HITONOID【戦陶鬼・Doll of war】
一黙噛鯣
起動・そして災難
私の口中には舌がない・・・。
正確に言えば口を開けることも出来ない。
生まれてから一度も口を動かして言葉を発した事がない。
なぜなら私は自立思考制御型戦機人形だからだ。
Android Simulation of HITONOID. Form number A-弐ⅱ
通称ASH弐ⅱと呼ばれるが私の機体の担当者共は弐ⅱと呼ぶ。
我が母国・濠太剌利連州國における自立思考制御型戦機人形達の兄弟姉妹達は
世界厄災大呑穴に関連する災害対応と利権獲得の戦争業務に派遣就労されている。
世界各地に点在する大呑穴の案件は何処の國にとっても重要な物であり持てる力を
全て注ぎ自國にもたらす利益を少しでも多く得るために人種にとっては有限な時間の多くを使って戦争に没頭している。
人命を掛けてやり取りする戦争は此処二十年の間に影を潜めた。
世界の國々の政府役人と軍人は若人軍兵に銃をもたせ人命と言う貴重品
を悪戯に消費し続ける事に遅まきながら気がついた。
代わりに消耗品として戦場に投入したのが自立思考制御型戦機人形である。
その生命までも電子制御の戦機人形は他の電子機器搭載兵器共相性が良い。
当然だろう。それまでの人種兵士が操作する小型・大型電子機器搭載兵器等は
迷いがあった。
操作するのが人種である限り制約が多い。状況判断の誤解、情報収集集約の御判断。
我々戦機人形とそれを統括するMotherAiからすれば稚技な戦争でしかないだろう。
常に効率的で正確な戦闘は正しい戦争へと姿を変えていく。
私は微笑む事が出来ない・・・。
もちろん戦機人形だからだ。
乱雑に煩雑に複雑に組み上げられた頭部の外装として白陶器で浸かられた仮面が
ついているだけだ。
「弐ⅱさん。もうちょっと愛想よくしてくれないか?
せっかく頑張っても張り合いがないんだよな」
表情を作れない私の白い仮面を見つめ真顔で藻武山が渋く言う。
[私は戦機人形だ。愛想と言う物を持ちわせてはいない。
そもそもお前は私の機体のメンテンスが仕事だ。
当たり前の事に何故見返りを求める]
「そ・・・そうは言っても楽しく仕事したいだろ?お互い気持ち良し
捗るじゃないか?」
[機体の調整に楽しいとか必要なのか?然し作業が捗るなら、期待に答えよう。
ちんちくりんのおでぶ野郎の藻武山調整官。一応では有るが有難う。ペっ]
「ちんちくりんのおでぶ野郎とか何処で覚えるの?
最後のぺっとかエコー掛けなくていいから」
渋く顔を歪めるが私の反応を面白がり何処か楽しげに笑いながら
藻武山は手に握るthread needle Controllerを操作し調整作業を終了させる。
プツンと何かが切れる感覚が奔ると背筋に埋め込まれたconnect diskに深く挿入
された調整糸が切れ私は自身の体を制御する権利を再び得る。
「ソフトウェアの更新は終わったから。後は義肢の方を観てもらってね。
跡は自室で休んでいいよ」
すでに私には興味ないのだろう。
制御パットに向かい画面の上をタップするのに藻武山は夢中になっている。
それが勤務中で有るのに関わらず隠しもせずに勤しむ美少女ゲームで有るのも
確認するまでもなく知っている。
少し意地悪しハッキングでもして難易度をあげてやった方が長く楽しめるのかも
しれない。
もっとも藻武山の性格なら悔しがってクリア出来るまで没頭するだろう。
他の仕事とを放りだしかねし、そうすると他の兄弟姉妹の調整にも支障が出る
かもしれない。
然し。電子回路に生まれた好奇心に勝てず結局は程々に。
そして決して最後お愉しみクエストはクリア出来ないように調整する。
頃合いを見て藻武山の上司にでも匿名でメールを投げてしまえば大事に
はならないだろう。
怒られるのは藻武山であるけれども。
私の体は巨乳ではない・・・。
当たり前である。
一応は女性型を模してあるが、さして意味はないのだろう。
単純に製作者の好みが反映された結果である。
最も巨乳でない。つまりは大きくもないが手頃でもない。
かと言って貧乳とも違う。
慎ましくはあるがちゃんと主張するくらいの大きさである。
