先輩!今日はいい○○の日ですよ!と言って大好きな先輩にアピールをしまくる後輩は、なんだかんだで相手をしてくれる先輩に反撃されて今日もデレデレです

ゆうき@呪われ令嬢第一巻発売中!

先輩!今日はいい○○の日ですよ!

海藤かいどう深月みつき先輩! 今日はいいお産の日らしいですよ! というわけで夫婦になって子供を作りましょう! 今すぐ!」


 十一月三日。今日は祭日だが、家にいても暇なので文芸部の部室で一人本を読んでいると、勢いよく扉が開かれると同時に、やかましい声が響き渡った。


 お産の日って……そうか、ゼロと三で良いお産か。変な語呂合わせを考える人間もいるものだ。


「はぁ……祭日だというのに、今日も来るとは恐れ入ったぞ」

「深月先輩に会うためなら、祭日に学校に来るという苦行にも耐えて見せます!」


 彼女は四宮しのみやうた。俺の一個下の後輩だ。


 百五十後半くらいの身長に、茶髪の大きなサイドテールが特徴的な女子だ。更に容姿端麗で学力もトップクラス、つい先日の文化祭の催しで行われたミスコンでは、ぶっちぎりの一位を取ってしまった実績を持っている。


 一方の俺は、本が友達と言ってもいいくらいのぼっちキャラだ。人が嫌いと言わけでもないし、いじめられているというわけではないけど、クラスメイトと話すよりも本を読んでる方が有意義で、ずっと本を読んでたら、今の地位が確立していたんだ。


 そんな彼女と俺の出会いだが、九月に入ってすぐの頃、街中で不良達に絡まれているところを、警察を呼ぶフリをして助けるというちょっと汚い手を使って助けたところ、異様に懐かれてしまい、現在に至る。


「そもそも付き合ってすらいないし、子供なんか作れないだろ」

「じゃあ付き合いましょう! もちろん結婚前提で!」


 ……今のやり取りを見て何となくわかるかもしれないが、詩は学力自体は高い割に、どちらかというとおバカキャラだったりする。


「さあさあ、まずは婚姻届けを出しましょう!」

「急に付き合うから話が飛んだな……夫婦になるって事は、こういう事もいいよな?」

「えっ……み、深月先輩ッ!?」


 俺は詩の元に歩み寄ると、彼女のアゴを軽く触ってくいっと持ち上げた。少女漫画とかによくある、キスする前のあれだ。


 もちろんキスなんてするつもりはないが……詩には効果は抜群だったのか、耳まで真っ赤にして震えていた。


「あ、あうあう……きょ、今日は深月先輩に免じてこの辺にしておいてあげますっ! 失礼しますっ!」


 俺が引き止める間もなく、詩は深くお辞儀をしてから部室を後にした。


 実は……詩はああやってよくわからない理由をつけては俺に絡んでくるんだが、反撃されると、とんでもない脆さを見せる。具体的に言うと、盛大に照れて顔を真っ赤にしてしまう。


 照れた詩は可愛くて可愛くて……だから、俺はああやって反撃をして詩を照れさせている。もはやこれが最近の日常と言ってもいい。


 傍から見ると、照れさせて追い払ってるように見えるかもしれないが、嫌いだからというわけではない。やり方は変だが、ストレートに好意をぶつけられて嬉しくないわけがないし。


 ただ、最初は自信満々に俺に絡んでくる詩が、顔を真っ赤にして照れるのを見るのが好きなんだ。面白いし可愛いし……それに、俺も彼女の事が好きだから、可愛いリアクションが見たい。


