第7話
「まぁルールっていうか……今更なんだけどね、ほんとに」
まただ。ってかこれに関してはタッピーのミスだ。先に言えよそんな大事な事。後先考えない行動。全くそんな事気にせず度外視して一緒に今まで行動してきた。どちらか一方しか存在しえないなんて考えもしなかった。
だとするとここでまた一つの疑問が生じる。
そもそもこの二人は今までどうやって存在してきたのか。
佐山はタイムスルーして元の世界を壊して並行世界に飛んだ。でもその世界にはもう既に佐山や僕が存在している。じゃあもともといた佐山や僕は、一体どう処理されてきのだろうか。これはまた、恐ろしい話になってきたかもしれない。
「君は既に存在しちゃいけない存在なんだよね」
そうなんですね。すみません。そんな言い方しなくてもと思うけど。
うまくいかねぇな、人生って。
あの時の失敗を乗り越えた。ちゃんと覚悟を決めて、告白を成功させた。しかも実は佐山も僕の事を好きだったなんて最高以外のなにものでもない文句なしのハッピーエンド。だと思っていたのに。頑張ってきたのに。
「僕は、消されるのか?」
タッピーはゆっくりと頷いた。
「一つの世界に、同じ人間は二人存在出来ない。僕はこの目で見たことはないけど、その状況が野放しにされていた場合、世界が重大なバグと見なして全てを消滅させにかかる」
「ほんとに簡単に壊すよな、世界を」
「全くもってね。そうならない為に成り代わりが必要なんだ。飛んできた世界でもう一人の自分を見つけて手のひらで触れるだけ。これで完了。世界は壊れずに済む」
「そんな簡単に? でも、逃げられるだろそんなのーー」
と言いかけて僕は気付く。違う。それは僕の場合の話だ。
「そう。君と僕は特別。バグで動けるから。自分の並行世界での移動なら時が止まってくれるから簡単なんだけどね」
ーーあー、そういう事だったのか。
僕はそこでもう一つ気付く。
僕はずっとタッピーが佐山を探していると思ってきた。その過程で僕と出会っただけだったんだと。
違う。タッピーの目的は佐山だけじゃない。僕でもあったんだ。
タッピーがこの世界にいるリスクは二つあった。一つは佐山のタイムスルー。もう一つは、僕との成り代わりを完了させる必要。
“あーいたいた。やっぱここか”
タッピーはちゃんと口にしていた。あれは僕を探していたからこそ出るセリフだ。
タッピーは、僕を消そうとしていたのだ。
「確認なんだけど」
僕は半ば諦めながらも口にした。
「僕とタッピー、消えるのは絶対に僕の方なの?」
間を少し空けて、タッピーはまたゆっくり頷いた。
「上位互換の考え方なんだ。僕と君、タイムスルーの力を持っているのは僕だ。佐山の世界軸に存在している君にはタイムスルーの力はない。君に僕を消すことは出来ない」
何も言えなかった。
そうだった。僕はこの世界で主人公ではないのだ。
ここは佐山が主人公の世界。ひょっとしたら、僕の告白が上手くいっていれば、佐山の横で共に世界を歩む事は出来たかもしれない。
でも、佐山は飛んでしまった。世界の崩壊が始まってしまっている。加えて別世界軸の主人公の権限を持つ僕が来てしまった。
僕はもう絶対に存在出来ない。どうあがいても消される存在。
僕は本当の意味で、この世界のバグなのだ。
ちゃんと言えていれば。告白出来ていれば。
僕は気付かぬ間に、取り返しのつかないミスを犯していたのだ。
ふいに何かが僕を包み込んだ。柔らかく暖かい感触。
「佐山」
佐山が僕を抱きしめていた。
「シッピー……ごめん……」
聞きたくない。そんな言葉。
これは、僕のミスだ。僕がちゃんとしていれば、何も壊れずに済んだかもしれない。
全ては僕というバグが生み出した事象なのだ。
どうせ消えるんだ。なら、彼女の罪ごと抱えて消えてやる。佐山に抱えこませてたまるか。
「悪いのは、全部僕だよ」
そっと佐山から身体を離す。
「僕は、十分幸せだ。だから、謝らないで」
つうっと佐山の目から涙が零れた。泣いてなんて欲しくない。佐山は笑っている顔が一番だ。
「タッピー」
僕はもう一人の自分に向き直る。
消える前に、僕は確かめておきたい。
「最後に教えてほしい。どうして君が佐山に会いに来たのか」
“佐山が好きだからだ”
彼はそう言った。でもそれだけじゃ納得いかない。
わざわざ佐山の世界軸に飛んでくる理由。
そんな事をしなくても、タッピーの世界軸にだって佐山は存在しているはずなのだ。それなのに、何故。
「佐山に会う為。それだけだよ」
僕は黙ったまま彼の言葉を待つ。知りたいのはその先だ。どうして会いたいのか。
「僕の世界には、もう佐山はいないから」
タッピーの独白が始まった。
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