それについて個人的な意見や感想及びコンプレックスはないに等しい。
なぜなら戦闘に身を投じる戦機人形にとって俊敏で正確な動きが必要とされるのは
明白である
つまりは人種のように異性の視線を集めし生殖行為に至る必要もなければ
戦闘に相応しい義肢で有る方が相応しい。私自身もそれを誇りに思っている。
機体的な特徴を述べるならばそれは膝から下が他の機体とは違う事だろう。
形状的には人種兵士が付ける義賊にも似てるが最も近いのが欠損スポーツ選手の
それだろう。
くの字を反対にしたような形で弾力性のある合金板形状を成したものである。
戦ではこの脚を使い体重を載せ飛翔して敵を翻弄して戦うことが出来る。
私のもっとも得意とする戦法である。
所でこのような話をすれば頭の良い人種の者なら分かるだろう。
私のように思考し言葉を噺し。そして時に優雅に立ち回る機体は多くはない。
私は稀有な存在で有る。
Android Simulation of HITONOID. Form number A-弐ⅱ
通称ASH弐ⅱ
Androidといえば戦機人形を示すが。
私が自賛するのはSimulation of HITONOIDの部分だ。
HITONOID。我が母国に訳して表記すればヒトノイド。
遥か遠くの島の國・倭之帝国と呼ばれ得る軍人が開発考案した自律思考型人形と
其の統一規格。私はその規格に準じでいるのだ。
機体の制作は我が母国・濠太剌利連州國である。
然し制作されたのは個体の素体部分だけであり
その後倭之帝国・ヒトノイドの製作者・權田一々氏。其の人により追加製造・
規格統一・統合調整された機体で有る。
産み落としてくれた事に感謝はするが・・・彼は性格が悪い。とても悪い・・・
後。けちんぼでも有る。
[前に言葉をくっつけるのは流石に憚れるが・・・爺。いい加減。
私の尻を撫で回すのはやめてほしい]
「何を言うか?お前の國のお偉方は女と雌を愛でる事を知らなすぎる。
淑女の体に美しさと楽しみを与えて何が悪いと言うのだ。
胸を邪魔にならないようにひっそりと言うならせめて尻。
その形に拘らなくて何が美であるかっ。絶対に妥協はせんからな。漢の意地だ。」
「この変態ドズケべ爺が・・・。
私には美しさも愛でられる事も必要ないのだが・・・。
その拘り。基、執念には敬服する。一応、礼を述べておこう。有難う」
權田一々氏。確かに腕は良いが同時に確かに変態でもある。
然し。彼のおかげで私は極度に進化した機体を有する稀有な存在で有る事は
確かである。
「ねぇ?弐ⅱさん・・・弐ⅱちゃんて呼んで宜しいかしら?」
[呼称の変化には何の意味もないと認識してる。然しお前がっそう呼びたいなら
好きにするが良い。彩芽女史]
私は自分の義肢調整担当間・彩芽梨里鬆女史が苦手てである。
YES・NOで言うなら嫌いで有る。
「じゃぁ。弐ⅱちゃんて呼ぶわね。弐ⅱちゃんの脚のことだけど。
ちょっと換装してみない?」
[義肢の脚を他の部品に換装する予定はない。特に必要性を感じない]
何故嫌いかと言うと彩芽女史が自他共に認める女性らしいスタイルとしているから
ではない。断じて。
戦場で部隊指揮官を勤める私は他者に対して上から目線で接する事を常としている。
上官としての威厳も時には必要だからだ。もちろんそれには責任も伴う。
上から目線・・・。彩芽女子もこの研究施設では上級義肢官であり
それなりに地位もあり他の男性職員の羨望の眼差しを其の体に一心に集める。
当人の人生に置いても常に確固たる称賛を浴びてるのだろう。
常に他人に対して頭上から声を下ろす癖があり所謂マウントを取りたがるのが。
キャラが被る・・・。
互いにマウントを取り合う事になり言葉尻で互いに牽制し合うのが常だ。
「弐ⅱちゃんの戦闘戦歴はよく知ってるわ。
でも今は参週間の調整期間でしょ。その間くらい女性らしく過ごして
見るのも悪くないと思うの。色々と」
[確かに現状は戦も半休戦状態で私が指揮を取る必要もない。
機体の整備調整期間と設定されているが
戦機人形に人種の女性らしさを求める必要が何処に有ると言うのか?]
