Ⅱ[覚神]

戦場を駆ける一刃の疾風

Android Simulation of HITONOID. Form number A-弐ⅱ

其の眼前に迫る敵兵は弐ⅱが放つ殺気とその姿に魅入られ自らの人生と愚行に

後悔しながら大地に転がって行く。

追従する部隊の兄弟姉妹義体兵が追いつけないほどに早く。

仲間が怖気づくほどに鬼神の如くと敵兵を屠る。


蘇飛燕大連邦・辺境大東作戦基地

「戦況・及び被害報告!1○:○2時に大東荒地戦闘区域にて大規模戦闘が勃発。

作戦開始時当初は我が蘇飛燕大連邦戦機人騎士団の奮闘により

優勢であった物の突然現れた新型戦機人の活躍により我が軍は危機敵状況に陥る。

尚。蛇足ながら敵性新型戦機人は大変けしからんほどの豊かな胸を持ち。

推定Eカップ。

しかも強化軟質素材の胸部装甲を有している為。

その形も絶品で有ると現場指揮官は申しております」

「新型かっ。此処に来て新型を投入してくるとは敵ながらあっぱれであるな。

それで・・・その強化軟質素材胸部装甲と言うのはどんなものなのだ?

・・・揺れるのか?」

「はっ。総司令官・・・。

それに付いては賛否両論。是も負も有るのです。

現地随行の偵察機人兵の命がけの特攻によるとですね。

焔縁鐵刃を振るう度に揺れるのですが。かと言って刃を振るうのには邪魔に

ならない。それでも確かに揺れる。

つまり時に激しく時に慎ましく程よく揺れると。

この偵察兵は彼女の焔縁鐵刃の餌食となり記録組成所送りと成りましたが。

辞世の句を残しております。

我。逝く其の刻に眼福得たり。嗚呼~~~眼福得て。

これ又諸有形無形の果に我至極の眼福成り・・・」

「なんと良い句だ・・・。それほどまでか?それほど迄なのか!

それは一度相まみえるべきであるな。

・・・ふむ。これより敵性新型巨乳機人兵鹵獲作戦を立案・実行する。

諸君。相手は新型でありEカップでも有る。心して掛かるように」

蘇飛燕大連邦・辺境大東作戦基地司令官の極めて真面目なそして漢の性に

まみれた弐ⅱの鹵獲作戦が実行に移される。


「ASH弐ⅱ。貴方にしては上出来ね。悪くないわ。頑張ったのね」

[一日の撃退スコアが30を超えると言うのは快挙ではないのか?神羅管制官

今日の戦闘は何か妙な所もあって途中から私に向かって敵兵が

群がって来た印象があるが・・・]

そんなの思い過ごしだとも言うように冷静さを崩さず私専属の管制官・

神羅嬢はTNCを操作する。

「確かにそんな印象はあったかもだけど気のせいよ。

それよりその体はどうしたの?」

何処か冷たい視線を私の胸元に落とし問いかけてくる。

[これは後方基地研究所で義肢官が勝手に体を換装した結果だ。

それ以来難儀している。

戦闘時には自動調整されるのか刃を振るうには問題はない。

然し通常時に置いてはなぜか視線が刺さる]

「それはしょうが無いわ。持つべき物を持った者の宿命よ。」

[持つべき物を持った者・・・。随分と批判的な物言いだな。

もしそれが胸の大きさを指しているのなら貴官も同じくらいであろう?

否。私の方が少し大きいか?]

「それはないと思うわ。だいたい同じくらいだろうけど。私の方が大きいわね」

[ふむ。拘りはないが多少なりとも不便で困ると言うのが本音である]

