第6話 私の夫は、宇宙人。

「いえ、やっぱり、一人で行きます。令子さんの気持ちを思えば、

無理はありません」

「しかしだな。令子と光一くんは、結婚したんだぞ」

「ですが、やっぱり、令子さんは、地球に残るべきです。皆さんといっしょに、地球で暮らす方が……」

 初めて見る、彼の淋しそうな顔を見て、私も心が締め付けられます。

今まで、彼にどれだけ助けられたか、それを思うと私も自分の気持ちに素直に

ならなきゃと思います。

「ぼくは、一人でも大丈夫です。皆さんのことは、忘れません。

今までありがとうございました」

 彼は、そういって、深々と頭を下げました。心なしか、目が潤んでいるように見えました。家族の誰もが口を開けず、押し黙ってしまいました。

すると、弟が私に言いました。

「いいのかよ、姉ちゃん。ホントにいっしょに行かなくていいのかよ?

姉ちゃん!」

 弟の一言で、決心しました。そして、思い切ってこういいました。

「ねぇ、光一さん。どうして、いっしょに着てくれって言ってくれないの?

もう、私たちは夫婦なのよ」

「……」

「私は、あなたの妻なのよ。付いて行くのが、当たり前じゃないの。

そりゃ、家族と別れるのは淋しいわよ。でも、いつかはお嫁に行くのよ。

いやでも、家族とは別れるときがくるのよ。それが、今なの」

「令子さん…… ありがとうございます。でも、やっぱり、いっしょに宇宙に

行くというのは、無理です」

「そんなことないわ。行ってみなきゃわからないじゃない」

「お父さん、お母さん、裕司くんのことを思うと……」

 彼は、真剣な目で父や母、弟を見ながら言いました。

「あのね、光ちゃん。もう、あなたは、私たちの家族よ。そんなこと

言わなくていいの」

「そうだよ。兄貴は、もう、オレの兄貴じゃん。姉ちゃんと結婚するなら、

俺は大歓迎だぜ」

「光一くん。娘をよろしく頼む」

 そういうと、父が頭を下げたのです。私は、そんな父を見て、涙が頬を

伝うのがわかりました。

「わかりました。令子さん、ぼくに付いて着てくれますか?」

「ハイ。宇宙でも、どこでも、どこまでも、ついて行きます」

 私は、涙を手で拭って、はっきりといいました。

「よし、それじゃ、乾杯しよう、乾杯。姉ちゃんと兄貴の結婚式をやるんだよ」

「そうだな。結婚式は、ちゃんと上げる時間はないが、我々だけでもやって

いいんじゃないかな」

「そうね。たいした物はないけど、すぐになんか作るわ」

「お母さん、私も手伝う」

「何を言ってるの。あんたは、お嫁さんでしょ。そんなことしなくていいの。

光ちゃんの隣に座ってなさい」

 母は、そういって、エプロンをつけ始めました。私は、母の後姿を胸が

熱くなる思いで見ました。

「裕司、もう一度、地図を見せろ。令子は、これをちゃんと頭に入れるんだぞ」

「うん。わかった」

「俺、もう一度、ネットを見てくる。正確なことがわからないと、

出来ないことだからな」

 そういうと、パソコンを持って、二階に上がっていきました。

「皆さんには、最初から、お世話になってばかりで、申し訳ありません」

「なにをいっとるかね。光一くんは、台風のとき、噴火のとき、令子の事、

何から何まで世話になったのはむしろ、私たちのほうだぞ。勘違いされては、

困るな」

 父は、笑いながら言いました。

すると、弟が二階から降りてくると、慌てた様子で言いました。

「父さん、テレビをつけて」

 言われた父がテレビをつけると、夜のニュースで、宇宙船のことを

やっていました。テレビのアナウンサーが言うには、輸送日は、あさっての

朝ということでした。輸送ルートも、父が予想がどおりであることも、

明らかになりました。

「明日一日、猶予があるわけか。裕司は、明日一日かけて、なるべく情報を

集めろ。私もいろいろ調べてみる」

「任せてよ。姉ちゃんじゃ頼りないからな」

「ちょっと、それ、どういう意味よ?」

「母さんは、二人ために荷物の準備をしてやってくれんか」

「わかってますよ。でも、荷物になるから、なるべく少なくするわね」

 なんだか、家族全員が一つにまとまった感じがしてきて、私もなんだか、

ワクワクしてきました。

「ハイ、お待たせ。たくさん食べてね。特に光ちゃん、思い残すこと

ないようにね」

「ハイ、いただきます。お母さんの料理は、みんなおいしいです」

「そうね。もう、令子のまずい料理しか食べられなくなるからね」

「もう、お母さん、なに言ってるのよ」

 私は、そんなやり取りがおかしくて、笑ってしまいました。

父は、早速、ビールを出してきて、彼に注ぎました。その日の夕食は、

今までで一番楽しかった夜でした。


 そして、翌日は、日曜日で会社もお休みです。

起きてくると、ダイニングには、父も弟もいませんでした。

「お母さん、裕司とお父さんは?」

「朝から、出かけてるわよ」

 どこに行ってるのかわからないけど、特に気にも留めませんでした。

私は、母と彼と三人で朝食を食べます。

「お母さんも、これから明日の準備に忙しいから、あんたたちは、二人で

デートでもしてきなさい」

「えっ?」

「今日が最後の日でしょ。二人で、ちゃんと思い出を作ってきなさい」

「お母さん……」

 私は、母の思いやりに感激しました。

「ですが、みんな明日のためにいろいろと忙しいのに、ぼくたちだけ

遊んでいるわけにはいきません」