思考回路が導き出す正当な答えである。
「そこがつまらないのよ。せっかくヒトノイドの統一規格に準じた体なんだから
女と雌の嗜みくらい体感して見るのも悪くないと思うわ。
勿論。いきなり大きく変えるのは抵抗有ると思うから。
まずは一部だけ。脚を用意してみたの」
彩芽女史は調整卓の無効奥に置かれた箱を補足美しい指で示す。
[人種の女と雌の嗜みとやらを体験する必然性・必要性には特に感じるところはない
ただし。新しい義肢とやらが私の性能の向上に貢献すると言うのなら考慮するのは
吝かではない]
「随分と回りくどい言い方をするのね。弐ⅱちゃんって。
でも。これを見たらきっとつけて観たく成るわよ。なにせ私の自信作。
弐ⅱちゃん専用なんだから」
操作盤のボタンを軽く押すとシュッっと音が鳴り義肢を収めた箱が開く。
彩芽女史が私専用と言ったのは確かであろう。現状では発弾脚である部分。
膝から下の部位と成る。
人種の其の部位と同じような外観をしてるし特に変哲もない様にも見えるが足首は
ヒールと同じ形状に見える。
[特に人種のそれと代わりないのではないか?何処がどう違うと言うのか?]
「外見だけで判断するのは悪いクセよ?弐ⅱちゃん。
その義肢は私の傑作よ。外側も強化白陶器で作ってあるから肌の色も同じでしょ。
腿には小型ガス式の弾頭が装填されてるから今までと同じように戦さ場でも
飛び上がれるの。
そして何より拘ったのは其の造形。フェチには貯まらないわ。
相互接触感触機構も搭載されてるのよ。
これはヒトノイドの規格基準に統合されたものだから。それはもう~~~」
[大体の事は把握理解出来た。彩芽女史の自身作と言うのならそうなのだろう。
然し使い慣れた部品を容易く交換するにも抵抗がある。
・・・72時間のテスト装着でどうだろうか?]
「うんうん。分かる。わかるわぁ~~~。72時間なら十分データも取れると思うわ
色々調整も複数回必要となるかもしれないけど。今の義肢も再整備しておくわ」
[心得た。彩芽女史]
なんとなく押し付けられマウントを取られた気もするが受け入れるのが
得策だろう。
(藻武山調整官宛・個人連絡
ASH弐ⅱの義肢換装作業が終了。試験運用期間は本日より三日間。
この期間が過ぎれば再換装と成るため。その期間内にお強請りするべし
尚。相互接触感触機構もすでに実行済みと成るため弐ⅱちゃんにも
体験影響が有るために最初から刺激のある行為は差し控えるべし。
あくまでもお触り程度に留めて置くべし。以上)
(返信・彩芽女史宛・・・心得た。我。先行突撃を敢行せし!)
