ヴァンパイヤの生きのこり!

朝川渉

第1話やっちまってから考えるタイプ

★プロローグ★


瑛美は代々吸血鬼の家系に生まれた。父親は数学の権威で、世界を牛耳っている。

吸血鬼というのはもちろんウラの顔で、世の中に散らばる吸血鬼の生き残りのためにスクールを経営していたのだが、人数の減少がとまらないために解体された。瑛美は、特別スクールを辞めさせられたあとで一般の義務教育へ放り込まれることになった・・・


吸血鬼は血を吸わないと生きていけない。スクールには随時で検体が提供されていたのだけど、これからはたったひとり狩りをしていかなきゃならないの?!


父は瑛美に教え込んだ・・・

「吸っていいのは一日6人まで」

「問題を起こさない」

「問題は自分で解決する。それが新しい吸血鬼のかたち」


とのこと…


瑛美はだんだんと盗み食いするのにも慣れてきた。




★★★



「ふうー」今日も、ひとりの生徒の生き血を吸い終わり、トイレで項垂れている生徒を見つつ口元をぬぐう瑛美。


(すっきりした)


いっぽう、血を吸われた生徒は仮死状態で、放っておけば十分間眠り続けるし、前後のことを記憶していない。記憶を操作する…これは代々吸血鬼の家系にある唾液のために使える能力なのである!

ただ、ちょっと不味い。瑛美はそう感じていたが、最近はずっとこんな調子だった。運動不足?それとも、食品の偏り??環境汚染…分からないけど、とにかく血がまずい。吸っても吸っても、お腹は満たされるけどボーッとしてくる。


今日、たまたま立ち寄った屋上でフラフラしていた瑛美の目に入ったのは、サボっている同じクラスの多摩川くんの姿だった。

「何してるんだろう?」

多摩川はそこで焚き火をしていた。

「…?」

それから、ごおごおと燃える火の前で本を読んでいる。・・・そういえば、教室でもずっと本を読んでいて、周りの輪にも加わっていなかったっけ。鞄の中にはまだ沢山の本が入っていそうだ。

瑛美は興味本位で多摩川の血を吸ってみる事に決めた。



・・・・



グウグウ眠っている顔を見ながら瑛美は、多摩川の首筋にかぶりついている…あれ?!ちょっと違う。この人「健康」なのかも…

と、見てみると眠ってあると思っていた多摩川は目を開けて瑛美のことを見ている。


「?!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈父の側〉


瑛美には黙っていたが、これはプロジェクトなのだ・・・。

多摩川はわたしが見つけ出した先祖代々伝わる血肉の家系。血肉の家系の人間は、吸血鬼の食糧とされていたのだ。いわば、奴隷…が、戦争が起きた事で時代は変わった。わたしは、多摩川の家へ行った。


「了承してくれるか」


「分かりました」


こうやって、契約は成立したのだ。瑛美は多摩川の血をちょっとだけ吸い、それから多摩川は瑛美の食糧としての摂生につとめるのだ。ははは


・・・こうすれば、狩をする事なく瑛美は安全に食いつないでいくことができる。ただ、記憶をちょっとだけ操作する。お互いに、相手を見つけ出せるようにしておく。※吸血鬼は記憶を操作できる(のぞき見することは基本できないので、会話で確認する)

このプロジェクトを運命の赤い糸作戦と呼んでおこう。


それから、瑛美には黙っていたのだが、瑛美にも細工がしてある。それは…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〈多摩川の側〉


吸血鬼の家系は知らないかもしれないが、実は吸血鬼が減っているのは戦争や食糧不足のせいではない。こちらの血肉の家系も進化しているのだ。代々血が混じり合うことでこちらも、記憶に関わる能力を手に入れた。それで、代々吸血鬼と結婚する事で吸血鬼の能力を弱体化させて人間にさせて来たのだ。

その能力は…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


多摩川は、瑛美とそこで口を重ね合わせてみる。


「???」

瑛美は、吸血鬼のことはよく知っているのだが、人間界の風俗に対する知識は小学3年生程度だった…

(何してるんだろう、この人?)


「よし」

多摩川はそこで、離れる。瑛美は多摩川の顔をじっと見ている。

「何してるの」

「君こそ」



「え?」


「僕は本読んでただけだけど…」


あ!そうだった。気づけば、瑛美は獲物を捕らえたライオンみたいな体勢で多摩川の首元をながめていた。


「えと、、目に、ゴミが」


「は?」


「いや、その…でっかいゴミ箱が、その

飛んできて」


瑛美はたまたま近くに立っていたデカい蓋付きのゴミ箱を足で蹴っ飛ばす。

ゴロンゴロン!


「・・・・・・・・・・・・」


中から、ふあ〜っと発泡スチロールのゴミが舞い上がった…



多摩川の家系は、こうやって口と口を重ねることで、吸血鬼の記憶を手に入れる能力を持っているのだ!

