第7話 奥様は、地球人。

ぼくは、宇宙人です。地球から遠く離れた、水の星からきました。

でも、地球侵略が目的ではありません。ぼくは、惑星調査員643号といいます。

宇宙警察の組織の一つで、数ある星を調査するのが、ぼくの使命です。

ちなみに、ぼくには、名前はありません。星では、番号で呼ばれます。

 これまでも、たくさんの星を調査してきました。

そして、今度は、地球という星を調査することになりました。

 地球というのは、宇宙人ならだれでも知ってる有名な星なので、

ぼくも行くのが楽しみでした。

なぜなら、地球は、青く美しく、平和な星だからです。

調査に行く前に、地球のことは、学習しました。

 そして、いよいよその日がやってきたのです。

ぼくは、一人乗りの小さな宇宙船に乗り込み地球に向けて出発しました。

航海中は、生命維持カプセルに入って寝ているだけなので

何の心配もないはずでした。しかし、地球に到着する直前、

大気圏に突入するときに宇宙船に異常が発生して、地球のどこかに

墜落してしまったのです。

 ぼくは、何とか脱出できて無事でした。そして、ぼくは、この宇宙船が

見つかってはいけないと思い隠すことにしました。

たまたま、山奥だったことが幸運でした。

 何とか、宇宙船を隠すことはできたが、初めての地球で、右も左も

わかりません。しかも、このときは、真夜中で真っ暗だったので、

どこを歩けばいいのかもわかりませんでした。

 ぼくは、真っ暗な山の中を歩き続けました。そして、やっと明るいところに

たどり着きました。そこは、初めて見る、高くそびえるビルでした。

後で確認したら、それは、マンションという地球人が住んでいる

集合住宅でした。 

 ぼくは、地球人にこの姿を見られてはいけません。

もし、見つかって、通報されたりしては後が大変です。

暗闇にまぎれて隠れることにしました。そんな時、紙のようなものが風に

吹かれて飛んできたのです。それを拾ってみると、それは新聞という

情報誌でした。それについていた地球人の写真を見ました。

それが、初めての地球人の姿でした。

 ぼくは、とっさにこの写真の人物を参考に、地球人に変身しました。

そして、どこに行く当てもないまま、ひたすら歩き続けたのです。

しかし、エネルギーを使い果たしたぼくは、ついに倒れてしまったのです。

そこは、地球人の住む場所のようなところでした。

 そんな時、ぼくを助けてくれたのが、今の奥さんでした。


「あの、大丈夫ですか?」

 初めて地球人に声をかけられて、ぼくは、驚きました。

でも、このときのぼくは、疲れ果てていて逃げ出すこともできず、

小さな声でこういったのです。

「み、水……」

 そう言ったきり、立つこともできず、その場に倒れてしまいました。

そして、この地球人は、ぼくが宇宙人であることも知らずに、

助けてくれたのです。住居らしい建物の中に入れてくれて、

水を飲ませてもくれました。

他にも地球人がいるらしく、ぼくを助けてくれて、休ませてもくれました。

ぼくは、水を飲んだことで、安心して眠ってしまいました。

というのも、ぼくのエネルギー源は、水です。初めて飲んだ地球の水の

おいしさに、ぼくは、驚くと同時に安心したのです。

 明るくなってきたころに、目が覚めたぼくは、これからどうすればいいか、

考えが浮かびませんでした。

宇宙人のぼくを助けたなんてことを知ったら、どうなるのか想像も

つきませんでした。助けてくれた地球人には悪いが、逃げることしか

思いつかなかったのです。

見つかる前に逃げようと思い、体を液状化して、ドアの隙間から逃げました。

 このときのことは、今も申し訳ないことをしたと、反省しています。

その後、どこをどう歩いたのかもわかりません。地球という星は、

ぼくが事前に学習していた星とは全然違っていたので、

どうしたらいいのかわかりません。

たった一人で、地球に来たぼくは、これからどうしたらいいのだろうか……

 しかし、悩んでいる時間はないのです。ぼくは、この星を調査しに

来たのです。この星の生物、文化、食べ物、科学などなど、

調べるために来たのです。思い直して、調査することにしました。


 それからしばらく歩いて、ここが地球の日本という国だということを

知りました。日本人という生体について調べてみることにしました。

 数日たって、ぼくは、地球人というか日本人にもなれてきました。

新聞やテレビ、インターネットなどを使い、地球の情報を知ることも

できました。

 そんなとき、台風がこの町を襲うことを知りました。

台風というのは、雨と風が強く、場合によっては、町を破壊したり、

地球人にも被害が及ぶということを知識として知りました。

 ぼくの使命は、地球を調査することです。しかし、もう一つあります。

それは、その星の生物に危害が及んだときは、守らなければならないのです。

例えば、地球侵略する宇宙人や外敵から守るのです。

しかし、今の地球を侵略しようとするような宇宙人はいません。

外敵というなら、台風という自然災害からこの星の生物を守ることが、

今の自分に出来ることなのです。

 ぼくは、台風に立ち向かいました。大型の台風を自分の体に取り込むことで

日本という国を守ることに成功しました。死傷者もなく、被害も最小限に

留まりました。しかし、エネルギーを使い果たして、体の半分は

溶けてしまいました。ぼくは、近くに流れている川に体を流して、

水分を吸収して、どうにか元通りになりました。

地球の川の水は、とてもきれいで、ぼくの体にもあっていたのが

よかったのです。

 また、山が噴火してマグマが噴火したときも、同じことをしました。

そのときも近くに川があったので、助かりました。

 