二人の義肢調整官の間で短いも意味ありげな秘匿メールが飛んでいるのは
弐ⅱは知るべきもない。
義肢担当彩芽女史が傑作と称した新しい四肢は私の精神に困惑を齎す。
戦闘義体である私にとって邪魔な感覚が付いて回る。
ゾワゾワと何処かむずかゆいというのだろうか?
どこか馴染めない感じだ。それに今までのものとその形状も違うのも
原因なのかもしれない。
今までは撥条系であったのでカツカツと音が響き少し跳ねる感じだったのが
人種の女性の脚の形であり安定は有るもののコツコツと言うように思える。
更に調整が必要であると考えながら廊下の隅当たりで脚が
ぶつかりよろめいてしまう。
「なんと言うことだ。普通に歩くだけなのに自分の脚が絡まるとは・・・んん?」
情けなくも脚が勝手に絡まりバランスを崩し壁に手を添え体を支える。
自分の失態が恥ずかしくも憎らしく感じ足元をに視線が意識なく落ちてしまう。
「踏んでくれ・・・」
[私の顔が表情を作ることが出来るなら鳩が豆鉄砲を食らったような顔を
しているだろう。
そこで何をしてるのだ?藻武山主任。その異様なスタイルは研究所内で
流行ってるのか?]
「踏んでくれ・・・弐ⅱさん・・・否。弐ⅱ様」
「弐ⅱ様?・・・貴様に敬称を付けられ呼ばれる筋合いはない。
それにしてもその格好は?」
廊下を曲がった先は確かに不用品置き場で倉庫に続く。
ひと目を避けるのには最適だろう。
その冷たい床に見慣れた藻武山が仰向けに寝転び蛙開きに脚を広げる。
男性用のビキニパンツ一枚で。其の他に何も付けてないと言うのも解せない。
[床に転がりその格好で何を求めているのだ?詳細なデータはないのだが・・・・
おそらく世情一般の常識から逸脱してるのはないか
?踏んでくれと言う意味も理解しかねる]
「踏んでくれ・・・」声に上ずりが交じると慣ればどうやら興奮してるとも
見て取れる。
[ふむ・・・理解しかねるのだが・・・いつまでも床に転がってられるのも迷惑だ]
戦さ場で倒した相手の頭を踏んで潰すことは有る。
要領は同じであるが相手が同胞となれば下限がいる。
しかも自分の担当官となれば尚更と成る。
ゆっくりと藻武山のでっぷりとした腹の上に脚を載せじわりと足首に力を
加えていく。
「おお・・・良い。良い・・・弐ⅱ様」
腹に咥えられる圧力に耐えながら藻武山が呻く
[オオ・・・?何だ?この感触は・・・]
単純に藻武山の出っ腹に脚を載せ脚に力を加えただけなのに私の脚には
その感触が伝わる。」
戦機人形としての私には感触と言うものがなかった。
何かに触る。何かを掴む。何かを殴る。
どれにしても戦機人形に接触した時の感覚は必要がない。
それが有る。藻武山の腹に脚を食込ませるその感触と感覚が私の体に刺激を生む。
「ぐぐぐ・・・。もっ。もうちょっと弱めに・・・でも・・・イイ」
[藻武山の癖に・・・偉そうに文句言うのか?私に物を頼む立場なのか?・・・
この豚野郎]
「ぶ・・・豚。・・・それがイイ」腹を踏まれる苦痛と快楽に藻武山が呻く。
踵に力を込めると藻武山が苦しそうに声を上げて喜ぶ。
私の中に有る種の快楽が生まれる。支配欲とでも言うのだろうか?
いつもは自分の体を調整し時に体の自由を封じる事も出来る藻武山が脚の下で
呻き転がる。
脚に伝わる感触が私の回路に変化を齎す。
支配欲と征服欲。それは私の心に絶対的な立場を快楽を教えてくれた。
「豚野郎・・・」履いた言葉に藻武山が喜び、又呻く。
「弐ⅱちゃん・・・。そういうのが好みなの?ちょっと引いちゃうわ~~~。
いきなり紫ビキニの豚を踏みつけるなんて玄人すぎるわよぉ~~~~」
[その言い方は誤解を生じると思うのだが・・・?