それから、その度に吸血鬼の能力をしばらく弱体化させることが出来る。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「?!」

そのとき、瑛美の記憶を見ていた変態の父はトイレで立ち止まった。

「多摩川のやつ…」



「そういう事か!」


※父は、瑛美の視界は見えるが、多摩川の思惑までは見えていない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やっぱり、瑛美さんも、彼女の父親もこっちの能力については気付いてないようだ」



多摩川はゴミ箱を片付けながら焚き火に当たる瑛美(※弱体化中)を見つつ考えている。

―俺の、母さんはこう言っていた。私たちの家系はそのために存在している…争いは好まない。ただお互いがヒトの世界に溶け込むために血を繋いでるの。

※たまかわの父は、瑛美の一家のように代々続いている家系ではない。各所に点在している吸血鬼はどうやら、隔世遺伝的に表れることもあるらしい。


何百年も前に戦争があった。そのことを多摩川はまだ詳しくは知らないが・・・


けど多摩川の思惑はこうだった。瑛美の家に在る「秘蔵の書物」を読んでみたい。あれは、吸血鬼や自分たち、それから数学の答えとかが沢山載っているに違いない。

あと、〇〇〇もしてみたかった。





次の日。

瑛美の父から聞いた吸血鬼の行動パターンがある。まず、彼らは縄張りを持つので、自分がマークした相手を何度も食いに来るのである。現代の吸血鬼はとても用心深い。(ほんとに、そんな生活をしていたのか。)多摩川は話を聞きながら思った。父は言わなかったが、吸血鬼が苦手とするものは実はたくさんあるのだ。たとえば、臭い血。それから、特定のマーク。弱体化する日。などなど・・・もちろんこれを、部外者に言うと命取りになることを知っている。

が、たま川もそれからは母の話を聞いたり瑛美のことを聞いたりなどしてどうするかを考えていた。限りなく溶け込む事ーーそれが父親の目的だそうだ。それは、自分達のして来たことと、紆余曲折はちがえど同じだった。多摩川と父との作戦ではとりあえず、いま生徒を常食しているのをやめさせることにある。そのために、自分は呼ばれている。

たま川はとりあえず何度か瑛美の目の前で隙を見せることにしてみようと思った。自分の能力をまだ、言わないように母からも念を押されていた。


一時間目…二時間目…なかなかそれは訪れない。

四時間目、理科の実験が終わったので、班の生徒を説得して後片付けを一人でするたま川。

「化学倶楽部だったっけ?たま川くん」

「うん・・・いや。」

「じゃあなんで」

「…

趣味。」


ざわざわとクラスの最後のグループが出て行った。多摩川は一人理科室で掃除をしている…



キーンコーンと鐘が鳴り始め、もしかして来ないかも知れないとふと思った頃、後ろで物音がした。


「・・・」


「・・・・」


かぷ!


ーやっぱり、来た。

後ろから忍び足で歩み寄ってきた瑛美がいま、多摩川に齧り付いて血を吸っていた。


ごく、ごく、ごく、、


(やっぱりおいしい。ちょっとちがうかも?

何が違うのかな…)


三時間目の終わり頃から腹が減っていた瑛美は、周りをきょろきょろとしながら血を吸っている。瑛美も、じつはずっと、同じクラスの多摩川の周りから人がいなくなるのを待っていたのだ!

瑛美は、いま食事の真っ最中である。このあいだは邪魔されたが、だいたいこれを1分くらい吸う。父から決められた量。これが、一人から吸い取ってもいい血液の量だった。

父は言う・・・・





人間のもっとも大切にするもの。それは・・・

ぴっ

(??)

父はテレビをつけた。瑛美の家にはいちおうテレビが置いてあるが、それを父が見ているのを見たことがない。

瑛美、わかるか。

知ってるわ。友情。努力。それから・・・

勝利。ってちがうわ。そうじゃない。人間の大事にするものはな、

「命ね。ぱぱ」

瑛美・・・

父さんは瑛美の頭に手をのっけた。

「そうじゃない。今、テレビをつけただろう。人間の大切にするものは、社会性なんだよ。わたしたちにはそれがない。だから、スクールで学んだことを思い出しなさい。

いつでも、思い出せるように。お前には、身につかないから。

爪を研ぐみたいに、自分でノートに箇条書きで書けるようにしておきなさい。」


ぱぱを見上げる瑛美。テレビに映るドラマ。


「それが自分の命のためなんだから」


相手の人間がじたばたしないのは分かっているが、瑛美は獲物を捕まえたライオンのようにして両肩に手を乗せて掴み掛かっている。




「ふう。」


ひととおりを飲み終え、牙を外す瑛美。(けっこう飲んだ)

(静かね)


ふと、多摩川の前へと周りこんだ瑛美が、顔を覗き込む。

「へっ!」

いつもなら瑛美が吸い終わったあとの生徒は眠りこけているのに、多摩川は再び、眠っていなかった。それどころか目を開けてこちらを見ているので瑛美はびっくりし過ぎて後ずさる。


