障らせる

見鳥望/greed green

【とある怖い話凸待ち配信】



「で、表面的にはその子、Sちゃんと仲良くしてたんだけど、実は裏でめっちゃSの事イジメてたんだよね。Sちゃんが自殺した時大泣きしてたんだけど、後々聞いたら”ほんとに死んだから面白すぎて涙出るほど笑ったよね”って言ってて、こいつめちゃくちゃ怖ぇなって思いましたね。まあ、ヒトコワってやつ?」







 どうも、初めまして。


 あ、そうですね。最近よく聞かせてもらってて、普段聞き専なんですけど、ちょっと今日はどうしてもしたい話があって。




 怖い……まぁ、怖いですかね。


 僕は、とても怖いですね。


 じゃあ、よろしくお願いします。



 障りのある話って、ありますよね。


 あれって本当なのかなって思うんですよね。


 話を聞いたから不幸が起きるとか、最悪死んでしまうとか。皆さんもどこかで思っているはずです。そんな事あるわけないだろって。




 話を聞いたから不幸が起きたのか、たまたま偶然が重なったのか。


 僕はどちらかと言えば後者でした。それって話を聞いた後だからそう思うだけで、無理やり結び付けているだけだって。


 そう考えた時、結局話を聞こうが聞くまいが、不幸は起きていたんじゃないのか。つまり、決められた運命に過ぎなかったじゃないかと思うんですね。




 じゃあどこまでが運命なのか。


 不幸という定められた運命があって、イレギュラーとして障りが差し込まれたのか。


 それとも話を聞く事自体も含めて運命だったのか。




 いずれにしても振り返れば全てが起きた後なのでどうしようもないんですけど、結局は不幸からは逃れられないって話なんじゃないかって思うんですよね。




 すみません、だらだらと前置きが長くなってしまって。


 所謂”障りのある話”っていうのを、つい最近聞かされたんです。




 はい。そうです。


 今から僕がする話は障りのある話です。


 まあ、ほとんどの方は大丈夫ですけどね。






 高校を卒業して半年後、友人のAから連絡がありました。久しぶりに会おうと。


 僕は当時から陰キャだったのでろくに友達もいなかったんですけど、その中で唯一友人と呼べる存在がこのAでした。久しぶりのAからの連絡が嬉しくて、数日後彼と会う事になりました。




 久しぶりに会ったAは右足にギプスを巻いていました。どうしたの?と聞いたら、「ちょっとな」と苦笑いしていました。 


 軽く飯でも食べながら喋ろうってことで、適当な店に入って昼食を取りながら僕たちは喋りました。何か用件でもあるのかと思ったんですが、最初は最近のお互いの近況話とか、高校の頃の思い出話とかで盛り上がって、そんな事も気にならなくなっていた頃に、




「ちょっと聞いてほしい話があるんだ」




 唐突にAは言いました。


 今まで楽しく話していたのに、急になんだか気まずそうな顔をするもんなので、何か悩みでも抱えているのかと思い、話を聞く事にしました。




「ごめんな」




 そう言って彼は話し始めました。何故この時彼が謝ったのかは、その時は全く分かりませんでしたし、気にも留めませんでした。ここからはAの話です。




 




 つい最近高校の友人Bに呼び出されたんだ。


 適当に入った店で最近どうだとか取り留めのない話をしていたんだけど、急に彼が「悪い。ちょっと聞いてほしい話がある」と言って、話し始めたんだ。


 何が悪いんだろうと思ったけど、とりあえず話を聞くことにしたんだ。






「少し前から妙な夢を見るようになったんだ。暗闇の中にぽつんと女の子が立ってて。よく見たら俺と同じ高校の制服を着てるんだよ。でも何が気味悪いかって、その女の子の後ろの暗闇にでっかく赤い文字で”17”って書いてあるんだよ。まるで血文字みたいにおどろおどろしい自体で」




 何だこの話は? ひょっとして怪談?


 そう思いながらもとりあえず話を黙って聞く事にした。




「でな、その夢が毎日続くんだよ。ただな、血の数字が減っていくんだよ。16,15,14って。それに合わせて女子高生の様子もおかしくなっていくんだ。腕が捻じれ、足が曲がって、どんどんひどくなっていくんだよ」




 Bは怯えている様子だった。




「気持ち悪いなと思いながら、なんだか起きている間もずっと嫌な感じがして。誰かに話さなきゃとか、何か良くない事が起きる気がして仕方がないんだ。焦燥感、みたいな。そしたらよ、夢を見て一週間が経った頃、車に撥ねられたんだ」




 言いながらBは右足のギプスを手でさすった。




「ここでカウントダウンの意味に気付いた。ほとんど直感に近かったけど、このままあの血文字が”0”になったら、俺は死ぬんだ。そして一刻も早く誰かに話さないと骨折どころじゃ済まない事になる」