「そうよ。光一さんのいう通りよ。私も何か手伝いくらいするわよ」

「何を言ってるの。今日が最後でしょ。光ちゃんに地球の思い出を

作ってあげるのが、アンタの役目でしょ」

 そういわれると、そのとおりです。私は、彼のほうを向いて言いました。

「お母さんの言う通りよ。今日一日、私に付き合って」

「令子さん…… ありがとうございます」

「ねぇ、どこに行きたい?」

「う~ん、急に言われても……」

「それじゃ、私が行きたいところでいい?」

「ハイ、令子さんの行きたいところなら、どこでも行きます」

「それじゃ、決まりね」

 私は、明るくいうと、二階の自分の部屋に戻って、一番のおしゃれの服を

撰びました。彼のために念入りに化粧もして見ました。

「お待たせ。それじゃ、行きましょう」

「れ、令子さん……」

「なに、なんか、私の顔についてる?」

「イヤ、すごくきれいで、ビックリしました」

「そういってくれると、うれしいわ」

 私は、そういって、ちょっと照れました。

「アンタもやれば出来るじゃないの。がんばったわね」

 母もそういって褒めてくれました。

彼も、前にいっしょに買った服に着替えると、二人で家を出ました。

「それで、どこに行きますか?」

「うん、それはね、空よ」

 私は、そういって、空を見上げました。

「空のデートって言うのは、どうかしら?」

「わかりました。どこまでも飛んで行きますよ」

 そういうと、彼は、回りに人がいないのを確認して、本来の姿に

変身しました。そして、私を軽く抱き上げると、あっという間に大空高く

舞い上がったのです。

「空の散歩は、どうですか?」

「すごく気持ちいいわ」

「それで、どこに行きますか?」

「どっか遠いところがいいわ。海とか見てみたいなぁ」

「わかりました。では、参りましょう」

 私は、彼に抱かれて青空デートを楽しみました。

頬を撫でる風、なびく髪、抜けるような青空と、下を見ると小さく行きかう人と巨大なビル郡などすべてが気持ちよくて、楽しくて、夢中でした。

 やがて遠くの方に海がかすかに見えてきました。

少しずつ、潮の匂いもします。海が近づいてきたのがわかります。

 かもめがすぐ目の前に見えました。私は、そんなかもめに手を振る

余裕までありました。波音が聞こえて、私は感動すら覚えました。

 彼は、人気のない岩場に下りました。そして、元の彼の姿に変わります。

「ねぇ、光一さん。私にキスしてくれない?」

「えっ? えーと、キスというのは……」

「アラ、裕司から教えてもらってないの?」

「ハイ、それは、わかりません」

「それじゃ、私が教えてあげるわね。目を閉じて」

 私が言うと、彼は、素直に目を閉じました。

私は、背伸びをして彼を抱き寄せると、彼の唇に自分の唇を軽く合わせます。

「もう、いいわよ」

「あ、あの…… 今のは……」

「好きな人にしか、しないのよ」

 すると、彼は、納得したように頷きました。私の唇を奪った宇宙人なんて、

きっと彼だけです。 彼は、岩場に腰を下ろすと、言いました。

「やっぱり、地球に来てよかった。令子さんに会えて、ホントによかった」

「私もあなたに会えてよかったわ」

 私も気をつけながら、彼の隣に腰を下ろします。

「ぼくの星では、地球人のように、好きとか愛とか、そんな感情はありません。でも、ぼくは、令子さんに会って、

人の感情というのを教えてもらいました」

 私は、黙って、彼の話を聞きました。

「なんだか、うれしいのに変ですね」

 私は、横顔を見ると、彼が静かに涙を流していました。

「おかしいですね。宇宙人なのに、令子さんみたいに泣くなんて」

「全然おかしくないわよ。宇宙人だって、楽しいときには笑って、

悲しいときには泣くのよ」

 彼は、涙を拭って、何度も頷いています。

「私は、光一さんのことを宇宙人なんて思ってないから」

 彼は、ビックリして私のほうを見ました。そして私は、真っ直ぐ海のほうを

見つめながら言いました。

「私だけじゃないわ。お父さんもお母さんも裕司も、みんなあなたのことは、

同じ地球人なのよ」

「ハイ」

「これから、よろしくね。私は、何があっても、あなたに付いて行くから」

「ハイ、ありがとうございます」

 そういうと、初めて彼のほうから私を抱きしめてきました。そして、自然に

唇同士が触れ合いました。

「愛している人には、キスをしてもいいんですよね」

「もちろんよ」

 私は、彼の問いかけにそういって、もう一度、唇を重ねました。

夕日が迫って、青かった空が少しずつオレンジ色に変わっていきます。

 そして私たちは、波打ち際を手を繋いで歩きました。

なんだか、中学生のデートみたいだけど、今の私たちは、それくらいで丁度

いいのかもしれません。いつまでも歩いていたいなという気持ちで、

何も話もしないのに、胸が一杯になりました。

 すっかり夕日も落ちて、暗くなってきたのをきっかけに、私は来たときと

同じように彼に抱かれて空を飛んで帰りました。


「ただいま」

 私は、玄関のドアを開けて彼と中に入りました。すぐに母が、

顔を出して言いました。

「お帰り。どこに行ってたの?」

「海を見に行ってきた」

「もっと他に行くとこなかったの?」

「いいじゃない。楽しかったんだから」

 私は、そういって、二階に上がって、部屋着に着替えて、一応化粧も

落としてから、一階に戻ると、父と弟も席に座っていました。