「ど、どうして…効かないの!?」


「瑛美さん」


「へっ…」


「何してるの」


「ええっ。」もちろん、寝落ちすると思っている瑛美には、何の備えもない。

「えと、えと…その、あの…


目に、ゴミが」


きょろきょろと見回し、小道具も手に持ってるものもないことを確かめて絶望する瑛美。



「じゃあ、見せて」


多摩川が、瑛美の目を覗き込む。


「あほんとだ。」


といいつつ、多摩川が再び、瑛美の口にみずからの口を重ね合わせる。


・・・・


・・・・・・・・




一秒二秒三秒と時間が立ち、理科室に立ち尽くす二人の影。


「はあ」


多摩川が見た瑛美は、ぼおっと眠そうにしながら立っていた。

ー今は半覚醒状態みたいなものだから、きっと前後の事も覚えていないかもしれない。自分が不自然に待っていたことも、喋った事も…このまま、立ち去っても問題にはならないだろうと考えた後で…待てよ、と多摩川は思う。


(全く覚えていないのも困るな。)





・・・瑛美の記憶の中。

思った通り、瑛美は自分をなわばりと認識しつつある。けど、かなり警戒しているようだ。自分の能力も効いてはいるが、本能に染み付いている匂いや食欲の感覚は、記憶を薄れさせてもなかなか消えないようだ。

できれば、このまま・・・


ー回想

瑛美の父が多摩川に向かって話す。瑛美宅の書斎にあるソファに二人は向かい合って座っている。さすが世界の権威だけあって、部屋のなかに置いてあるものは高そうなものばかりだ。

「だから、瑛美にそれほど能力を誇示されても困る。瑛美は本当に吸血鬼のことしか、知らないから。瑛美が吸血鬼の能力を過剰に校内で使ったり、だれか別の人を見つけてしまう前に、あくまで自然な流れで行ってやってくれ。

その、思春期だし。」


「それから、君達の一族についての書物もわたしの家にはある。君も見たいと言っていた…」


「はい」


「それも、君にあげよう。ただ、この事がスムーズに運んだのが確認出来てからだ。」








「俺たちは付き合ってるんだよ。瑛美さん」


多摩川はぼおっと突っ立っている瑛美の正面に立ったまま、耳元で囁いてみる。


「へ??」


「だから、僕がこうやって一人でいる時…例えば屋上とか、移動教室とか…トイレ行ってる時とか。そういう時、えーと。こっちへ来るといいよ」


ぼーっと、多摩川を見上げる瑛美。


「え…なんで。」


「だから、つ、き、あっ、て、る、か、ら」



多摩川はダメ押しにもう一度瑛美の口に唇を重ねようとしてみるが、瑛美が


「ちょっとまって!」と叫び、多摩川の顔を両手でおさえる。



「そんな事」

「え」

「そんな話わたし、聞いてませーーーん!!」


それから瑛美ははっきりとした足取りで教室から逃げていった。

残されて、立ち尽くすたま川。





はー、はー、はー、、、



瑛美は校内を走りまくって屋外プールの場所まで通り抜けて来ていた。がら!と中に入り込み、水の溜まったままのプールを尻目に水道の蛇口をひねって噴水状に出てくる水を出す。

じゃー!


瑛美は両目を洗ってみた。じゃーっ!

それから、ごしごしと目をこする瑛美。

「はあ…


どうして、効かないの。


わたしの能力無くなっちゃったのかな?それとも…」


あの人が変なのかも?今までそんな事あったかな…瑛美は思い出してみる。が、ずっと父のスクールで学んでいたのでふつうの生活と言うのが思い出せない。

瑛美はスクールのことを思い出してみた。全国津々浦々からやってきたティーンの吸血鬼達がそこで勉強をし、父がどこかからかわからないけど出どころ不明の検体を運んで来てくれていたから、皆で一緒にちゅうちゅう吸っていた。もちろん、殺してはいない。父と一緒に、検体の人とも仲良くなった…

何故か分からないがそこで十三日の金曜日のビデオを皆で見た事を思い出した。キャーッと言い、皆で話し合った後で作文を書いたり血圧を測ったりさせられたっけ。

ここじゃ毎日のようにお腹が空くので、父から教えてもらった通りにちょっとずつ、吸い取って行くしかない…

あの人。危険な人なんだろうか?

瑛美は考えつつ、焚き火をしている姿を思い浮かべてみる。

うーん…?

が、そもそも「危険」がよく分からない。父の考えるとおり、瑛美の方がよっぽど危険な生き物だった。

「よし」


こそこそと女子トイレに入る瑛美。そこに居たグループ連れの女子達が出て言った後で、一人の女子生徒が入ってくる。背後から忍び寄った瑛美が、生徒の首すじにかぶりついた。


ガブ!

ちゅうちゅうちゅう…







バタっ



(やっぱり。)


じょじょに立っていられなくなった女子生徒は、瑛美が肩から手を外すと床に崩れ落ちた。が、そのまんま丸まって猫のようにいびきをかいて眠りこけている。


(こうよね。じゃあ、なんで?)


瑛美は首をひねる。しかも、今回は何をされたのかも覚えている。(よく分からないわ。みんな)

瑛美は眠りこける女子生徒の上で手のひらを広げ、それをくいくいっと動かしてみる。


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