 彼は「ごめんな」と謝った。


 そこで彼が、話始めに「悪いな」と言った理由がそういう事だったのかと理解した。




「これって、そういう系の話?」




 Bに尋ねると、彼はゆっくり頷いた。


 そんな馬鹿なと思った。でもその次のBの言葉で少しその考えが変わった。




「Cから聞いたんだ、全く同じ話を。Cも右足折れてたんだ」




 Cとは同じ高校のクラスメイトだった。


 つまり今Bがした話はCから聞いたもので、尚且つCも同じ高校の人間からこの話を聞き、障りにあったという事らしい。




「なんかあったら、お前も誰かに話せ」




 そう言ってもう一度ごめんなと言ってから、Bはその場を立ち去った。




 嫌な気分でしたよ。まるでマルチの勧誘にでもあったような不愉快さでした。


 唯一の友達だと思ったのに、僕は彼の被害を抑えるための傀儡として呼ばれただけだったんです。




「話はそれだけ?」




 僕は怒り気味で言いました。




「ごめん」




 彼はBと同じように謝りました。


 ただこんな話現実であり得るわけがないと、その時点でも僕は思ってました。だから怖いという感情はその時点ではなかったです。どちらかと言えば、裏切られたという気持ちの方が強かったです。僕は一つだけ気になる事があって質問しました。




「その女の子って誰なの?」




 おそらくは全員が同じ女の子を見ている。だとしたら僕も知っている人間だろう。




「すぐに分かるよ」




 まるで口に出すのも怖いような怯えた素振りで、Aは二人分の金だけ机に置き、さっさと帰ってしまいました。それはせめてもの償いというより、これ以上は関わりたくないといったような印象でした。とても嫌な気持ちになりながら、一日を終えました。




 眠りについたとき、Aの言葉が全て現実となりました。


 大きな17の血文字と女子高生。




 ”すぐに分かるよ”




 Sでした。当時同じクラスの女の子で、影も幸も薄そうな女の子でした。


 Sはイジメを受けていました。誰が見ても明らかでしたが、巻き込まれたくないからと誰も彼女を助けませんでした。主犯格の女グループから毎日のようにいびられていました。噂ですが、見た目は悪くなかった事もあってかウリみたいな事もさせられたり、男の遊び道具にされたりと相当酷い目にあっていたそうです。


 彼女は自殺しました。3月の卒業式前、自身の誕生日を迎える前、17歳の時に。飛び降り自殺だったそうです。






 Sはじっとこちらを見ていました。


 そういう事か。これは彼女の無念からくる復讐なのか。当時あのクラスにいた全員に対して。イジメた者、イジメを知りながらも助けてくれなかった者全てに。 




 僕は焦りました。


 彼女の復讐は理解出来ても、僕も死にたくはありません。


 生き残るには誰かに話すしかない。でも言った通り、僕の当時の高校の友人はAしかいないのです。それ以外の人間にこの話をしないといけない。でも、急に当時交流もなかったクラスメイトを呼び出して話す程の勇気もコミュ力もない。


 無情にカウントは減り続け、とうとう僕も階段から転げ落ちて右足を折りました。急がないと。








 そんな時、見つけました。


 そうです。ここです。


 こんな偶然があるのかって驚きました。


 最初、どこかで聞いたことのある声だとは思いましたが似ているだけだと思いました。


 でも、僕は確信しました。



 


 この前、Sちゃんの話をしていたよね?


 ある女の子が表面的には仲良くしているSを実は裏ではイジメていたって話。このSが偶然の一致かどうか。


 プロフィールからSNSとかを辿って確認したけど、ちょっと頑張ったらリアルのアカウントも見つかったよ。




 久しぶり、F。


 一応匿名にしといてあげるよ。


 僕の事なんて覚えてないだろうけど。




 君は僕と違って傍観者じゃない。


 主犯グループの一人だったよね。Sを犯したりもしてたのかな? 噂レベル? それとも事実?






 F、障りって信じる? 僕は信じるよ。


 立て続けにこんな事が起きたからじゃない。


 最初に言っただろ。運命なんだよ。




 話を聞いたから障りを受ける。


 違う。障りを受ける事自体も運命なんだよ。


 だからこそ、僕はこうやって君と再会できた。


 彼女の無念が運命を生み出したんだ。そうとすら思えるよ。




 ただそこにいただけの僕ですら足の骨を折られた。


 じゃあ君は? 当時Sをいたぶった挙句、こんな所でネタにまでした君はどうだろう?




 これは僕達のクラスが全員感染するまで終わらない。終われない。


 Sをイジメて泣き笑いした彼女にも伝えてあげなよ。


 きっと障られるから、彼女に。


 障りの条件は、Sを認識している事。そしてこの話を聞いたこと。


 この条件が揃っていれば、障りは発生する。










 ……え?




 もう知っている?




 彼女から聞いた?




 彼女は?




 あ、死んだんだ。




 なんだ。そうだったんだ。




 じゃあ、カウントが終わる前に彼女は話したのに死んだんだ。




 へー、そっか。まあ。そうだろうね。




 じゃあ、君も助からないね。

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