 その後も町を歩いて、地球の様々なことを調べました。

なんとなく、ぼくを助けてくれた彼女とそこの住人のことが気になって、

あの時の記憶を思い出しながら、尋ねてみようと思いました。

 どこをどう歩いたのか、地理的にも不慣れなぼくは、いつしか歩き疲れて

気が付いたら、彼女のあの家にいました。

二度も助けてくれたのに、そのときも、ぼくは逃げてしまったのです。

 御礼をしなければいけないのに、何かされたらと思う気持ちのが

強かったのです。

ぼくは、地球人のことをまだ信用していませんでした。

 そんな時、ぼくは、山のどこかに隠した宇宙船を探しに行きました。

そこで、またしても彼女と再会したのです。

 地球に存在する、大きな生物と遭遇した彼女を助けたのです。

もちろん、超能力でその生物を威嚇して、直接脳に話しかけて、

その場を凌ぐことができました。

熊という生物は、知能が発達していたので、ぼくの問いかけに素直に

反応してくれました。地球には、人間以外にもいろいろな生物が

生きているのです。

 彼女と運命的な出会いを経験したことで、ぼくの中で、

何か感情的なものが生まれました。

「あなたは、何者なの?」

 そういわれて、ぼくは、考えるより先に自分が宇宙人であることを

打ち明けたのです。もう隠してはおけない。彼女には、すべてを話そうと

思ったのです。自分がどんなことになっても、彼女にだけは、

本当の事を話さなければいけないと思ったのです。

ぼくは、警察に突き出されたり、驚かれたり、怖がったりすることも

覚悟しました。

 だから、ぼくは、助けてくれたお礼を言って、このときも逃げたのです。

それなのに、彼女は、ぼくを追ってきたのです。そして、こういいました。

「ねぇ、いっしょに帰ろう。あなた、さっき、私の家族にお礼をしなきゃって

言ったじゃない」

 ぼくは、信じられませんでした。ぼくを必死に探して、追いかけて、

いっしょに帰ろうなんてとても信じることは出来ませんでした。

だから、本当の姿を見せればきっと、彼女もここから逃げるだろうと

思ったのです。それなのに、驚くだけで、声を上げたり、誰かに助けを

呼んだりもしなかったのです。

 ぼくは、そのまま彼女を抱き上げて空に飛びました。

彼女は、ぼくにしっかり抱きついたまま、空を飛びます。

ぼくの正体を知った地球人をこのままにしておくわけにもいきません。

しかし、彼女の顔を見ると、そんな気持ちは、なくなりました。

 そして、彼女をウチまで送り届けると、家族と呼ばれる住人たちの

家に招かれました。今度こそ、何かされると思いました。

しかし、この家族という人たちは、驚くだけで、ぼくを迎え入れて

くれたのです。ぼくは、夢を見ているようでした。

もちろん、何かされてもいいように、常に緊張していました。


 ぼくは、このときのことを一生忘れません。ぼくは、この家族の身に

何かあっても必ず守ろうと決心したのは、このときでした。

 ぼくのことを必死で語る彼女を見ていると、感情と言うものが

初めてわかりました。

水で出来た冷たい体のぼくの中に、何か温かいものを感じたのです。

彼女が家族を説得している声を聞いているうちに、何かが変わった気が

したのです。そして、ぼくは、勇気と覚悟を持って、この家族の前で、

変身して見せました。もちろん、みんな驚いていました。

しかし、この家族は、驚くだけでそれ以上のことはありませんでした。

ぼくは、助けてくれたお礼だけを言って、出て行こうとしました。

そんなぼくにこの家族は、こんなことを言ったのです。

「待ちなさい。とにかく、こっちに座りなさい」

 家族の中の一人がぼくを引きとめたのです。

ぼくは、この地球人がなにを言っているのか理解できませんでした。

「俺は、信用したから」

 この言葉を聴いたときは、ぼくは、どう反応したらいいのか

わかりませんでした。まだ、地球人を信用できなかったのです。

「まずは、キミにお礼を言わないといかんな。娘を助けてくれてありがとう」

「あなたは、娘の命の恩人なのよ。ホントにありがとうございました」

 今度は、ぼくの方が驚きました。まさか、地球人のほうからお礼を

言われるとは思わなかったのです。

どうしていいか、まったくわかりませんでした。

 それどころか、何事もなかったかのように、話を始めました。

ぼくは、彼らの会話を聞いていると、なぜかわからないけど、

自分のことまで話していました。宇宙から来たこと、任務のこと、宇宙船のこと

なぜかわからないけど、ぼくは、この地球人たちの前では、素直になれました。

 しかも、ぼくに名前までつけてくれました。地球名は『光一』です。

名前のなかったぼくは、この名前をとても気に入りました。

これで、ぼくは、地球人になれたと思って、すごくうれしかったのです。

それと同時に、ぼくを受け入れてくれたこの住人たちに、

涙があふれそうでした。

 