キャラが被る・・・。

神羅嬢も又。豊かで女性らしい姿を有しているが時として其の話方も振る舞いまで

私と神羅嬢はよく似てる。

余りに言動や素振りが似てるので意識せざる負えない。

気にすることでもないのかもしれないが。



72時間の胸部部品と脚部の試験的換装は義肢担当の悪漢二人に取って

思わぬ結果を生んだ。

本来なら私が激情し暴れまわった為に装着時間が短縮される羽目になったはずだが

状況が変わる。

突如敵國兵の行軍が開始され現状の機人兵では対処が間に合わなくなっていた。

したがって待機調整中だった私も急遽出撃を余儀なくされる。

専属の部隊兵兄弟姉妹は未だ到着していなく。

急遽編成された部隊兵と新任と成る管制官・神羅嬢と共に活動する。

どちらにしろ、又何にしろ悪漢二人組の手を離れた事。

そして思ったよりも戦闘中は胸が邪魔にならない事に私は安堵していた。


「もうちょっと頑張ってくれないと私の昇進に関わるのよ」

と辛辣な嫌味を掛けて来る神羅嬢とも離れ

しばしの休息を取るべきして私は個室ブースに戻る。

もっとも個室と言っても機人兵であれば簡素なもので十分だ。

外側から見ればそれなりに大きな建物を廊下と仕切りで区切った戦闘機人兵格納庫。

その狭い個人ブースに戻り一つしかない機器。メンテナンスポッドに体を納める。

[ASH弐ⅱ・・・メンテナンスモード起動・・・終了時間予測・・・]

頭の中によく知る自分の同じ声のサポートAIが詳細を告げる。

それが好きであり安堵も覚える。何者にも邪魔される自分だけの時間。

そして私は眠りに堕ちる。


猫拍子壱兵衛指揮伍長は多少成りとも悶々としていた。其の朝は特に色々と疼く。

[おっとすまない。猫拍子壱兵衛指揮伍長殿。

そんな所に立ち尽くしてるほうも悪いと思うが・・・]

最近部下の間でも何かと話題に上がる戦機人兵のASH弐ⅱ。

形の良い胸元を見せびらかすように壱兵衛に敬礼し肩がぶつかった事を謝罪する。

「ああ・・・まぁ。そうだな」軟質外装の弐ⅱの胸は大きさも形もよく分かる。

そこに目が吸い付いて離れず返す言葉が曖昧になってしまう。

[惚けるなら隅っこにしてほしい。ちなみに第弐資材倉庫のとなりの個室が

お勧めて有るぞでは・・・失礼。伍長殿]

表情を作れない仮面の口を意味ありげに釣り上げ笑う。

やはり急いで居るのだろう。きすびを返しタッタッタと小走りに歩み去る弐ⅱ。

今度は大きく形の良い尻が揺れ。やっぱり壱兵衛の目線がそこに吸い付く。


[神羅嬢。おられるか?居らしゃるか?]

バゴンを鈍音が神羅の管理ブースを仕切る鉄製の扉が歪む。

それで開かぬと知れると弐ⅱは四肢を振り上げ扉を二度目に蹴りあげ壊す。

「ちょっと弐ⅱさん。どうしたっていうの?淑女の癖に礼節を忘れるって

何事なのよ?」

面倒な書類仕事をタブレッドの上で格闘しつつ衝撃音に顔を上げる。

[すまない。然し一大事なのだ。緊急なのだ。そして色々困ってるのだ]

扉一枚蹴って破壊した勢いそのままでコツコツとヒールを鳴らし神羅の前に

駆け寄ってくる。

「ちょっ。近いわいよ。パーソナルディスタンスに侵入してるわ。

ちょっと離れなさいよ」

椅子に座る神羅の前にズイと歩み寄る弐ⅱ。

何なら距離を調整し更に一歩前に出たくらいだ。

「性格の不一致やキャラが被るとか。胸のサイズで喧嘩はするが・・・

信用で出来るのは神羅嬢しかいないのだ。

助言を求めるのも心苦しいのだが・・・観てほしい]