 ――さて、次はどんな理由で俺に絡んでくるんだろうか? 楽しみにしながら、俺は再び本に目を落とした。



 ****



「深月先輩! 今日はいいよの日らしいですよ! というわけで、これから私が言う事は全部いいよって言ってくださいね!」


 十一月四日。今日も部室で本を読んでいると、豪快にドアを開けながら詩がやって来た。


 ……なるほど、四日だからいいよの日か。誰が考えてるのかは知らないけど、上手い事を考えるものだと感心してしまうな。


「それじゃ言いますよ~!」

「俺は了承してないぞ」

「ちょっと深月先輩! 言いますよって言ったんですから、そこはいいよと答える場面です!」


 詩は大きく腕を振りながら、頬を膨らませて抗議の意を表している。どうやら俺には拒否権は無いみたいだ。なら今日も照れて可愛い詩を拝ませてもらおうじゃないか。


「まずは……宿題を一緒にやりましょう! もちろん肩がぶつかるくらい密着して!」

「いいよ」


 なんだそんな事か。別にそれくらいなら、わざわざこんな事をしてまでお願いしなくても一緒にやるのにな。


 そもそも詩は学力はあるんだから、俺とやる必要もなさそうな気がしないでもない。


「ふっふっふっ……絶対に一緒にやってもらいますからね! それじゃ次の要望は……手を繋いでください!」

「いいよ」

「ふぁっ!?」


 俺は抵抗される前に、詩の手をギュッと握った。握手みたいな形だけど、まあそこはご愛嬌という事で。


「ふ、ふふっ……やるじゃないですか深月先輩……では、愛してるって言ってください!」

「愛してる」

「ひょわぁぁぁぁ!?」


 なんだその悲鳴、ちょっと面白いじゃないか。あと顔を真っ赤にて慌てる詩、超可愛い。


「そ、そこはいいよって言って、そうじゃないですよアハハー! って流れですよ! なんで素直に言うんですか!?」

「いけなかったか?」

「い、いけないってわけじゃ……むしろ嬉しいけど……うぅぅぅぅ……!!」

「愛してる愛してる愛してる――」

「も、もういいです! ちょっと怖いですし! 今日は帰るぅぅぅぅ!!」


 脳のキャパシティを超えてしまったのか、まるで幼女みたいな事を言いながら詩は部室から逃げていった。


 全く、今日の詩もめちゃくちゃ可愛いかったな……さて、読書の続きをするとしよう。



 ****



「深月先輩! 今日はいいおっぱいの日らしいですよ!」

「ぶふっ……!?」


 十一月八日。今日も今日とて放課後の部室に飛び込んできた詩は、とんでもない事を言い出した。


 そうか、ゼロと八でいいおっぱいか……誰だこんな変な語呂合わせを考えた奴は。詩が壊れたのかと思ってしまったぞ。


「というわけで、このたわわに実った豊満な私のおっぱいを触る権利を上げましょう! ほらほら、学年どころか学校で一番大きくて綺麗と噂されるおっぱい、触りたくありませんかー? なんならサイズを教えてあげましょうか?」


 そう言いながら、詩は大きく胸を反らして、自分のおっぱいをアピールすると、それに連なるようにおっぱいが大きく揺れた。


 詩は顔も良ければスタイルもいい。まさに出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいるという表現がぴったりだ。しかも、出る所が出すぎて、とんでもない主張になっている。


 それを触ってもいいなんて言われたら、喜んで触る男はいるかもしれない。ていうか、俺もめっちゃ触りたいが、そういうわけにもいかない。


 今日も照れさせて可愛い詩を見たいし……そうだ、何かに使えるかもしれないと思って用意しておいた、あのおもちゃを使おう。


「よしわかった」

「え、なんでにじりよって……本当に触るんですか!? うそっ、ヘタレだけど優しい深月先輩がそんなっ……私のおっぱいを鷲掴みにしてムニュンムニュンするんですか!? い、いつか触られる日は来ると思ってましたけど……まだ心の準備が……」


 まさか俺が本当に触るとは思ってなかったのだろう。詩の事だから、俺がおっぱいと聞いて、照れるのを見てからかうつもりだったに違いない。


 だが残念だったな。俺はそんなに簡単な男じゃない。さあ……これをくらえ!