それに問題提起して相談を申請しているのだから
もう少し親身になってくれないだろうか?彩芽女史]
恍惚としなんか勝手にだらし無く果てて床に転がる藻武山を放りだし
私は真っ先に彩芽女史のブースを訪ねた。
「そうはいっても豚野郎っては言いずぎじゃない?
初めてのプレイで豚野郎なんてなかなか言えないわよ。
何処で覚えてきたの。弐ⅱちゃん?」
[頭に浮かんだと言うべきなのだろうか?
一応。私の言語辞書回路には人種の日常会話と営みに付いての情報が
格納されているようだ。
特に意識も認識もしてないのだが?いけないのか?
豚野郎は言っちゃいけない言葉なのだろうか?]
「え~~~と。普段使いには適さないわね。相手を下卑するって感じがするし。
さしひかえる・・・え?藻武山の奴。目を潤ませていた?本当に?
それは変態って言うのよ。
そうなると話は別ね・・・業界ではご褒美ってやつよ・・・クス」
意味ありげに彩芽女史が笑う。
[下卑を与えると喜ぶ輩がいると言う事なのか?・・・理解に苦しむぞ。
人種の夜営みには多彩な種類と技が有ると聞き及ぶが・・・其の一つなのか?]
「弐ⅱちゃん。がっつくわね。さすがヒトノイドの接触・感覚機構搭載ね。
でもいきなり。出っ腹藻武山の腹を踏みつけるなんて素質あるのかしらね?」
彩芽女史はきれいな顔で思い悩む。
[あれは良かれと思ってだ。むしろ訳わからず豚野郎の要望に答えただけである。
むしろ私が知りたいのは・・・其の時に脚に伝わる感覚と心に浮かぶ感情に
ついてだ。あれは何なんだ・・・・?]
自分が体感した事のない感情の変質と其の正体を知りたくて体を乗り出し彩芽女子の顔をぐいっと見つめる。
「・・・そうねぇ~~~。一口で説明するのは難しいわ。
大体。初めての相手と夜営みが藻武山の腹を踏むって言うのは今度の弐ⅱちゃんの
人生に影響が出るわね。
ここはやっぱり私が教えてあげないと・・・」
自分のブースの衝立の後ろで身を屈める彩芽女史が指を曲げ立てる。
恐らくは顔をもっと近づけろと言うことだろう。
人種の者を疑う事を知らない私は素直に身を乗り出す。
すぅ~と彩芽女子の細い指が硬い白陶器の頬を優しく包む。
まるで赤子を慈しむように。
チュッと音がした。私の仮面の唇に彩芽女史の柔らかく温かい唇が触れる。
甘酸っぱい香りと愛情の籠もる口づけ。私の唇に伝わる彩芽女史の唇の感触。
大人の香りを漂わせ彩芽女史が紅い舌を出して仮面を舐める。
唇の上にぬちゃりと音がして弐回舌が這いずり回り唾液が糸を紡いで離れる。
[もっと・・・]ビリビリと回路に痺れが奔る。たまらず声が漏れると・・・。
ピタリと私の体は完全に停止する。
卓上の操作パネルには(予期せぬ電流過多の為。緊急停止)の文字がチカチカと
点滅する。
「あらまぁ~~~。弐ⅱちゃんたら。初心なのね。初心すぎるわ。可愛いぃぃぃ。
・・・ついでにちょうどよかったりもして。緊急メンテナンスだわね」
予め企んでいたのだろうか?