「さあ、光ちゃんも令子も座って。今日は、お祝いよ。張り切って、

いろいろ作ったからね」

 母は、そういうと、忙しそうにしています。

「それじゃ、これは、俺から兄貴と姉ちゃんにお祝い」

 弟は、そういうと、大きな箱をテーブルの真ん中に置きました。

「姉ちゃん、開けてみな」

 言われて私は、その箱を開けました。すると、それはケーキでした。

真ん中に、ハッピーウェディングとチョコで書いてあります。

「裕司……」

「ちょっと小さいけど、友だちがケーキ屋をやってるから、

作ってもらったんだ」

 私は、感激して、自然に涙が流れていました。まさか、あの弟が

こんなことをしてくれるとは思いもしません。

「父さんは奮発して、いい酒を買ってきたから、光一くんも飲もう」

 父は、冷蔵庫から、高そうなシャンパンを出してきました。

そして、グラスを人数分並べると、コルクの栓を抜きます。

ポンと言う音ともに、溢れる泡に慌てて、グラスに注ぎます。

「オレにも飲ませてよ」

 弟が言うと、父も笑いながらこう言いました。

「今日は特別だからな。でも、一杯だけだぞ」

 父は、そういって、弟にもついでいました。

「姉ちゃん、これ」

 弟は、そういって、ティッシュの箱をよこします。

私は、何枚か取ると、止まらない涙を拭きました。もちろん、ついでに

鼻もかみます。

「それじゃ、母さんも」

 父は、母にもグラスを取りました。

「それじゃ、令子、光一くん、結婚おめでとう。乾杯」

「乾杯!」

 五人のグラスがカチンと合わさります。

「姉ちゃん、いつまでも泣いてんじゃねぇよ」

 弟に言われても、何も言葉が出ません。母が、小さなナイフを

出してきました。

「ケーキカットは、二人でね」

 そういって、私たちにナイフを握らせました。

「光ちゃん、これは、ケーキカットといって、結婚式をするときに、

二人でやるのよ」

 母に教えてもらいながらナイフを持ちます。私は、その手に自分の手を

添えました。

「こっち向いて。もっと笑ってよ。姉ちゃん、顔がブスだぞ」

「うるさいわね」

 私は、泣きながら怒っても、まったく弟には効果はありません。

「こんなときに、ジャージなんか着てんなよ。ドレスとは言わないけど、

もうちょっといいの着ればいいのに」

 言われて見れば、今はリラックスした、いつもの部屋着です。

こんなことなら、着替えてこなきゃよかったと後悔しても、手遅れでした。

 二人でケーキにナイフを入れると、父と母が拍手をしてくれました。

そして、母が小さく切り分けると、みんなで食べました。

このときのケーキの味は、一生忘れることはありません。

 たくさんの人に祝福されての結婚式とは、まるで違う家族だけの

小さな結婚式でした。でも、私は、とても幸せに感じました。

「おいしいわね」

「ハイ、とても、甘くておいしいです」

 私は、ケーキを頬張りながら彼に笑いかけます。すると、彼は、指で私の

目のところを軽く拭いました。

「令子さんは、いつも泣いていますね。ぼくは、笑ってる顔のが好きですよ」

 また、私を泣かせるような優しい言葉を聞いて、笑わないといけないのに、

涙が止まりませんでした。

「光一くん、グッとやりなさい。令子は、飲みすぎるなよ」

「わかってるわよ」

 私は、強がりを言って、一気にグラスを開けました。

「さぁ、いろいろ作ってみたから、たくさん食べてね」

 母がいつもより時間をかけたのか、手料理をたくさんテーブルに並べました。

「すっげぇご馳走。いただきます」

「裕司、食べるのはいいが、大事なことを忘れるなよ」

「わかってるよ。カメラマンだろ」

 そういうと、弟は、ハンバーグを一切れ口に入れると、私たちに向けて

シャッターを切りました。

「ちょっと、変なときに写さないでよ」

「それのがリアルでいいじゃん」

「もう、やめてよ」

 私は、むくれると、彼は、釣られて笑い出します。

「兄貴、姉ちゃんを頼むな」

「ハイ。任せてください。でも、令子さんがいなくなると淋しいんじゃ

ないですか?」

「全然。むしろ、清々するし。それと、姉ちゃんの部屋は、俺が使うから」

「ちょっとアンタ、なに勝手なこと言ってるのよ」

「だって、部屋が開いてるじゃん」

 小さいころは、私の後についてくるだけの弟が、生意気なことを言うのを

見て少し頼もしくも感じました。

「アンタこそ、お父さんとお母さんのこと、頼むわよ」

「バカもん。父さんも母さんも、まだまだ裕司の世話になるほど、

年寄りじゃないぞ」

「そうよ。まったく、この子ったら……」

 父と母は、笑って言いました。私も結婚したら、父や母みたいな家庭を築いていきたいと思いました。

「余り酔わないうちに言っておくぞ」

 父が真面目な顔をして言いました。

「テレビや新聞の報道のように、明日の朝の9時に奥多摩から宇宙船の輸送が

始まる」

「ネットの情報でも、間違いないよ」

「計画通り、横田基地に入る直前に二人は、宇宙船を乗っ取り、

そのまま行くんだ」

 私も彼も、父の言葉に、大きく頷きます。

「今夜は、地球の最後の夜だからな。しっかり食べて、今夜はぐっすり

寝るんだぞ」

 今夜が、私にとっても、彼にとっても、地球にいる最後の夜なのです。

私は、これで、家族とも別れないといけません。父や母と別れるのは

淋しいけど、もう決めたことです。