「あんっ……え? なにこれ?」


 白い手が詩のおっぱいに伸び、僅かにおっぱいがふにゅんとなると同時に、詩は艶めかしい声を上げる――が、すぐに違和感に気づいて目を開けた。


 そこには……おもちゃのマジックハンドがあった。鉄砲みたいな形で、引き金を引くと手の形をしたおもちゃが伸びるアレだ。


「どうだ驚いたか。詩対策として何かに仕えるかもしれないと思って、前々から用意しておいたものだ」

「そ、そんなのを用意していたなんて……やりますね……!」

「俺もこんなところで役に立つとは思ってなかったけどな。ていうか、本当に触るわけないだろ」

「うっ……触られなくて安心したような残念なような……と、とにかく今日は負けを認めましょう。ですが……次こそ負けませんよ!!」

「いや、そもそも勝ち負けって……あ、行っちまった」


 流石にちょっとからかいすぎてしまったか。でも今日の詩は可愛いのもあるが、ちょっと……アレな感じも見れて得した気分だ。


 とはいえ……流石に今回のは良くないな。今後はからかい目的でえっちな要求をして来たら、ちゃんと止めてあげよう。



 ****



「深月先輩! 今日は――って、きゃあ!?」

「今日は絶対に来ると思っていたぞ」


 十一月十一日。いつもは部室で本を読んでる時に詩が来るという展開だが、今日は俺が部室に入ってすぐの所に立って待ち構えていた。


 何故なら今日は……ポッキーの日だ。流石の俺もこれは知っている。こんな日を、詩が絶対に逃すと思っていなかったからだ。


「深月先輩に読まれたのはちょっと悔しいですが……まあいいでしょう。今日はポッキーの日ですので、ポッキーゲームをしましょう!」

「何から何まで想定内で、俺は安心したぞ」

「そ、そこまで読まれていたなんて……」


 いや、流石に今日読めなかったらどれだけ馬鹿なんだよってくらいだと思うんだが……。


「まあ……わかってても、やるつもりはないけどな」

「え、なんでですか!?」


 なんでって……詩はポッキーゲームの意味を知らないのか?


「お前、ポッキーゲームって何だかわかってるのか?」

「もちろん! まあ、そんな事故なんてそうそう起こりませんよ! さあさあ!」


 そう言いながら、詩はポッキーを一本取り出して咥えると、俺に催促するようにポッキーを上下に振っていた。


 詩の言う通り、ポッキーゲームは大体が羞恥心に耐えられなくて折ってしまうのがお約束だ。しかも相手は攻められると最弱と言ってもいいくらいの詩だし、問題ないだろう。


 ――ぶっちゃけ、俺もポッキーゲームしたいというのはここだけの話しな。


「ふはへまひはへ! いひまふほ~!」


 咥えているせいでイマイチ何を言っているかわからないまま、詩は目をギュッと瞑りながら食べ進める。


 顔も真っ赤だし、やっぱり緊張してるんじゃないか……それにしても、詩の照れた顔、めちゃくちゃ可愛い……しかもめっちゃ近いから、こっちも照れてしまう……。


 っと、照れてる場合じゃないな。全然進まなかったら後でからかわれそうだし、ぶつからない範囲で食べ進めよう。


「ポリポリポリ……」

「ポリ……ポリポリ……」


 互いに無言のまま食べ進め、あと少しで互いの唇が当たってしまいそうな所まで来た。そろそろ止めないと危なさそうだ。


 とはいえ、ここで俺から折って負けるのもちょっと悔しいな……目を瞑ったままの詩に、なんとかして間近まで迫ってると知らせて折らせよう。そうすれば、「こんな近くまで……!」といった感じの、照れまくる可愛い詩が見れるかもしれない。


「ふんっ……」

「っ!?!?」


 少し大きめに鼻で息を吐く事で、詩に距離が近い事を知らせると、それに気づいた詩は目を大きく見開いていた。


 よし、上手くいったな。あとは詩が驚いてポッキーを折ればおしまいだ――そう思っていたのに。


「「んっ……!?」」


 驚いてしまった詩はポッキーを折るのではなく、一気に食べ進めてしまい……俺と詩の唇が接触してしまった。


「なっ……ななっ……」

「…………」

「しちゃった……初めて……あげちゃった……」

「わ、悪い……脅かしてポッキーを折らせようと思って……」

「ぽ、ポッキーゲームですから! こういう事故もありますって! そう、これは事故! だからノーカウント! いいですね!」

「わ、わかった」

「うぅぅぅ……先輩にはじめてを……い、いつかはあげるつもりだったけど……あうぅぅぅぅ……」


 ゆでだこみたいに顔を真っ赤にさせる詩は、やや頼りない足取りで部室を後にした。


 ま、まさか本当にキスしてしまうとは……いや、あれは事故……あれは事故……! くそっ、わかっててもこれは照れる! 顔が熱いし、ドキドキも抑えられない! 好きな女の子と事故とはいえキスしたら、こうなるのも無理はないだろ!