それとも偶然なのだろうか?彩芽女史はコントローラーを握ると
私のレシーブディスクに糸針を伸ばし接続すると指元で操作し始める。
近眼の鰹武士七桜丞は自分が担当する戦機人形五五ⅵののTNC糸針器を握りながら当たりの騒ぎに気が付き顔を上げる。
それは普段は静寂を旨とする濠太剌利連州國・辺境統括整備研究所に
はあり得ぬ程の大騒ぎであった。
[おりゃ~~~~。このど変態整備主任・藻武山ぁ~~~~
彼奴はどこったぁ~~~。お前と同じ変態女の彩芽女史はぁ~~~どこへ行ったと
聞いておるのだっ]
この研究所でも唯一無二の存在。ただ一人戦機人形でありながらもヒトノイドの
規格体を持つ弐ⅱ。
普段は冷静沈着冷酷無慈悲無表情を誇る弐ⅱが血相を変え大声で喚く。
「いや。だから昼休みだって。遅くなったのは君の体を調整してたって
言ってたしぃ~~~」
[なっ!何が昼休みだ。ちょっと油断した途端。これだぞ。このざまだぞ。
・・・乳・・・乳がついてるんだぞ!。私の体に乳房がついているんだぞ!
何っ?それば元から有るだろうって?お前の目玉は硝子かぁ~~~?胸はあっても
乳房じゃなかった。
観ろ!しかも只の乳房じゃないぞ。巨乳だ!。ちなみにサイズはEカップだぞ!
こんなのどうしろって言うのだ?]
「Eカップだって。それは素晴らしいじゃないか?うんうん。淑女の誉だぞ。
みんな憧れるぞ」
[何が淑女の誉だぁ~~~。戦さ場で刀を振るう私に乳がいるか?
こんなおっきい乳がいるか?
邪魔なだけだぞ?こんなのぉ~~~。しかも肩こりが酷いとも聞くぞ?
重くって・・・何処の世界に自分の乳房が重くて肩こりに悩む戦機人形が居る
って言うんだぁ~~~
この紫ビキニの変態豚野郎めぇ。お前なんか蹴り潰してくれるわぁっ]
予備動作もなく振り上げた鐵四肢が藻武山を襲う。
激昂しているとはいえ安全機構も働いているのだろう。
ガンガンと鈍音が鳴り響きあっという間に藻武山のブース内の機材は鉄くずと化
していくものの当人はギリギリの所で怪我をせずにすむ。
もっとも趣味趣向と下着の色までばらされては主任義肢官としての威厳は
なくなるだろう。
白陶器の仮面は表情がない。それでも十分すぎるほど激昂し暴れる。
当人が驚き騒ぐ原因は彩芽女史に突然口づけされ初めて知った口づけの刺激に
ヒトノイドとしての接触・感覚機構が正確に正しく反応する。
元々戦闘用として創られてた弐ⅱには先刻までは必要とされず休眠状態であった
回路であるが件に過激に反応した際の後。
弐ⅱの体を緊急メンテナンスと称し以前から開発していた胸部を追加したと
同時に調整もされていた。
騒ぎを生還する鰹武士七桜丞にも弐ⅱの姿から目を離せずにいる。
弐ⅱの機体はもとより有名であり他の戦機人形を指揮する立場でもあるから目立つ。
然し今は以前にもましてよく目立つ。
荒々しく細くきれいなラインを描いて振り上げられる四肢。
それが振り下ろされる度に当たりの機材が粉砕されるが、
同時にEカップの乳も揺れる。
本来は戦機人形の胸部は硬質の強化装甲で覆われているのだが弐ⅱの
それは軟質の強化外装なのだろう。
しかも乳房の形も良く騒ぎを聞きつけてやってくる男性職員の視線が一点に集まる。
弐ⅱはヒトノイドの製作者が直接手を入れ作り上げた機体である。
戦用と言う御國の要請に逆らわずとも尻だけはこだり抜いた一品でもある。
只でさえ大きく形の良い尻であり担当義肢官を羨むのに今度は巨乳で有る。
しかもEカップ。それだけの物が揃えば漢も女も頬って置くわけなどないだろう。