決断した以上は、もう泣きません。笑ってお別れすると決めたのです。

 この夜の出来事は、今の私にも、彼にとっても、最高の思い出になりました。


 そして、いよいよ今日がやってきました。家族との別れと彼との

新たな旅立ちです。今日一日は、絶対泣かないと、心に決めました。

動きやすい服装がいいと思って、勝負服に選んだのは、ジーパンとお気に入りの

Tシャツです。 ちゃんと着替えてから、一階に降りました。

父と母には、きちんと挨拶しなきゃと思って気合をこめます。

「姉ちゃん、遅いよ。兄貴もメシを食ったぜ」

「えっ!」

 私の気合と緊張が、一気に崩れました。こんなときに弟は何を言ってんのか、今日が何の日かわかってるのか思わず殴ってやろうかと思いました。

「ほら、アンタも早く食べちゃいなさい」

 母は、いつもの朝ご飯をテーブルに置きました。

「いただきます」

 私は、そういって、ご飯を食べ始めます。

「お父さんと光一さんは?」

「支度してるわよ。アンタが一番遅いのよ」

 そうだったの? 彼も父も、こんなに早く起きていたの? だったら、

私も起こしてくれればよかったのに。

そう思いながら、私は、急いで食事を済ましました。

「ご馳走様」

 それだけ言うと、彼の部屋に行きました。

「令子さん、おはようございます」

「おはよう」

「まったく、今日は大事な日だというのに…… 寝坊するとは、先が思い

やられるな」

 父は、呆れた様子で言いました。

「あの、それはそれとして、準備は出来たの?」

「とっくに出来ているぞ。光一くんと母さんがやってくれた」

「そうなの…… ごめんなさい」

 私は、そういうしかありませんでした。

「それじゃ、光一くん、しっかりやってきなさい」

「ハイ、お父さん。ありがとうございました」

「娘を頼むぞ」

「ハイ、令子さんと星に帰ります」

 なんだか、また、涙腺が緩みそうな会話を聞いて、私は、唇を噛みました。

「姉ちゃん、早くしろよ。もう、輸送始まっちゃうぞ」

 弟に急かされて、気もちをを入れ直します。

「ハイ、これ。着替えとおにぎりが入ってるからね。お腹が空いたら二人で

食べなさい」

 母がリュックを私によこしました。

「お母さん、ありがとう。それから、その…… 今まで育てて……」

「そんなこと言ってる時間はないわよ。早く行きなさい」

 母は、そういって、玄関に向かいます。挨拶くらいしなきゃと思って、

昨日の夜に寝ながら練習したのに……

「お前もそんなとこに突っ立ってないで、早くしなさい」

 父が私の背中を押すように玄関に向かわせます。

「あの、ちょっと…… お父さん、待ってよ」

「姉ちゃん、早く早く。輸送始まったよ」

「地図は持ったか? 道は覚えたな」

 父が念を押します。もちろん、昨夜何度も見て、頭に入っています。

「それじゃ、お父さん、お母さん、裕司くん、行ってきます。

今までありがとうございました」

「いいのよ。それより、気をつけてね」

「兄貴、向こうに着いたら、手紙でもメールでもいいから、連絡くれよ」

「令子、足手まといにならんようにな」

 彼が玄関まで行くと、靴を履いて、家族にきちんと挨拶してくれました。

私も彼に並んで挨拶しようと思って、一度深呼吸してから、顔を前に

向けました。

「お父さん、お母さん、今まで……」

「そんなこと言ってる場合か」

「まったく、最後まで、手を焼かせる子ね」

「姉ちゃんは、グズだからな」

 私が言いかけた言葉を遮ると、玄関から追い出されました。

そして、彼は、回りを見渡し、人が歩いていないことを確認すると、

元の姿に変身しました。私の手をしっかり握り、そのまま体を軽々と

抱き上げます。

「では、行ってきます。皆さん、さようなら」

「兄貴、姉ちゃん、元気でな」

「気をつけるのよ」

「しっかりやるんだぞ」

 そういうと、彼は、私を抱き上げたまま高く飛び上がりました。

イヤ、ちょっと待って、私まだ何も言ってないよ……

会社のこととか、夕子とか友だちのこととか、まだ、言うことあったのに、

いきなり行くの……

「ちょっと…… ちょっと待ってぇ……」

 私は、下で手を振る家族に向かって大声で言いました。

でも、父にも母にも、その声は届いていません。みんな笑顔で手を

振っているだけでした。そして、その姿も少しずつ、小さくなっていきました。

「なに、これ…… 娘らしい最後の挨拶しないで、いっちゃうの?」

「ハイ、昨日、お父さんたちに言われました。きっと、令子さんは、

何か言ってくるって」

「どういうことよ?」

「お父さんは泣きそうになるので、何も聞かないって」

 父は、そんなことを思っていたのかと、初めて知りました。

「会社のことや令子さんのお友達のことは、お父さんがうまく言って

くれるから、心配するなって言ってました」

 裏では、私のことをすごく気を使ってくれていたことを知って、

感激しました。

「それと、裕司くんは、令子さんの部屋は、そのままにしておくって

言ってましたよ」

「そうなの?」

「帰ってきたときのために、ちゃんと掃除もしておくって言ってました。

裕司くんは、とてもいい人ですね」

 弟のホントの気持ちを知って、涙を我慢できなくなりました。

「令子さん、前を見てください。こっちでいいんですか?」

 彼に言われて、ハッとしました。泣いてる場合じゃありません。