「見るって何をよ?助言ほしいなら菓子折りの一つも出しなさいよ。

・・・で。どうしたの?」

嫌味の一つもぶつけるがそれでも管制官の立場なら、それが仕事でも有る。


白く硬い仮面の上に仄かに紅みが指したようにも見える

椅子に座る神羅の顔のすぐ前に弐ⅱが歩み寄れば瞳に映るのは下腹部だ。

「此処がどうしたって言うの?」

つまらなそうにそれでも弐ⅱのそこに目線をあわせる。

弐ⅱの白陶器の指がちょっと動く。それはどこか恥ずかしそうに震えるようにも

見えた。

カシュンっっと音がして下腹部の外装が外れる。

「えっ?」本来そこは稼働しない。

脚部全体の構造上固定されるのが常であり機人兵の仕様である。

「えっ?えっ?」外装はが開くとそこにはなめらかな白陶器の腰が姿を見せる。

淑女の嗜みをも弐ⅱは持ち合わせていた。

外装に隠されていた女性の白陶器の肌と腰。

隠すべき所をきちんと隠せるようにと黒い軟質素材の下着。

「こ・・・これってパンティよね?しかも大人の勝負下着だわ。

綺麗なレースまで付いてるわ。

私でもこんなの持ってないわよ。貴方・・・大人だわ!魅惑の大人だわ」

信じられないと言うように。白く滑らかな肌に惹かれでもしたのだろうか。

仕事も意地も忘れて神羅が弐ⅱの下腹部にぐいと顔を寄せる。

「あら?いい匂い。貴方、香水でも付けてるの?・・・えっ?」

仄かに鼻腔を擽る甘い香りに誘われ自然と顔を寄せると神羅は声を上げる。

そこには有るべきものがちゃんとある。いやないはずのものが有る。

「あなた・・・これって・・・?」

黒いレースの下着の奥に透けてうっすら見える隆起。

それは神羅自身も持つもの。女性のアレである。

「えっ?ええっ。ええええええええええええええええええぇ」

ガタリと衝撃音を立てて神羅が椅子から転げ堕ちる。

[お・・・覚えてしまった・・・のだ]冷たいはずの弐ⅱの仮面が小さな快楽と

罪悪感に曇る。

「覚えたって。何を?何を覚えたのよ」

オフィスの床の尻もちを付いたまま神羅が弐ⅱを見つめる。

[じ・・・じ・・・自分で・・・]

よほど恥ずかしいのだろう普段は慄然としてる弐ⅱが吃る。

「自分で・・・ああ。自分で・・・色々しちゃったのね」

[悪気はなかったのだ。知らなかったし・・・只。最初は・・・胸を・・・・

困惑したが・・・気持ち良くなってしまって・・・そしたら・・・

開いてしまって・・・

つぃ。指が勝手に・・・私はどうしたらいんだろう?神羅女史]

「どっ。どうしたらって言われても。覚えちゃったものはしょうが無いわ。

とっ。とりあえず女子力を身に着けないと」


「女子力・・・?」聞いたことない言葉に弐ⅱは執着する。

自分の体が以前とは違ってしまった衝撃で混乱もするのだろう。

「そっ。女子力よ。確かにヒトノイドは高性能過ぎるって言われているわ。

確かに權田氏が手掛けた機体なら秘密も多くて当たり前だわ。

何よりそんなに立派な胸を持ってるだけでも大事なのに。

その上に女性のアレまでついてるなんて。

漢も男性機体も放っておくはずないわ。・・・とりあえず女子力よ」

ASH弐ⅱという機人兵がヒトノイドで有ることは皆も知る。

然し完全な女性と同じ機体であると成れば大事だ。

そして神羅自身もパニックになっていた。

機体特質とは全く関係ない女子力という言葉を連呼し其の場を切り抜けようと

する神羅である。


[・・・女子力。

何か?可愛いぬいぐるみを愛でるとか?熊の縫いぐりみを好きな振りしてこっそり

蛙の奴を集めてるとか?

好きな漢の部屋に勝手に偲んで薄いエプロンで尻を触りながら誘う事か?

其の場合ドアは蹴り壊して良いのか?

下着はやはり黑より白か?否やっぱり淡ピンクがこのまれるのか?

巷のカフェデートデートは勝負所と聞くぞ?

こんなに一杯食べられな~~いとか言って結局彼氏の分も全部たべきって

しまうとか?

遊園地の観覧車でうれし恥ずかし二人きり。

見つめ合いいい感じになって顔がよってきたら必殺の頭突き喰らわすとか?

帰りに触れた指を握り返して骨砕くとかか?

