第2話瑛美さまが操るのよの巻



すると女子生徒は立ち上がり、瑛美の方を見て立っている。「おはよう。」

瑛美がそういうと、女子生徒が瑛美と同じように「おはよう。」と喋る。



「あなたの名前を言って」


「ーーーーーーー」

女子生徒はすらすらと応える。こんな風に、情報を聞き出す事も10分の間なら可能である。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この漫画内での吸血鬼の能力は、色々とある。


①血を吸った後の10分間行動を操れる


②吸われた人間の記憶を消せる(※前後10分のみ)


③記憶は覗くことができません


④縄張りがあるので、普段は同じ人間を吸う(だいたい5〜6人)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「〇年〇組の多摩川くんのこと、あなた知ってる?」

瑛美は女子生徒に向かって尋ねる。


「・・・・・」


「ねえ」


応えない。


「教えて。◯年◯組た、ま、か、わ」


「・・・多摩川君は一年の終わりに引っ越してきた生徒。一人っ子で・・・あとは知らない」


「ふうん。


ありがとう。おやすみ」


(去年引っ越して来たのか…おんなじクラスの子に聞かないとだめかもね。ああ、こういうときのためにちゃんとクラスの子達を観察しておくんだった。)


瑛美はトイレのドアを少しだけ開け、外を見回す。



生徒が血を吸わせてから7分が経過していた。












休み時間。


自販機の前で、ちゅうちゅうと紙パック飲料を飲むK田。

真っ黒い前髪が両眼を覆い、何を考えているのかよく分からない。

「また、うちのクラスの生徒保健室行ったよ」


「またあ?」


盗み聞きするK田。


「体育の授業のあと、そればっかりだな。もうこれで、7人目。」


「なんか、あれみたいだな。去年の夏も、クラスで鼻血出る生徒が続出して・・・」


「それは、暑いからだろ」


「暑いからじゃない。」


「ええ。」


「痛みがあったわけでもない・・・・なあ。何か、怖くないか」


「お前も出したんかい」


二人の生徒が横切るのを、K田は無言でやり過ごす。









「はー。」


一方、体育の授業中の瑛美たち。今はバスケットボールのシュート練習の真っ最中だ。

しばらく列になってシュートを入れていたが、教師が笛を鳴らす。

体育館のステージの前へと集まり、皆で挨拶をした後で授業が終る。


(疲れた。ああ、お腹が減る・・・)

着替えたあとの生徒たちにまじって、ひときわがぶがぶと水を飲む瑛美。


(もうすぐ、昼休み。

時間はそんなにないけど、行ってみよう・・・)






自分のお弁当を持って、屋上への階段を上がっていく瑛美。

それからドアを開ける。

ガチャ。


(・・・いない)


まだ、誰も来ていないのを確認する瑛美。

7月の屋上には、昼休み中の生徒たちの声が響いて聞こえてきている。






数分後。ガチャっと、屋上のドアが開いた。

黒い影が入り込む・・・

瑛美は息をひそめて待っている。


(・・・・・・・)


「瑛美さん」


「・・・・」


屋上へ来た多摩川が、えいみの目前に立っている。

屋上には貯水層が備え付けられているのだが、フェンスの張り巡らされているその場所のできるだけ高いとこに丸まって伏せている瑛美を多摩川が見上げていた。


「・・・・・」


ばっちりと目が合う。不審者か泥棒か猫みたいないでたちの瑛美と多摩川。


「。。。。」



「おいで」


多摩川が、瑛美に向かって手を差し伸べた。


「・・・・」

瑛美は多摩川を見下ろして見ている。

(なんでこんなとこに、わざわざ乗っかったんだ、、、)多摩川は思う。


瑛美が多摩川の手に手を伸ばす。それをくいっとひっぱり、軽く抱き抱えて上から降ろされた。


ふわっ!