これからが本番なのです。気持ちを切り替えなきゃと、自分に強く

言い聞かせました。せっかく、ここまでお膳立てして、気持ちよく

送り出してくれた家族のためにも、彼のためにも、私がしっかりしなきゃと、

気持ちを新たにしました。


 私は、彼の背中に座って、下を見ます。

彼は、ゆっくり飛んでいるので、落ちる心配はありません。

すっかり空を飛ぶことにもなれたので、私も安心して下を見ることが出来ます。

 風に吹かれながら目を凝らしてみると、はるか向こうの道路の両脇に見物人と思う人たちが大勢カメラを手にしているのが見えました。

「アソコよ、アソコを通るはず。あっ、見えた」

 私は、下を指差します。すると、警察車両に挟まれて、巨大なトレーラーに

乗った銀色の宇宙船が見えました。全貌を始めてみました。

丸い円盤かと思ったら、細長くて楕円形の小さなものでした。

見た目がツルッとして、ドアらしきものも何も見当たりません。

いったい、どこから入るのか、私には、まるで見当がつきませんでした。

「アレが、あなたが乗ってきた宇宙船なの?」

「そうです。小さいでしょ。一人乗りだから、アレくらいが丁度いいんです」

「私も乗って大丈夫なの?」

「令子さんくらいなら、問題ありませんよ。乗り心地はわかりませんけどね」

 彼は、そういうと、少しずつ高度を落としていきます。

「まだよ。もう少し、慌てないで大丈夫だから。アレと平行に飛んで」

「ハイ、わかりました」

 私は、慌てないように気持ちを引き締めました。後は、タイミングだけです。

緊張感で、震えそうになるのを我慢します。ここで、落ちたりしたら、

全部が台無しです。 それからもしばらく道路を走る宇宙船に合わせるように、彼はとんで行きました。下にいるたくさんの見物人たちからは、

私と彼の姿は見えません。

 その時、私の視界に、広大な敷地が見えてきました。

「アレが横田基地ね。光一さん、見える?」

「ハイ、見えます」

「もうすぐよ。もうすぐ、信号が見えるから」

 すると、彼は背中に乗っている私を、抱き直すと体制を変えて飛びました。

「アソコ、あの信号よ。アソコで一反止まるから、飛び移るなら、そのときよ」

 さらに高度が低くなっていきます。トレーラーのスピードが落ちてきます。

「もうすぐ、もうすぐだから、慌てないで」

 私は、呪文のように言いながら、顔だけ下に向けます。

彼は、さらに高度を落としながら、トレーラーの速度に合わせて飛びます。

そして、そのときはきました。信号が赤に変わり、トレーラーは止まりました。

「今よ」

 私は、彼に大声で叫びました。

彼は、一気に高度を下げて、固定されている宇宙船の屋根の部分らしいところに降り立ちました。そして、私の手を強く握ると、私の体をそっと宇宙船に

下ろします。私の両足が、船体にゆっくり降り立ちます。

「手を離さないで下さいね」

「ハイ」

 私がそういうと、彼は、空いている手を船体に近づけました。

すると、その手がだんだん宇宙船の中に溶けるように吸い込まれていきました。

 最初は、手のひら。そして手首から肘にかけて、中に飲み込まれていきます。

なにがなんだかわからないうちに、彼の体の半分が船体の中に吸い込まれて

行きました。 そして、残った左手も少しずつ、船体に入っていきます。

肘、そして、手首まで吸い込まれると、私と繋いでいる手までが中に

入っていきました。私は、繋いだ手を離さないように、強く握り締めます。

 すると、私の繋いだ手もゆっくり飲み込まれていきました。

そのまま、私の体も、顔も、足も、ついには全身まで、

船体に飲み込まれました。その瞬間は、思わず目を閉じてしまいました。

そして、ゆっくり目を開けると、目の前には、見たこともない機械の様な

ものがたくさん見えました。

「もう、大丈夫ですよ」

 彼は、そういって、握っている手を離します。

私は、周りを見回します。彼の体と同じように、銀色の壁に囲まれて、

無数のランプがアチコチについていました。

「準備をするので、少し休んでいてください」

 彼は、そういって、指をパチンと鳴らしました。すると、目の前に椅子が

一つ現れました。あの時と同じです。

「座ってみててください」

 促されるままに、私は、その椅子に腰を下ろします。

「ゆれるかもしれないので、ちょっと我慢してくださいね」

 そういって、彼は、また、指をパチンと鳴らします。

すると、真っ赤なベルトが現れて、私の体を固定しました。

「きつくないですか?」

「だ、大丈夫です」

「すぐに飛びます。これを見てください」

 彼は、そういって、また、指を鳴らしました。

すると、何もなかった壁に、テレビモニターみたいなのが映りました。

見ると、そこには、外の様子が見えました。たくさんの見物人と、

パトカーの後姿が見えました。

その間、彼は、忙しそうにランプがついているスイッチみたいなものを

触っています。その時、テレビ画面が動きました。どうやら、信号が変わって、動き出したようです。外の人たちも警察官たちも、特別な動きはありません。

大きな看板に横田基地と書いてあるのが見えました。

「では、行きます」

 彼は、右手を大きな水晶玉のようなものに触ると、宇宙船がかすかに

動きました。しかし宇宙船は、ロープでしっかりと固定されているのです。

どうやって、飛ぶのか? まさか、トレーラーごと飛び上がるのか?

