第9話 近衛第2次内閣が出来るまで
この間、近衛は枢密院議長であった。
平沼喜一郎内閣(挙国一致)貴族院議長 1939年(昭14)1月~同年8月
メンバーは近衛後継内閣の感であった。近衛も平沼の懇願で無所任大臣についた。三国同盟の議論を煮詰めている最中に、突然独ソ不可侵条約が発表されたのである。「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じたので、我が方は之に鑑み従来準備し来った政策は之を打切り、更に別途の政策樹立を必要とするに至ることになった」の談話を発表して総辞職したのである。
阿部信行内閣(挙国一致)陸軍大将 1939年(昭14)8月~1940年(昭15)1月
後継について湯浅内府は、近衛内閣で商工大臣を勤めた池田成彬(三井財閥総師)を推した。「軍部を押さえるためなら死を賭してもいい」と普段の湯浅とは違った並々ならぬ決意であった。「親米派の池田氏を立てることは、正面から軍に喧嘩を売るみたいなものです。池田氏はジェントルマンで政治家ではない、到底軍を押さえられるとは思われない。立てれば血の雨を見ることになります」と云われれば、親英米派の湯浅内府も黙るしかなかった。無難な陸軍大将阿部信行に落ち着いたのである。
組閣直後の1939年(昭和14年)9月、ドイツがポーランドに侵攻、英仏がドイツに宣戦布告して、第二次世界大戦が勃発した。5月から9月にかけてのソ連軍との間で起きたノモハン事件*という混乱する世界情勢の中、阿部内閣は余りにも無力な存在でしかなかった。阿部は「処世の将軍」と云われた人物で、その無能さは直ぐに露呈し、12月の国会では内閣不信任決議が行われ、賛成者276名の氏名が公表されるという始末で、1月に総辞職した。
注:ノモハン事件はソ連との国境紛争であったが、2万人の死者を出し、日本の軍備の近代化に遅れを見せた敗北の戦いであった。事件後であるが、私の父が国境警備に立った時、敵のソ連兵を見たときの緊張を書き記している。
米内光政内閣(挙国一致)海軍大将 1940年(昭和15)1月~同年8月
後継に湯浅内府は近衛を推したが、近衛はまだやる気にはならなかった。経済に自信がないと断っている。後継首班として、近衛は最初は宇垣を推し、後に池田を推したが湯浅は宇垣を嫌った。近衛内閣の時の辞め方はないとしたのである。近衛はそれに拘らなかった、宇垣を認めていたことになる。前回は池田に反対したのに・・近衛の人事は分からないことが多い。湯浅内府が推し進めたのは海軍大将米内光政であった。これには近衛は不満だったらしい。親英米派重臣層の最後の反撃の内閣であった。これには天皇の意思が働いたとされる。米内を押した湯浅内府が6月病気で辞任し、木戸幸一が後を継ぎ内府となった。これは米内には最大のバックを失ったことを意味した。
ドイツ軍の破竹の進撃はフランスも倒し、英国への本土攻撃も近いとされた。情勢は三国同盟を進めたい軍に有利な情勢になった。陸軍は阿部内閣の時の陸軍大臣畑俊六に大命が降下するのではないかと思っていた。当然米内内閣には最初から倒閣の姿勢であった。国会で民政党の斎藤陸夫が「陸軍の対支邦作戦を問う」と言う反軍演説を行った。民政党の親軍派の賛成もあって斎藤陸夫は議員辞職に追い込まれる。これでは議会は軍与党だね。近衛は「新体制運動」を始め、次期への意欲を見せる。陸軍首脳部は「陸軍の総意」として参謀総長の閑院宮載仁親王を通じて畑に陸相辞職を勧告させ、これを受けて畑は16日に帷幄上奏*を行い単独で辞表を奉呈した。陸軍の三長官会議は適任者なしとして後任を出して来ず、米内内閣は8月総辞職をする。
*注:「米内がもっと長く続いていたら、戦争にはならなかったね」と、戦後天皇は侍従長に語ったという。
*注:帷幄上奏(いあくじょうそう)「(軍令事項についての)天皇への上奏」を意味する。帷幄上奏が認められていたのは、軍事のうちの軍機・軍令に関する問題(軍令権)のみであり、残る軍政に関しては陸軍大臣・海軍大臣が国務大臣の一員として内閣総理大臣を通じて上奏すべき問題(軍政権)とされていた。ところが、拡大解釈され、国務大臣である陸軍大臣・海軍大臣までもが、本来は内閣の管轄である軍政一般に関する問題(軍政権)までを軍令権の一部と位置づけて帷幄上奏を行った。総理大臣を飛ばした上奏は内閣不一致の基となった。
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