「……ぁぁぁあ!!」


 恥ずかしさとドキドキに耐えきれず、俺は一人になった文芸部の部室でゴロゴロと転がって悶えるのだった――



 ****



「深月先輩! 今日はいい膝の日らしいですよ!」


 十一月十三日。今日も詩は文芸部の部室にやって来た。


 事故とはいえキスしてしまったから、どんな顔をして会えばいいのか悩んでいたんだが……詩はいつも通りだ。これならあまり意識をせずに済みそうだ。


 それにしても……いい膝の日……十三日で膝……? ちょっとよくわからない語呂合わせだ。本当にそんな日があるのだろうか?


 まあいいや、今日は果たしてどんな要求をしてくるのだろうか?


「膝の日って言うと……なるほど、俺に膝蹴りをしてもらいたいんだな?」

「そんなドM趣味はありません!」

「それはよかった。俺にもS趣味はないからな」

「あーよかった……というわけで、深月先輩の膝に乗せてください!」


 何がどうなって「というわけで」に繋がるのかはわからないが、それは置いておくとして。膝の上に乗るって……それって詩の大きくて形の良いおしりが俺に密着するって事だぞ……わかって言ってるのか?


 キスの一件もあるし、流石にこれは上手くかわした方が良さそうだ。本当は乗っかってもらいたいけど……ゲフンゲフン。何でもないぞ!


 名残惜しいが……とりあえず、今回はそれらしい理由をつけて帰ってもらおう。


「今読んでる本が凄く良い所なんだ。だから今日は帰ってくれないか?」

「そんなに面白いんですか?」

「ああ。久しぶりにラブロマンスを読んでいるんだが、これがなかなか面白くてさ」

「面白そうですね、私も読みたいです!」

「なら貸そうか?」

「いえ、それには及びません。私に良い案があります」


 自信満々に豊満な胸を張るのはいいが……どうしよう、嫌な予感しかしない。変な事を言わなければいいんだが……。


「それじゃ、前失礼しま~す!」

「うわっ!?」


 何をするのかと思ったら、詩は椅子に座る俺の膝の上に、意気揚々と乗っかってきた。そのせいで、詩の重さとおしりの柔らかさがダイレクトに伝わってくる。


 これは色々とすご……いや、色々と不味い。こんなのを誰かに見られたら大変なことになる。


 まあ文芸部は実質俺しか来ないし、顧問もほとんど来ないうえに、部室は旧校舎の隅っこにあるから、そもそもほとんど人がいない場所なんだけど……万が一もあるからな……。


「ふふっ、どうですか? 私みたいな美少女と密着した感想は」

「…………」

「お、おお? 顔が赤いですよ深月先輩! これは久々に私の勝ちですね!?」

「勝負をした覚えはないし、勝敗の基準もよくわからないが、詩も顔が真っ赤だぞ。あまり無理するな」

「しょ、しょうがないじゃないですか! くっついてたら、こ、この前のチューの事を思い出しちゃって……」


 うっ……意識しないようにしていたのに、わざわざ思い出させるような事を言うなよ……詩の唇、柔らかかったな……。


「いいから、早く読みましょうよ!」

「……どういう事だ?」

「さっき深月先輩が読んでた本を一緒に読むんです! これなら一緒に読めますし、読書の邪魔にならないし、膝の上に乗れるし、一石三鳥!」

「……まあいいけどさ」


 一緒に読むって、どう考えても大幅な時間ロスになるし、こんな格好じゃ集中できないと思うけど……嬉しそうにしている詩を見てたら、断るのもなんだかなって思ってしまう。それに俺も離れたくない。