テレビ画面では、突然動き出した宇宙船に、驚く人々の姿が見えました。

 突然のことに、トレーラーもパトカーも緊急停止します。

「怖くないですか?」

「怖くないわ。光一さんといっしょだもん」

「ありがとう」

 彼は、私の方に向き直るとそういいました。

無機質で表情のない顔なのに、私には、微笑んでいるように見えました。

 その時、何かが弾けました。テレビ画面には、止まっていた画像が

動き出します。宇宙船が固定されていたロープを千切って、

空に飛び上がったのです。

 少しずつ上昇していく様子がはっきり見えました。

見物人たちが小さくなって、すぐに青い空が見えました。

そのまま、一気に空高く飛び立つと、白い雲を突っ切って、

どんどん上昇しました。

「もうすぐ、大気圏です。そのまま宇宙空間に向かいます」

 どう考えても、夢でしかありません。この私が、宇宙船に乗って、

宇宙に向かって飛んでいるのです。

私は、開いている右手で、自分の頬をつねって見ました。

でも、確実に痛かったのです。これは、夢じゃないんだと思うと、

だんだんワクワクしてきました。

 テレビ画面が突然オレンジ色になりました。しかし、すぐに真っ暗に

なって、何も見えなくなりました。

「もしかして、宇宙に出たの?」

「ハイ、もう、宇宙空間ですよ。真っ暗で何も見えないでしょ」

 いつの間にか、体を固定しているベルトがなくなっていました。

私は、思わず立ち上がって、彼に近づきました。

「ビックリしたでしょ」

「うん、でも、それほど驚かないわ」

 宇宙がどんなところかなんて、私は、まったく知りません。

でも、特撮ドラマや映画などで見ているので、少しはイメージがあります。

それとは、かなり違っていたけど、やっぱり、宇宙は、真っ暗闇なんだと

いうことだけはわかりました。

 それから、どれくらいの時間を飛んでいたのかわかりません。

途中で、私は、持っていたリュックからお弁当を出しました。

「光一さんも食べたら」

「いえ、この姿では、食べられないんです」

 確かに、この姿では、口がないので食べられないのでしょう。

一人で食べるのも気がひけるので、私は、一度は出したお弁当をしまいました。

「遠慮しないでいいですよ。お腹が空いたら、食べないとダメですよ」

「でも……」

「心配しないで、ぼくは、大丈夫だから。それより、こんな姿ですみません」

「いいのよ。だって、それが本当の光一さんなんだもの」

 例え、銀色の姿をしていても、彼は彼に変わりはありません。

むしろ頼もしく見えました。

「そろそろ通信圏内です。少し、星の言葉で話します。令子さんには、

わからないけど、我慢してください」

 彼は、そういうと、なにを話し始めました。

「#%$'(&))'%=~」

 実際、何を言ってるのか、私には、さっぱりわかりません。

きっと、彼の星の言葉なのでしょう。地球の言葉ではありませんでした。

彼の話し声を聞いて、私も星に行ったら、言葉を覚えないといけないのかなと

思いました。でも、覚えられるのか? 話せるようになるのか?

