み、眼球運動をたしかめたあとで首筋が見えるように、おそるおそる多摩川の襟についているボタンに手をかけた。


・・・・・・


ぱち、と焚火の火の音がなり、瑛美は多摩川の首筋を見る。

「・・・・」それからそこへ顔を近づけて行く・・・・



かぷ!

(よしよし。来たな・・・)


ちゅうちゅう


(よしよし。吸ってる吸ってる。)



・・・・多摩川は、昔飼っていた犬のことを思い出していた。

でも今は俺が…ニク…なのか…




ーーーーーーー



多摩川が屋上で目を覚ます。

まだ、多摩川は屋上に居て、気が付くととキンコンカンコンとチャイムが鳴っていた。

視界に広がるのは雲ひとつない青空。

起き上がり、自分のいる屋上を見回してみる。


瑛美の姿は既になかった。

多摩川は腕時計を見て、さっき二人で会っていた中休みから既に3時間も経過しているのを知る。

「え?!」

多摩川は驚き、立ち上がる。が・・・・足元がフラフラして、思うように歩けない。

多摩川はよろけて膝をついてしまった。こんなことは小学三年生の柔道の授業で投げ飛ばされて以来初めてのことだった。


・・・・えいみさんの術は僕には効かないはず。

多摩川はもう一度腕時計を確認する。15:45。既に放課後になっているーーーー





多摩川は階段を下り、2年生の教室がある3階までたどり着く。

瑛美のクラスは2年2組。その教室の前まで来る・・・

それから、友人と話しているえいみの後ろ姿を確認した多摩川は、そのまま了承もえずに瑛美の手を取った。

「えっなに!?」

「瑛美」友人たちが驚いて声をかけるも、多摩川はまじめくさった顔で瑛美だけを見つめている。

たじろく瑛美。

「多摩川くん・・・?どしたの?」

が、多摩川は何も答えずに瑛美をそのまま引っ張っていく。

「えっ・・・帰るの?」

「ごめん、ちょっとこの人借りていくね」

多摩川はそのまま教室を出る。

それから驚いている瑛美に説明もなしに、4階にある、普段なら誰も来ない男子トイレへ連れてゆこうとする。

「ねえ、どうしたの?」

「・・・」

「ねえ」

「ごめん・・・」


・・・君の家族に命を狙われたら、ひとたまりもないから。


多摩川は無理やり、まだ驚いている瑛美の口に自分の口を重ねる。






ーえいみの記憶の中。


焚き火の前で死んだフリをする多摩川。

おどろき、けれど首元をチラチラ見ている。

それから、周りを半径五メートルほど歩き回り、人がいないことを確認する。


それから瑛美は多摩川の首にかじりついて、血を吸う。

(久しぶりの・・・おいちー。)ごくごくごく


・・・俺の血の味…うぇっ

多摩川は瑛美の記憶の中でその全てを味わってしまった。

それが終わると、瑛美は多摩川の傍らに座り込んで10分ほど顔をじっと眺めていた。

それから瑛美は眠っている多摩川の唇に指を付けてみる。

(何やってんねん・・・)

何やら、感触をたしかめているようである。

(ちょっと好きかも)

瑛美が、心の中でつぶやく。

いや、ちょっとどころではなくーーー

瑛美の父がかけた催眠のことを知らない多摩川だが、すこし驚く。

・・・・・

それから瑛美は立ち上がったかと思うとふたたびドアの方へと行き、ドアへと向かう。






ー現実。

トイレの中にいるえいみと目を合わせる多摩川。

「た、たまかわくん、、どうしたの…」


えいみは多摩川の術のせいで眠そうにしていた。



(えいみさんに悪意はなかった・・・それに…父親ともまだ僕のことを話していない。)

じゃあなんで3時間も眠りこけてしまったんだ?まるで吸血鬼の術にはまってしまったみたいに。


多摩川は眠ってしまいそうな瑛美を半分背負い、男子トイレから女子トイレへとうつしてやった。その便座の上でくうくうと眠っている瑛美。・・・とても吸血鬼とは思えない。

いま、起こしてもいいが多摩川はそれよりも早くこの事に関しての情報を集めたかった。


瑛美を置いたままで出ようとした多摩川が、トイレから出る間際。

そこにある、手洗い場の鏡が多摩川の視界に入る。


ーーん。


自分の首にある、えいみさんが付けた傷跡。

・・・こんなの、あったんだ。

あらためて見てみるがそれは、キスマークとかよりもっと小さな点でしかない。よく見てみないとなんだかも分からないくらいの・・・

が、多摩川の目に止まったものはもう一つあった。それはーー耳元にも傷が付いている。


「これは・・・」


たしか、倒れた3年生にも付いていたものだった。








「うーむ」

瑛美の父が多摩川についている二つの傷跡を凝視していた。


多摩川は学校帰りに瑛美の家へ寄ったのだが、いまは父親の部屋にいる。制服を着たまま客用のソファの前に立っていた。


「まあ、座りなさい」



「はい」



「ふむ・・・。これは、ナワバリの誇示だな」

父が言う。


「誇示・・・?」

「ああ。アピールだ」

「なんで、そんな事を?」

「さあ。わざわざこんなふうに人のナワバリを襲う吸血鬼がいない事もないが、これは明らかにメッセージだな。上塗りしようとしてるんだ…」



「上塗り」

「食糧として」

げげっと思う多摩川。

「これはえいみさんのでは、ない」

「ああ。他にも誰か、吸血鬼がいるようだな。多摩川くんは何か気が付かないか。」

「え、何がですか」

「気配とか何か…」

多摩川はふと、先日友人から聞いた3年生のことを思い出していた。

「ええと・・・でもまだ、言うほどのものじゃないです。」

「そうか。」

父は何かを考え込んでいる。

多摩川の視界を見る事も可能だが、ちと厄介だな。人間という生き物の場合、長い付き合いにおいてシンライカンケイは何よりも必須ーー。

子ども相手であってもそれを裏切ることは・・・結果損でしかない。父は考える。


「・・・これは、かなりの量を吸ってもいいと思ってるようだな。」

「・・・分かるんですか」

「ああ。一応。わたしもその仲間だからな」

「・・・」

「今後も気をつけなさい。」

「はい」

「そのことと、君の眠りが深過ぎることもそれと関係があるか、それか個別の能力なのか…分からない。」


「・・・・・」


「はっきりいって、進化をすべて追ったわけじゃないから、特に君たちのことは・・・よく知らないんだ」

父は多摩川に初めてのことを言う。

「・・・えいみの他に未知と出会う感触、いったいどう感じる」父が多摩川に尋ねる。


「いや、危険としか・・・。僕も混乱しています。」


「そうか。」


「だから一応、話をしに来ました。」


「そうか。そうだな。これからは、危険がいっぱいだ。

・・・こいつはおそらく、共存についての教育も受けていない。」



(当然いつか会うだろうな。瑛美とも・・・だが・・・)


できれば自然なスタイルにしたい。


「会ってしまえ」ばいい。それでその時に起きたトラブルを解決させる。それが教育なんだ。(瑛美の)



真剣な顔をする瑛美の父親を見つめながら考えるたま川。







まさか…


俺が、ソイツの食糧?!

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