やっぱり此処は夜伽だな。誘う振りしてざんざん焦らし縄で

縛って吊るし革鞭でビシバシとだな!]

「いろいろと間違ってると思うわよ。弐ⅱさんの頭の中って腐ってるの?」

戦闘に関する知識は膨大であっても世情男女のやり取りには疎すぎる。

「やっぱり。最初は料理じゃない?相手がいないと話にならないしさ。

まずは殿方の胃袋を掴んで。彼氏ゲットしないと行けないわよ。」

色濃い沙汰の先輩として威厳を見せつけ神羅が言い捨てる。

[彼しか・・・そうだな。彼氏がいないと女子力が上がらないからな。

好きこそ物の上手成れだな

よしよし。早速彼氏を拾ってくるぞ。どんなのが良いかな。

背の高い漢がよいか?否。此処は多少見た目が悪くでも中身で勝負か・・・?]

自分の体が大きく変わってしまった衝撃と聞いた事のない情報に惑わされ完全に

我を忘れる弐ⅱ。

機人兵が女性と同じような体を持つと成るとは思わず悩む神羅。

興奮冷めやらずにも次の目標を見つけたとつかつかとヒールを

鳴らして歩いていく弐ⅱ。


「なっ。何人まで良いのだ?彼氏は何人までOKなのだ?神羅嬢」

自分が壊した扉の残骸を片付けながら顔だけ向けて問いかける。

色々と覚えたばかりと成れば気も焦る。

分からない事をそのままにしておかないのも又。弐ⅱで有る。

神羅自身も突然起きた事に未だ頭が追いつかない。

弐ⅱの問に深くも考えず細い指を三本立てた。


その日の午後。きっちりと午後三時を回ると自陣の各部署に小脇に箱を

抱えた機人兵弐ⅱが現れる。

[猫拍子壱兵衛指揮伍長。今日は陽溜まりたゆる良い天気だな。

貴殿の働きには常々感服して居るのだ。

それでもたまには休息も必要だろう。これでも食べて休んでくれ。

私が作った・・・]

話方こそ指揮官兵らしく上から目線を崩さないが女性特有の優しさが滲む。

白陶器の装甲が付いた手を滑らかに動かし脇に抱えた箱から何やら白布に

包まれた包を渡す

[チョコシナモン梅しそ蜂蜜味のクッキーだ。後で感想を聞かせてほしい。

・・・では]

「あっ。有難う。弐ⅱ殿・・・」

突然手のひらに押せられた可愛いらしい包からは確かに甘酸っぱい香りが漂う。

戦義兵として優秀すぎる弐ⅱであるが何があったというのだろうか?

[う~~~ん。あいつはパスだな。いかにも変態癖を持ってそうだ。

太い体はともかく、覚えたての私には難易度が高すぎる。

・・・ふむ。少年系も悪くないか?]

クッキーを入れ抱える箱にもわざわざ飾り紙を張り女子力を追求する弐ⅱは

ブツブツ言いながらも尻を振って男性兵と士官を物色して回る。

「確かに女らしいと言えばそうなるが・・・チョコシナモン梅しそ蜂蜜味って何だ?

甘いのか?酸っぱいのか?それともやっぱり甘いのか?それにしても良い尻だな。

それは確かだぞ」

これもまた回りに部下がいない事を確かめてから猫拍子が漏らす。


[貴殿らも緊急配置組だったか?慣れる場所で大変だろう

?私を覚えているか?鰹武士七桜丞義肢官]

「あっ。どうも。ASH弐ⅱさん。覚えてますよ。

例の爆乳自販機破壊事件は見事なものでした」

[気恥ずかしい所を観られたものだ。忘れてくれ。五五ⅵも元気そうだな。

ちゃんと装備してもらえよ。鰹武士は背は低いが若輩者の中では一番の腕と聞くぞ。

それからこれ。私が作った。柚子蜂蜜納豆男爵芋味味噌煎餅だ。

おやつ代わりに食べてくれ]

