第32話 急展開が続けばいいというものではないと思うんですが

「えーと……」



 あれからルーファスと別々の部屋に連れて行かれた私は……なぜか部屋で待ち構えていた侍女たちに捕まり、着替どころかお風呂に入れられ全身マッサージまでされて上から下まで磨き上げられていた。


 ふわふわガウンに包まれて鏡の前に座らされているが……なんてこった、つるつるたまご肌にされてしまっているじゃないか?!


「おぅっふ……」


 鏡の中にうつる自分の姿に狼狽えながら周りを見ると、まるでお店の中身をまるごと持ち込んだかのような山盛りのドレスたちが待ち構えていたのだ。ついでにズラリと並んでいる侍女たちは私を磨いていた人たちとは違っていて「コルセット係です」「衣装係です」「髪型係です」「化粧係です」「香水係です」「装飾係です」「爪切り係です」「マニキュア係です」「空気読み係です」と頭を下げてきたのだった。いや、多くない?!というか、最後の係はなに?!マジですか。


「あ、あの。こ、これは一体……?」


 ソファに座って優雅にお茶を飲みながらにこやかにしているユリアーナ様に恐る恐ると聞いてみることにした。エリオットと同じ顔なのになぜか笑顔が怖いんだけど。


「あら、どうかいたしまして?」


 にっこりと圧のある笑顔が「いいから黙って着替えなさい」と言っている気がする。あ、空気読み係が指示を出して衣装係がドレスを選び出したらユリアーナ様が満足そうに頷いて圧が消えたわ。やるわね、空気読み係!


「お嬢様、こちらの方になら淡い色合いがお似合いになるかと……」


 次は衣装係がドレスをグラデーション順にユリアーナさんの前に並べ出した。するとユリアーナ様は「そうねぇ……じゃあそれとこれとあれと……」と数点のドレスを指差し、今度は圧のない笑顔を見せてきた。



「さぁ、楽しいお着替えタイムといきましょうか!ドレスに合わせた宝石もたくさんありますのよ~♪」



 あ、なんかデジャヴ。


 そこから1時間。私はユリアーナ様に着せ替え人形にされるのだが、その楽しそうな姿がやっぱりエリオットにそっくりだと改めて思ってしまったのだった。







 ***







「遅い!まさか王太子の婚約者にドレスや宝石を強請っていたんじゃないだろうな?これだから女は……」



 やっと着せ替えタイムが終わり、すでにくたくたな私が部屋の外へ出るとそこにはルーファスが不機嫌を顔に貼り付けて立っていた。完全フル装備になっている私の姿に眉をピクピクと動かしている。これはかなり待ってたみたいね、相当イライラしてるわ。


「待たせたのは悪かっーーーー「あら、女性の身支度は時間のかかるものでしてよ?それにこのドレスと宝石はわたくしがこの方にプレゼントしたんですわ。あぁ、女性蔑視発言をなさるような殿方にこの方を任せるなんて出来ませんわね!それならこの方のパートナーはわたくしが用意いたしますから、あなたはお一人でパーティー会場に行ってくださいな」ちょ、ユリアーナ様?!」


「な、えっ、はぁ?!」


 私の背後からひょこりと顔を出したユリアーナ様がルーファスに早口で捲し立てると、バタン!と扉を閉めてしまった。


 扉の外ではルーファスが誰かになだめられてどこかに連れて行かれたようだったが、理由がわからずにいる私にユリアーナ様が「大丈夫ですわ」と笑った。


「わたくしの執事がうまくやってくれるから、ルーファス・メルキューレについては気にしなくていいですわ。それに、わたくしああいう男って大嫌いなんですの!俺様っていうか、女性を下に見てるっていうか……女性に気に入らないことがあると力尽くでなんとかしてこようとするタイプですわよね!」


 ええまぁ、それは当たってます。最近はちょっぴり(?)マシにはなっている気は……いや、今日の様子を見るにしないな。世間体を気にするくせに王城内であんなにイライラした態度を見せるなんてどうしたのかしら?


「うちの長男が失礼なことを……申し訳ありません」


 あんなのでも一応私の義兄ではあるしと思い、頭を下げようとするがユリアーナ様がそれを止めた。


「うふ。実はわざと怒らせるように彼のお茶に興奮剤を少々混ぜておきましたの。あと、待機させていた使用人にも不安を煽るような言葉を小声で囁いておくように指示しておいただけですから気にしなくていいですわ!それにわたくし、器の小さい男なんて相手にしませんのよ?


 まぁ、時間稼ぎをしたかったのもあったのですけれどーーーー。まったく、最初から来ていればこんな小細工しなくても良かったですのに往生際が悪いですわよね」


 そう言って、ユリアーナ様がパチンと指を鳴らすと、部屋の奥にある扉がそっと開いた。そこにいたのはーーーー。





「……エリオット!」




 正装したエリオットがそこに立っていたのだった。





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