「あ、もちろん最初から読んでくださいね! 途中から読んでもわからないので!」

「ワガママだなぁ……」


 ペラッ――


「ふんふん、よくある学園物ですね。本当に面白いんですか?」


 ペラッ――


「うわっ、ヒロインが凄く健気だなぁ……まるで私みたいですね!」

「ちょっと何を言ってるかわからないんだが」

「ひっどーい!」


 ペラッ――


「え、なんか急に話が重い……ヒロインがあんなに健気で積極的だったのは、彼女に残された時間が無かったからだったなんて……可哀想……」


 ペラッ――


「ぐすっ……ひぐっ……」


 パタンッ。


「深月先輩……なんてものを読ませるんですか……結局主人公もヒロインも最後は……ぐすっ」

「救いのない人生だったかもしれないけど、最後は永遠の時を得られただろう?」

「そ、そうかもしれないですけど……幸せに暮らしてほしかったです……」


 今回読んだラブロマンスは、最後主人公とヒロインは死んでしまったが、天国で再会してずっと幸せに過ごすという、まあよくある展開といえばその通りの作品だった。だから俺としては、詩が来るまで読んでたところは面白かったけど、最後は予想通りだったなって感想だ。


 でも、詩にはかなり刺さったみたいで、まだ嗚咽を漏らしている。俺が知らないだけで、想像以上に感性が豊かなんだな。とても可愛い。


「深月先輩! 私達は絶対一緒に幸せになりましょうね!」

「……一緒にって、わかって言ってるのか?」

「勿論わかってますよ。他の男の子なんか興味ないですし」


 ……そんな真っ直ぐ見ながらストレートに好意をぶつけるなって。流石に照れる。


「お、照れちゃってます~?」

「うるさい」

「むふふぅ~……照れる先輩は可愛いなぁ!」


 勝ち誇ったようにニヤニヤしながら、俺を更に照れさせるために体を押し付けてくる詩。このままやられっぱなしは癪に障る……いざ反撃の時!


「詩の方が可愛いぞ」

「ふぇ!?」

「特に本を読んで感情移入しすぎて泣いてるところとか、凄く可愛かったな。またキスしたいくらいだ」

「え、ちょ……!? そんな、可愛いとか……またキスとか……困っちゃう……でも深月先輩がしたいなら……あぅぅ……!」


 相変わらず攻めるのはガンガン来る割に、攻められるとよわよわすぎるな。そういうところが可愛いんだけど。


「ああもう、そろそろ最終下校の時間ですし、私帰りますっ!」

「もう暗いし、送っていこうか?」

「っ~~~~! そんな優しくされたら耐えられないんで、今日は結構です! ではっ!」


 詩は俺から逃げるようにして帰っていった。それから間もなく、廊下から「もう無理ぃぃぃぃ! 好きぃぃぃぃ!」と聞こえた気がするが、詩のためにも聞かなかった事にしておこう。ていうか、俺が叫びたいくらいだ。