英語すら、まともに話せない私が、宇宙語なんて話せるようになるのか

不安でした。しばらく話をしていると、突然彼が振り向いて言いました。

「すみません。星に帰れなくなりました」

「えっ…… えーっ!」

 私は、驚いて、思わず声が漏れました。

彼は、ガクッと首をうな垂れます。悲しそうな声だったので、私は、

なんて言っていいかわからないけどとにかく、彼を元気付けようと思いました。

「あの、あのさ、でもさ、宇宙船は飛んでいるんだし、飛んでいれば、

そのウチ帰れるって」

 しかし、彼は、私の言葉を無視して、こういったのです。

「喜んでください。地球に戻れます。また、家族の皆さんたちと、いっしょに

暮らせるんです」

 私が何か言いかけたのを遮ると、彼は、顔を上げてそういいました。

そして、私を後ろから抱きしめると、耳元でこう言ったのです。

「さぁ、地球へ帰りましょう。そして、帰ったら、ぼくとちゃんと

結婚してくださいね」

「えっ、えーっ!」

「行きますよ」

「ちょっと、待ってぇぇぇぇ~」

 私の叫びが宇宙に響きました。


 それからの一ヶ月は、大変な毎日でした。

私が宇宙に行っていたのは、地球時間でもたったの一週間だったのです。

父が会社にうまく説明して、病気で長期休暇という名目だったので、

無事に職場復帰も出来ました。

 もちろん、私がすぐに帰った来たときの、家族の驚きようは、言葉に

言い表せません。

「なんだよ。もう帰ってきたのかよ。出戻りってやつだな」

 弟の悔しい一言にも、何も返せませんでした。

でも、父も母も、とても喜んでいました。それ以上に、彼が結婚式を挙げたいと言った言葉に感動したらしく、父と母は、仕事をそっちのけで、式場探しから

手続きまで、すべてやってくれました。

 職場復帰した初日は、休んでいた理由を説明するのに、冷や汗ものでした。

職場のみんなが心配してくれるのが、とても心苦しかった思いでした。

まさか、宇宙に行っていたなんて言えないだけに、ウソをつくのが

とてもつらかったのです。

 夕子がしつこく理由を聞いてきても、はぐらかすのが精一杯でした。

そして、その舌の根も乾かないうちに、結婚の報告を言ったときの課長は

もちろん、夕子や職場のみんなは、目を白黒させて、口を開けて、

放心状態でした。休んだ直後に、今度は、結婚式とは、驚かない方が

不思議です。

「あたしより先に、結婚するとは、思わなかったわ」

 夕子に言われても、笑って返す以外に方法がありませんでした。

結局、結婚式は、急なことだけに、式場が取れませんでした。

 でも、夕子の彼氏の仕事先が、レストランだったことで、貸切にしてもらい、

そこで結婚式を挙げることになりました。友だちや会社の人たち、

近所の皆さんたちだけを呼んで、小さいけどとてもいい結婚式が

あげられました。

 たくさんの人に祝福されて、私よりも彼のほうが誰よりも楽しそうで、

喜んでいました。

挨拶のときに父が泣き出したり、母の友だちが作ったウェディングケーキに

彼とナイフを入れたときに、ケーキが倒れて大騒ぎになったり、

弟は私にないしょで、子供の頃の画像を上映して、みんなに大笑いされて、

大恥かいたりもしました。

 結婚式なのに、弟とケンカを始めて、それを彼が仲裁するという、

ハプニングの連続でした。

それでも、とても楽しく、思い出に残る、いい結婚式を挙げる事が出来ました。

 新婚旅行は、彼の希望で、世界一周でした。もちろん、宇宙船で……

彼は、世界中の国々を見ることが出来て、とても喜んでいました。

旅行というより、仕事の視察みたいな感じだったけど、私も外国旅行ができて

楽しかったです。

 帰ってくれば、職場復帰も出来て、今までどおり会社で働くことが

出来ました。

これで、すっかり元通りです。そこで、私は、ちょっと疑問を感じたので、

彼に聞いてみたいことがありました。

「あのさ、私と結婚してくれたのはうれしいんだけど、自分の星には

帰らなくていいの?」

「ハイ、ぼくは、ずっと、令子さんといっしょです。地球に

残ることにしました」

「えーっ!」

 新婚旅行のときに、宇宙船の中で、そう言われました。

「帰らないって、それでいいの? 星の方は大丈夫なの……」

「ハイ、大丈夫です。星に帰っても、つまらないし、地球で玲子さんたちと

暮らす方が楽しいです」

「でも、仕事というか、調査の方はいいの?」