 それからぼくは、この家に住むことになりました。

そんな住人たちといっしょに住んでいるうちに、いろいろなことが

わかりました。

 お父さんは、家族のまとめ役。家族のために働き、子供を育て、

困ったときには頼りになるとても素晴らしい人です。

ぼくが一番尊敬している地球人です。

 お母さんは、家族を優しく守り、子供を大事にして、時には厳しく育てている

とても頼もしい地球人です。何より、ぼくにおいしい水を飲ませてくれました。

この星で、もっとも素晴らしい地球人でした。

 弟の裕司くんは、家族思いで、僕に地球のことをいろいろ教えてくれた

ぼくのなくてはならない地球の先生です。ぼくを『兄貴』と呼んでくれるなど

親しみがもてる、すごく理解がある、頭のいい地球人でした。

 そして、ぼくの奥さんになる玲子さんは、この家にはなくてはならない

存在です。明るくて、元気で、感激屋で、泣き虫で、でも、がんばり屋で、

ぼくを受け入れてくれた初めての地球人でした。

このときは、まさか、地球人と結婚するなど、夢にも思っていませんでした。

 でも、彼女と接しているうちに、ぼくの気持ちも少しずつ

傾いていったのです。地球人を好きになるということが、どういうことなのか、ぼくにはわかりません。なのに、彼女を前にすると、自然と地球人を

愛するということが出来ました。不思議な感情です。

宇宙人のぼくには、誰かを好きになるとか、愛するという気持ちは

感じたことはありません。なのに、彼女には、そんな気持ちが生まれたのです。

 ぼくが地球人としての自覚が芽生えたのも、彼女のおかげです。

しかし、ぼくは、まだまだ地球人のことを理解していませんでした。

彼女に対してどう接したらいいのかわからなかったのです。

だけど、彼女に対する気持ちは変わりませんでした。

 彼女と初めてデートをしたときに手を繋いだことは、とても勇気が

いることでした。その帰りに初めての告白をしたとき。

家族から、彼女と結婚する話が出たときなどかなり緊張していたのを

思い出します。彼女は、感情が高ぶって家族との間でいろいろなことが

ありました。

でも、彼女がこういったとき、ぼくの緊張感はなくなりました。

「私と結婚してください。大好きです。あなたを愛してます。

だから、だから……」

 ぼくは、彼女を幸せにしようと思った瞬間でした。

もう、宇宙人と地球人とは、関係ありません。

愛する人を幸せにするという、純粋な気持ちしかなかったのです。


 その後も、ぼくの宇宙船を探すことにも協力してくれました。

そして、宇宙船も見つかりました。ぼくは、悩みました。

このまま宇宙船で自分の星に帰るか、地球に残って、地球人として暮らすか、

どちらにしても、ぼくは、彼女と離れることは選択肢にありませんでした。

彼女のことを思えば、ぼくと別れて地球人と幸せなる方が、

いいに決まっています。それなのに、彼女は、ぼくについて行く道を

選んだのです。

「私と結婚してください。よろしくお願いします」