 さて、次はどんな提案を持って部室に来るのだろうか――楽しみだ。



 ****



「深月先輩! 今日は……何もない日です!」

「お、おう」


 十一月三十日。今日でいよいよ十一月も終わり、冬も本番だなと思う頃……詩の何ともマヌケな登場に思わず苦笑してしまった。


 今月に入ってから、何度も語呂合わせにちなんで絡んできて、その度に可愛い詩を堪能させてもらっていたわけだが、最後の最後で締まらないな。


「だって、調べてもいいミリンの日とか、鏡の日とかしか出てこなくて……」

「あー……それはちょっと使いにくいな」

「そうなんですよ……最後なのにがっかりです。でも、いい何とかの日を使えるのも今日で最後なので、ノープランで来ちゃいました!」

「それなら、俺が新しく作ろうじゃないか」

「え、本当ですか! 変な事を言ったら笑いますよ?」

「大丈夫、絶対に気にいるはずだから」


 期待に胸を膨らませる詩に背を向けた俺は、自分のスクールカバンを漁って紙袋を取り出した。


「……えっと?」

「今日は詩の日だ」

「わ、私の日?」

「そう。誕生日おめでとう」

「えっ……え、うそ……ほ、本当に……なんで知って……?」


 現実を受け入れられないのか、目を大きく見開いて口を両手で押さえる詩に、紙袋を手渡した。


 そう……今日は詩の誕生日。だから詩の日という事だ。


「なんだ、最初からわかって来たんじゃないのか?」

「その、ちょっぴり期待はしていましたが……深月先輩、たぶん知らないだろうなって思ってて……知らなくても、一緒に過ごせればいいかなって……」

「なるほどな。実は少し前に詩の知り合いに聞いて、その時に教えてもらったんだ」


 あの時は凄かったな。詩の友達の女の子に凄い剣幕で迫られて、詩はいい子だからよろしくお願いしますって言われた。その時に、誕生日は十一月の末だから絶対にお祝いしてって教えてもらったというわけだ。


「その、自分で言うのもあれですけど……私、深月先輩と出会ってから、ずっとウザ絡みしてるのに……」

「まあたまに困る事もあるけど、本当に嫌いだったら、そもそも相手しないって」

「深月先輩……」

「プレゼント、受け取ってくれないか?」

「……ありがとうございます。開けても良いですか?」

「うん」


 詩は少し震える手でプレゼント開けると、そこにはシルバーのブレスレットが入っていた。


 恥ずかしながら、俺には女の子にプレゼントをあげた経験がない。そして軍資金もあまりない。だから、事前に調べに調べて……結果これに行きついた。


 このブレスレットは見た目も派手じゃないから、詩の可愛さを引き立てるのにいいんじゃないかと思ったんだけど……気に入ってくれるか不安だ。


「凄く可愛い……つけてもいいですか?」

「もちろん」

「あっ、深月先輩がつけてください」

「注文が多いな詩は」

「えへへ……ありがとうございます」


 甘えるように差し出す詩の手を取り、ブレスレットをつけてあげた。うん、俺の想像通り良く似合っている。


「ありがとうございます……一生大事にします」

「一生って、詩は大げさだな」

「大げさじゃありません! それくらい嬉しくて……ああもう駄目っ!」

「んむっ!?」


 何が駄目なんだろうかと思った矢先、勢いよく飛びついてきた詩に唇を奪われた。突然の行動すぎて、頭が真っ白だ。


「んっ……深月先輩が悪いんですよ? 初めて出会って助けてくれた時から、今日までずっと……こんな面倒くさい私の事を嫌いにならないで、ずっと相手をしてくれて……」


 数秒程キスをして満足したのか、詩は俺の胸にポスンッと頭を埋めながら、背中に手を回してきた。


 面倒くさいだなんて……うん、否定はできない。でも、その面倒くさい日々がとても楽しかったのは紛れもない事実だ。


「深月先輩、これからも私と一緒にいてくれますか?」

「ああ」

「えへへ……今更ですけど、私……深月先輩が大好きです」

「俺も好きだよ」

「えへへへへ……」


 嬉しそうに笑う詩を抱きしめ返すと、それに応えるように、俺の胸にグリグリと頭をこすりつけてきた。


 照れてる顔が一番だが、こういう何気ない動作も本当に可愛い。これが惚れた弱みというやつか?


「深月先輩、いつになっても良いですから……綺麗な指輪もプレゼントしてくださいね?」

「ああ、任せろ。世界一の指輪をプレゼントするよ」

「わぁ、凄い強気だ。そんな大見得を切ってると、本気にしちゃいますよ?」

「俺は本気だぞ」

「っ……もう、これ以上私を好きにさせてどうするんですか? もっと面倒くさくなっちゃいますよ?」

「問題ない。伊達に出会ってから詩に付き合ってきてないからな」

「じゃあ早速面倒くさくなっちゃいますね。今度は深月先輩からチューしてください」


 なんとも愛らしいお願いをする詩に、俺はそっとキスをする。


 すると……まあわかってた事だけど、相変わらず攻められるとよわよわな詩は顔を真っ赤にしてしまった。


 ――それが可愛すぎて、俺はまたキスをしてしまったら、限界を迎えて詩が気絶してしまったのは、ここだけのナイショの話でよろしくな。

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