「ハイ、もう、やめようと思ってます。帰ったら、星に地球調査は、

辞退することを連絡します」

「イヤ、あの…… それは、ダメじゃないかな? 別に私は気にしないから、

仕事は仕事なんだし……」

「いえ、ぼくもこれからは、地球人として、仕事を見つけて働きます」

 私はとってはうれしいことだけど、そんな簡単なことじゃないと思いました。

てゆーか、宇宙警察の仕事を辞めていいのか、私は、そのことのほうが

不安でした。でも、彼は、いつもの笑顔で笑っていました。

事の重大さをわかっているのか……

 しかし彼は、言葉通り家に帰ると、自分の星に最後の報告を済ませて、

辞職することを伝えると、私がとめるのも聞かずに、宇宙船を海に

沈めてしまったのです。これで、二度と宇宙には帰れません。

それなのに、彼は、明るい顔でいいました。

「これでいいんです」

 彼は、何か吹っ切れたような表情をしていました。


 それから五年の歳月が流れました。

弟は、無事に大学を卒業して、研修医の経験後、父の後を継いで、

若き院長としてウチの病院で勤務しています。父は、隠居しながらも弟を

補佐して毎日、忙しそうです。

母は、家族の世話で、毎日家事や洗濯、掃除などをしながら、楽しそうでした。

何よりも、孫の世話をするのが、うれしそうです。

 そんな私は、なんと出産したのです。子供が出来たのです。

もちろん、彼との子供です。しかも、男の子と女の子の双子の赤ちゃんでした。

いきなり、双子の二児の母となった私は、産休と育休で、しばらく会社は

お休みです。 そして彼は、父と弟のアドバイザーとして、ウチの病院で

働くようになりました。もちろん医師免許はないので医療行為は出来ません。

でも、主人は宇宙人なのです。医療行為は出来なくても、超能力を使って、

体のどこが悪いのかわかるのです。それを的確に、父や弟にアドバイスして、

治療をするのです。なので、最近、ウチの病院は、大繁盛です。 

患者さんがたくさんやってきて、しかも、確実に治療できるという評判でした。


私は、泣いている二人の子供を、背中と前におんぶしてあやします。

 それでも泣きやまないので、外の空気を吸わせてみようと思って、

サンダルを履いて表に出ました。それでも、一向に泣き止みません。

私は、半分泣きながらあやしていると、病院のドアが開きました。

「姉ちゃん、うるさいよ。中まで丸聞こえだぞ。母親なんだから、

子供を泣かすなよ」

 白衣姿の弟が、ドアから顔だけ見せて言うと、勢いよくドアを閉めました。

今じゃ、すっかり、若先生となった弟が、立派に見えた瞬間でした。

だからといって、私に怒らなくてもいいじゃないのよ……

 私は、しかたなく、二人の子供をベビーカーに乗せて、散歩に行きました。

双子用の二人並んだ大きなベビーカーです。

 これに乗せて歩いていると、近所の人たちはもちろん、商店街の人たちから

たくさん声をかけられました。

やっと泣き止んで、すやすやと寝ている双子の子供たちを見ていると私も

母親として、少し自信が出てきました。

そして、子育てをがんばろうという意欲が沸いて来ます。

 だけど、唯一、私には、不安ことがありました。

それは、子供たちは、彼の子供でもあるということです。

体の中には、宇宙人の血も流れているのです。もしかしたら、成長すると、

超能力が使えるようになるのかもしれない。

空を飛んだり、目が光ったりするのかもしれません。

その時、母親として、どうしたらいいのだろうか……

 私は、ちょっと不安に思って、ベビーカーで寝ている二人の子供を

見下ろしました。すると、二人揃って、ふわっと体が浮いたのです。

「ウソッ!」

 私は、思わず立ち止まりました。しかし、それは一瞬のことで、

すぐにすとんとベビーカーに戻りました。

そして何事もなかったかのように寝ています。

 私は、なんだかとても頼もしい子供に見えました。

これからの成長がとても楽しみです。帰ったら、主人に報告しなきゃ。

私は、足取りも軽く、帰路に着きました。

小春日和の暖かい風が私の髪をなびかせて、頬を撫でました。

なんだか、気持ちまでさわやかな気分になって、今夜は、何を

作ろうか考えている私でした。

                      終わり

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