 彼女にそういわれたときは、自分の耳を疑いました。

宇宙人のぼくと結婚する地球人がいるはずないと思ったのです。

「ねぇ、光一さん。どうして、いっしょに着てくれって言ってくれないの?

もう、私たちは夫婦なのよ」

 彼女からそういわれたときは、ぼくは、感動したのを覚えています。

「よし、それじゃ、乾杯しよう、乾杯。姉ちゃんと兄貴の結婚式をやるんだよ」

 弟の裕司くんの言葉を聞いたときは、胸に熱いものがこみ上げてきました。

ぼくは、地球人に助けられて、この地球人の家族と出会えて、

宇宙一の幸せ者だと思いました。

地球人のすべてに感謝したい気持ちでした。地球に来てよかったと、

心から思いました。

 そして、いよいよ宇宙船で帰るときがきました。

なにから何まで、地球に不慣れなぼくのために、家族のみんなが

助けてくれました。ぼくは、彼女と宇宙船を奪還するという、

宇宙人のぼくでも考え付かないような大胆な作戦を考えて

それを実行することになりました。無事に宇宙船に乗り込み、宇宙に脱出にも

成功しました。

 僕は、このまま彼女と自分の星に戻ることを信じていました。

でも、本当のことをいえば、地球人として、彼女と彼女の家族と

暮らしたいと思う気持ちのが強かったのも事実です。

だから、あの時、星からの指令で、地球の調査を続行するように言われたときは

心の底からうれしく思いました。これからも彼女と地球で暮らせると思うと

気持ちがワクワクして、その感情を抑えきれませんでした。


 地球に戻り、彼女と家族のみんなと暮らせることに感謝して

本当に彼女と結婚式を挙げ、幸せに暮らすようになりました。

新婚旅行に行ったとき、ぼくは、任務を辞めて、本当に地球人として

暮らす道を選びました。そのことに後悔はありません。

むしろ、清々しい気持ちでした。

 それからは、彼女との間に子供が生まれ、お父さんのあとを継いだ

弟の裕司くんのためにぼくが出来ることをしようと決めて、

仕事を手伝うことにしました。

 こうして、ぼくは、地球人として生きるようになりました。

ぼくは、地球に来たことを自分の星に感謝すると同時に、自分の生き方を

教えてくれた彼女と家族にも感謝しています。本当にありがとうございます。

 ぼくは、幸せです。彼女と素敵な家族に囲まれて、自分にも家族も出来て

これからも生きていこうと思っています。

 地球は、素晴らしい星です。地球に来て、本当によかった。

ぼくの告白は、これで以上です。

「光一さん、ご飯できたわよ。子供たちをお願いします」

「ハーイ、今行く」

 ぼくの奥さんが呼んでます。では、皆さん、また、お会いするのを

楽しみにしています。 

            終わり

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私の彼は、宇宙人 山本田口 @cmllaaa

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