「えっ?柚子蜂蜜納豆男爵芋味味噌・・・あっ。ありがとうございます。

若輩者で一番って?それなんか変な褒め方ですね」

白い指につままれた袋を受け取り鰹武士が苦く笑う。

「うはは。細かい事を気に治するな。男児であろう?うはは・・・

五五ⅵはこういうのが好きなのか?んん?私の方が甲斐性があるぞ?」

冗談混じりに鰹武士を誂う。

物を食べる事は弐ⅱも五五ⅵも出来ない。機人兵であれば当たり前だ。

それでも気を使い煎餅の代わりにと五五ⅵの優しく手を添え頬にチュッと

音を立てて口づけして見せる

[あん。弐ⅱお姉様ったら・・・]

表情の変わるはずのない仮面の下で五五ⅵが頬を染める。

[邪魔したな。二人共。後で菓子の感想を聞かせてくれ。宜しく頼むぞ]

ゆらゆらと手と大きな尻を触り弐ⅱは歩き去る。

「柚子蜂蜜納豆男爵芋味味噌煎餅って・・どんな味?ちょっと食べられなそうな」

[御姉様の心使いを無碍にするんですか?許しませんの]

歩きさる弐ⅱの姿から頭を巡らせ白い仮面の五五ⅵが鰹武士をギリリと睨む。

瞳に嫉妬の焔がゆらり燃えれば手甲の先からシュッと短剣刃が飛び出てしまう。

「まっ。待って。待って。食べる。食べるからちゃんとぉぉ~~」

慌てて煎餅を口に保織り込む鰹武士。

・・・・其の味はやっぱり柚子蜂蜜納豆男爵芋味味噌でった。


いそいそと尻を振って陣内を歩き回り自作の菓子を配り歩く弐ⅱ。

配った数はおよそ二十と少し。その個性的な味を批判するのは御法度だろう。

機人兵である弐ⅱは味覚を持たない。

なんとなくで想像して味付けをするしかないのも事実である。

それでも陣の戦兵や義肢官の間では喧喧諤諤の騒ぎと成る。

弐ⅱのお眼鏡にかない菓子をもらえた者。

はなから論外と決めつけられもらえなかった者の間で

取り合い奪い空いの騒ぎとなり戦法規を取り締まる憲兵達は右へ左へと

走り汗を流すことになる。


「これ・・・美味しいわね。弐ⅱさんて味覚とかないのに器用なのね」

弐ⅱの体の秘密と変化の詳細をレポートに纏め上司と義体研究所へと報告の

ため神羅はしばらくオフィスを空にしていた。

戻ってきてみれば机の脇にきちんとラップのかけられた苺のショートケーキが

置かれ添えられたフォークには小さいリボンまで括ってあった。

「あの子・・・女子力高いのね・・・高すぎるわ」

甘く柔らかい美味しさを堪能し神羅は頷く。


【・・・まもなく作戦遂行予定上空に到着・・・各員戦闘作戦準備開始せよ・・・】

「大佐?本当にやるのですか?此処までやる必要が有るのですか?」

「向こうが新型義体兵を持ち出して来たと成れば・・・致し方あるまい」

緩やかにそして小刻みに輸送機機体が震えるのは気流のせいだろう。

決して声を掛けてきた士官。そして自分の罪悪感からくる物とは信じたくはない。

「然し。コーゲンヘルグ大佐。これは行き過ぎではないですか?

新型と言っても一体だけです。しかも形状が少し違うだけですよ?