[私の貧乳を返せぇ~~~。この変態ドスケベ紫ビキニ豚めぇ~~~~]
激昂した弐ⅱは藻武山の義肢ブースの機材を完全破壊したばかりではなく。
自分の体を勝手に弄り昼休みと称して雲隠れする彩芽女史を探し回り
司令局長が諌めるまで研究所内の廊下に拳で潰し職員用の飲料自販機を蹴り
壊しまくっていた。
「当人の様子はどうなってる?色々とけしからん状態では有るようだが」
「ひどく驚き憤慨して折りますしたが今は自室にてメンテナンスポッドに入り
休息しているようです」
一連の騒ぎを収めた研究所司令局長が担当義肢官の二人をオフィスに呼びつける。
「簡易報告レポートには目を通した。
ヒトノイドの性能試験確認の為と言うのは理解出来るが
少々やりすぎではないのか?特にあの四肢はけしからん」
仏頂面で蓄えた顎髭を意地ながら言い捨てる。
「いいえ。決してやりすぎではありません。むしろ慎ましいくらいです。
私奴がちょっと舐めただけで気絶する。否。緊急停止するほどヒトノイドの性能が
低いはずがありません」
「と?言うと何が起きててると言うのだ?」
「はい。司令局長殿。本来のヒトノイドはもっと統括的に物事を受け止め
処理すると聞きます。
当研究所所属のASH弐ⅱは少々敏感すぎる反応を返します。
つまりうぶなのかと・・・」
「何だと?戦機人形がうぶだと?それはけしからんな・・・
あの・・・ち・・・否なんでもない。
とにかく。これ以上の被害の増大はみとめられん。少々もったいなくはあるが。
予定の試験期間を繰り上げ、元に戻してやれ。これ以上暴れられても困る
・・・色々けしからんのだが」
報告を上げる二人の義肢官の話を司令官はあまり聞いてなかった。
怒りにまかせ所内の壁と備品を破壊して回る弐ⅱの四肢。
つまりは形の良くEカップの乳房が脳裏にくっきりと刻まれ他の事など上の空である
「けしからん・・・あの乳はけしからん・・出来ることなら。」
余り明るくもないオフィスで椅子に座り腕を組んで天井を見上げる様はそれで良いが
要は無骨な漢もやはりだたの助平と代わりはしないと言うことだ。
「はっ。班長っ!9時の方向に敵影。・・・巨乳です!」
狭い対戦機人形討滅戦指揮車の社内の中で怒声が上がる。
すぐにとなりの兵士が双遠鏡を巡らし追加報告する。
「指揮官クラスの戦機人形です・・・推定Eカップ」
「何だと?戦機人形がEカップだと?ありえんぞ。邪魔なだけだぞ?・・・映せ」
「通常ならありません。然しあれは間違いなくEカップの戦機人形です。映します」
狭い空間にパチパチと音が成り外部に付けられた球体カメラが回ると
敵戦機人形弐ⅱの姿がメインパネルに浮かぶ。
「新型か?あんな立派な胸を持つ戦機人形などみたことがないぞ?」
弐ⅱの姿に釘付けの班長が唾を飛ばす。
「既存義肢の改装にも見えますが・・・大きさだけでなく形も抜群です」
「新型だ。絶対にそうだ。放ってはおけんぞ。義体兵を集めろ。
・・・あの見事な乳。そしてあの揺れ方。とんでもない性能を持ってるに違いない。
ドローンを飛ばせ。全てを記録しろ。これは絶好のチャンスだぞ。逃してはならん」
「はっ。偵察義体を集めます。ドローン射出。・・・
目標・・・巨乳戦機人形・・推定Eカップ」
戦であれば命のやり取りだ。兵士も指揮官も自分の命を掛けて真剣である。
ただ・・・漢の性がそれを簡単に凌駕してしまうと言うだけの話である。
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