第33話どう転ぶかなんて誰にも予想できないものだ
「エ、エリオット……!?なんでここに……」
侯爵家で別れたはずなのに、そこにいたのは確かにエリオットだった。私と同じくつるつるのたまご肌にされたであろうエリオットは少し申し訳無さそうに視線を下げた。
「……ごめん、おねーさま。来ちゃった…………」
「一応弁解するならば、この子がここにいるのはわたくしのせいですわ」
そう言ってうつむくエリオットを庇うかのようにユリアーナ様が口を開く。だが申し訳無さそうな雰囲気は欠片もなくその表情はとても楽しそうだ。
「うふ、実はメルキューレ侯爵家をわたくし直属の部下に見張らせていましたの。この子がこのパーティーから逃げるようだったら手っ取り早く誘拐してくるように命令していたのですけれど、まさか本当に攫われてくるなんておマヌケさんですわよね」
「さ、さらってきた……?しかも部下に見張らせてるって……」
「正確には、わたくしが見張らせ始めたのはエレナさんがメルキューレ侯爵家の養女に来てからですわ。もうその子の複雑な事情はご存知でしょう?ならばわたくしがその子を気にするのは致し方無いことだと思いませんこと?」
「それは……」
確かにユリアーナ様からすればエリオットは父親違いの弟で、さらには自身の婚約者でもあり実母を死に追いやった憎い男の子供。もしかして、ユリアーナ様はエリオットに復讐するつもりとか……?でも、悪いのは王太子であってエリオットにはなんの罪もないのに……!
「ねぇ、エリオット。あなたは自分の出生についてどこまでご存知なのかしら」
「……っ。ぼ、僕は……自分が生まれてきてはいけない子供だって知ってる……。僕がいるせいで母親……ラファエ女公爵が自殺したことも、みんなに疎まれていることも……それに今は、王太子の悪巧みに利用されようとしてることも……」
エリオットが震える声を絞り出すと、ユリアーナ様は「ふぅん」とため息混じりに肩を竦めた。
「その情報は誰から聞いたのかしら?」
「それは、噂とか……前に預けられていた家の人とか、使用人や乳母代わりの人が……僕のことをいらない子だって……」
エリオットが口籠るとユリアーナ様が眉を顰める。はっきりしない物言いに苛立ってるのかもしれないが、幼いエリオットが周りの人間から腫れ物扱いされていたのは事実だし、それに「実は転生者で前世でのゲーム知識があります」なんて言えるわけがない。
すると、ユリアーナ様が勢い良くテーブルに拳を叩きつけたのだ。ばん!と大きな音が響き、エリオットがビクリと身を縮めた。私はそれを見ているのが耐えられなくなり思わずエリオットに駆け寄ろうとした次の瞬間。
「~~~~っ、やっぱりエリオットを虐待してたのね?!あんのクソババァどもぉ!!!よくもわたくしの可愛い弟をーーーーっ!」と、ユリアーナ様が吠えたのだった……。
***
「……なに?ユリアーナがエレナ・メルキューレを連れて行っただと?」
パーティーがもうすぐ始まろうとしているが目的の人物の姿が見えないことに不満を抱いていたサリヴァンに先程の報告が行くと、サリヴァンは眉をしかめた。
金髪緑眼の美しいその姿はなにも知らない者たちが見たらおもわず吐息をつくほどであるが、その性格は難しかない。この国の王太子であるサリヴァンは崖っぷちに立っていたのだ。
サリヴァンは、昔から自分が気に入ったモノはどんなことをしても手に入れたがる悪癖があった。手腕はあるものの自他共に認める最低の女好きだと。サリヴァンにとっては単なる遊びでも相手の女から訴えられた数は両手の指を合わせても足らないほどだった。そのほとんどを母親である王妃が握り潰してくれていたので特に困ったことなどなかったのだが……。
今、過去の自分がやらかしたツケが自分の立場を危なくしていた。
王太子の立場にはなんとかなれた。だが、それだけだ。このまま国王になるにはラファエ公爵家の女との間に子供を作らなくてはいけない。その条件が果たせなければいずれ失脚するだろう。だが、現婚約者のユリアーナは母親の事件がサリヴァンのせいだと知って心を閉ざし未だに指一本触れさそうとしないのだ。サリヴァンは、既成事実さえあればすぐにでも婚姻の書類にサインさせていくらでも子を作ってるやるもの息巻いていたが、ユリアーナは頑なに「結婚する気はない」とサリヴァンを拒んでいた。いつまでもユリアーナの心を開けないサリヴァンのことを父王は見限りかけている。
これは国王から与えられた試練なのだ。自分の罪を認め誠心誠意ユリアーナに謝罪をして許してもらえなければ、サリヴァンは国王にはなれないのだと。だが、サリヴァンがその真意に気付くことはない。
しかもユリアーナが弟王子と密かに想い合っているらしいと風の噂が流れた。もしこのままユリアーナに拒み続けられたら、いくら王妃が認めなくても国王は自分と婚約破棄させて、弟王子とユリアーナを再婚約させようと考えるかもしれない。
王命ならば王妃だって公爵家に手を出せない。弟王子は病弱だがサリヴァンよりも信頼が厚いし、王太子が最低なのはすでに周知の事実だ。そんな弟王子がラファエ公爵家の後ろ盾を持てばどうなるかなんて、誰にでもわかることだった。
だが、サリヴァンは思い出したのだ。すでに自分には公爵家との間に出来た子供がいることを。
すっかり忘れていたが、あの女公爵は子供を産んでいた。面倒になったので女の方は処分したが、時期的にたぶん自分の子供だろうとサリヴァンは察した。
これは利用できるーーーー。自分はすでに国王になるための条件を満たしていたのだ。エリオットさえ手に入れば……そうすればあんな触らせてもくれないキズモノのユリアーナは用済みだ。ついでに最近噂のメルキューレ侯爵家の女侯爵を手に入れて欲を発散しようと企んでいたのだが……。
「ちっ!あの生意気な小娘め……。どこまでも俺の邪魔をしやがってーーーー」
こうして、サリヴァンが不機嫌なままパーティーが始まった。
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