あれは国際戦時法にも抵触するのです」

「一体出てくればすぐに次も出てくる。ネズミと一緒っだ。

それに出力を押さえれば法にもギリギリ抵触もしない。大丈夫なはずだ」

「制御できればでしょ?すでに2回も使ってるですよ?暴走限界値のはずです。

制御出来るとは・・・」

【作戦遂行区域に到着・戦略殺生兵器天司型機人・・・

起動及び射出準備完了・・・指示受領待機】

専属士官の警告を作戦統括オペレーターのアナウンスがかき消す。

止めても無駄でありそれでも自分は警告はしたとコーゲンヘルグに目配せして

後ろへと下がる。

「・・・起動させろ」自分でも重く荒々しい声だと思うがそれを口にする。

【戦略殺生兵器天司型機人起動・・・

覚醒まで・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・天司機人起動・・・

同時射出!】

一体の機人兵を本国から空路で運び飛んで来た大型輸送機は疫病神を吐き捨てると

旋回し蒼雲の向こうへを姿を消す。


ギンと頭の中に閃光と衝撃が走り其の個体は目を覚ます。

同時に体を二重に体を押さつける拘束装甲がガチャン・ガチャンと鈍く音を立てて

外される。

すでに開いた輸送機の格納庫に風が滑り込むと寒さを感じない肌を冷たく覆う。

其の次に襲うのは大地の重力だ。二重拘束装甲がはずれ手足に感覚が戻った途端に

重力に引っ張られ堕ちていく。

自由落下と言うのは簡単なものでも楽しものでもない。

それが目覚めたばかりなら尚更だ。

[人種と言う人類は物を大事にしないうつけ者とはよく言ったものだ]

蘇飛燕大連邦所属・戦略殺生兵器天司体機人・アプ・ヨルウェルス669

まっすぐと大地に向かい引っ張られながら瞬時に自分の機体をチャックし

細かい調整を行う。

推定着陸地点と周辺の敵性状況は輸送機から同時に吐き出された偵察ドローンが

情報を飛ばしてくる。

調整と情報の習得整理を終わらせ意識を空に巡らせる。

自分の意識と性能が定められた査定基準の其の範囲に収まってる事にも

安堵を覚える。

これなら今回も無事任務を達成できるだろう。

そして又。温かい暗闇の中で眠りにつくのだ。

天司型機人・アプ・ヨルウェルスは闇に抱かれ昏々と眠る自分の姿を心に描き

早くそうしたいと祈る。


天蒼く雲白くたゆる空。

人のは目には良くも見えない風が強くと雲々押し流していく。

其の蒼を白く縦に一筋の線を引き人形が一人堕ちてくる。

真っ直ぐに空を裂き真っ直ぐに重力に導かれるように堕ちていく。

一定の高さに来たと言うのだろう。

天司体機人は膝を丸めクルリと体を回し体制を上下と入れ替える。

絡みつく風の抵抗を諸共せずに両手を広げた。


ドンっ。空気を裂いて衝撃が奔る。轟音消える前に銀翼が空に舞い散る。

広げた腕と同じ様に其の背中に眩く光を宿す銀翼が広がり。

そして見事の空の上に身を留め立つ。


【我が名こそは戦略殺生兵器天司体機人・アプ・ヨルウェルス669。

自愛と慈悲と搾取と殺傷を戦場に齎し混沌を成す天司成り。いざ。此処に具現せり】


それは確かに瞬きする間ではない。むしろそれより長く数秒の時だろう。

天司体の銀翼が白く輝き周囲の空気が歪み太陽の光を集め飲み込むと一気に

それが放出される。

それは天空に遠くに輝く死に行く星の爆発に似ている。

違うのは膨大な熱が吐き出され全てを焼き付くす焔爆だけなく。

腐敗膜をも付加する事だ。

空に立ち浮かぶ天司体の足元には敵軍基地が有る。

天司の銀翼が煌めき爆熱を生みそれが達すると最初に人は腐敗膜に包まれる。

顔も手足も果て腸も腐敗膜に侵されすぐに溶ける。

腐り崩れ落ちる自分の手を見つめながら空気を求めて肺が蠢く。

溶けて逝く体の痛みに悶絶すれば。すぐに爆熱が襲いかかり全ての人を

呑み込み滅して逝く。

人も人形も建物も数秒の時の後には消滅浄化される。


[終了せりて・・・絶終成り・・・滅却したりて消滅然り・・・]

腐敗と熱波の跡は漂うがすでにないもなくなった大地に天司体がそっと脚を

付け降りる。

漂う草木も無ければ腐り溶けた人の手首一つもありはしない。

[ああ・・・これこそが・・・正義成り・・・]

自分の成した偉業と殺戮の甘美な快楽に酔いしれ

天司体アプ・ヨルウェルスは身を捩る・・・。

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