多摩川の首筋が瑛美の鼻の近くへと寄った。



・・・・・・


・・・・・




「はい。何してたの?あんなところで」


とん!と床へと、下ろされる瑛美。瑛美は多摩川の顔を正面から眺めている。


「え・・・えと。観察」


「何の?」


「く、空気・・・」


「空気」


瑛美は、不審者感をぬぐいさるために奮起しようと思った。流されるままではいけない・・・!ばばばばばhと髪の毛を直す瑛美。

「お弁当食べてたの。ほら。」


「あ、ほんとだ」


「多摩川くん、のやってることが変だったから、なんだかちょっと気になったの」



「ああ、そうなんだ。」


・・・・


・・・・・



さっき、多摩川が起こした焚火の前で弁当を無言で食う二人。


「いつもこんなことしてるの?」


「うん。」


「ふうん。どうして?」


「一人が好きだから」


「なんで?」


「なんで、って。」多摩川は瑛美の方を向きなおした。「なんでか本当に知りたい?」

うなずく瑛美。「必要なの。・・・・・・・理由。」


「うーん」

多摩川は上を見上げて考えている。



「・・・ねえ。わたし、今日多摩川君の家いってもいい?」


「い、いえに?」


「うん」ニコ!


「はやくない?」


「なにが」


瑛美に問われてからはっとする多摩川。

ーそうだった、すっかり忘れていたが、付き合ってるという設定を設けたのは自分だったのだった。


「でも俺の部屋、汚いよ」


「きたない・・・?」


瑛美は想像してみる。

ばちばち燃える火に木をくべる多摩川。

この人、何かを企んでいるのかな?それとも・・・

えいみは考える。


「瑛美さん」


「ん?」


「僕が何をしても怒らない?」


????

瑛美は多摩川を見つめている。

瑛美はそのときぷ~んと飛んできた小さな蚊がそのへんに止まるのを眺めた。


「その、一か月後なら来てもいいよ。部屋、片付けておくから。」


「いっかげ…!

…う、うん。分かった。」


よし。とりあえず…部屋をあさろう。えいみは考えていた。


彼女かあ。多摩川はふと考える。そういえば好きな子自体、小学校の6年生以来できたことってなかったな。恋人は吸血鬼・・・かあ。ちらと多摩川は瑛美の方を見るが、一見ふつうの人間の女の子にしか見えない。

いーのかな、部屋で二人で、餅つき大会みたいのをはじめても・・・・・





「勉強とか、してる?」

多摩川が瑛美に向かって聞く。もう焚火も大分いい頃合いだ。とか考えながら。


「うんまあ、ぼちぼち」


「ふーん。


そういえば瑛美さんは、倒れたりしないの。貧血とかで」




「しないわ。」

思わず、立ち上がる瑛美。そのとき、ぐうっと瑛美のお腹が鳴る。


多摩川が瑛美の顔をじいっと見ている。


「なんでもない。」


「ん?」


「いったい何?」


「いや、ちょっと。

最近3年生が勉強疲れで倒れる生徒が続出しているみたいだよ。うちのクラスでもこの間一人。保健室に運ばれて…」


そういえば瑛美もその話は聞いたことがあった。まだみぬ「ジュケン」に対して瑛美は周りの生徒程の恐れを持っていない。

「大変ね。じゃ、多摩川くんはないの?」


「まさか」多摩川は笑う。

「僕、そんなに勉強しているように見える?」


たしか、多摩川の成績はクラスでも上から指で数えられるほどだったと瑛美は記憶していた。

ーケンソンってやつね。

(多摩川君は注意深い・・・と。)瑛美はこころのメモ帳に書き入れておいた。


「大丈夫よ。わたし、勉強ならきちんとやっているし。倒れるなんてめったにないわ。」


「ふうん?」









キーンコーンカーンコーン


六時間目の終わりのチャイムが鳴り、ぞろぞろと生徒たちが帰宅する。




ーだが瑛美はまだ校内に残っていた。

そしてトイレで生徒が来るのを待ち伏せしている…。部活前にナワバリの一人がここへ来るのを知っている。ざわざわと生徒たちの声が聞こえ、だが今日は男子トイレの方からしか音は聞こえて来ない。えいみはそのまま、便座のひとつに腰掛けてナワバリが来るのを待つ。


5分…


10分…


…が、来ない。


ナワバリを確保している瑛美は待ちの体制で食料を調達することに長けていたから、こんなことには慣れっこだった。・・・が、今日多摩川の血を吸うのをうっかり忘れていたせいで、その期待のせいでいつもよりも腹が減っている気がしている。

(ちっ)


帰宅をうながすチャイムが再び鳴る。これが終ると廊下の電気がだいたい消され、玄関にも鍵がかけられてしまう。部活の生徒は専用の出口から出入りしているが、えいみは家へと急いで帰る。


瑛美は二階へと昇り、父の部屋をノックする。

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