第34話 因縁のパーティーが始まってしまった

 パーティーが始まってから約1時間後。




 ざわざわざわ……





 遅れてパーティー会場にやって来た私とエリオットだったが……ものすごく注目されている。いや、王家主催のパーティーに事情があったにせよ1時間近く遅れて来たんだから注目されるのは仕方ないのだが……たぶん、違う意味でも注目されているに違いない。なぜなら────。



「ふふん!やっぱり主役は遅れて登場するものですわ!」



 王太子の婚約者であり、エリオットとそっくりな顔をしているユリアーナ様が私と腕を組んで現れたからである。


「……ちょっと、僕のおねーさまにくっつきすぎじゃない?」


「あら、エリオットのおねーさまならわたくしにとってもおねーさまだわ。ねぇ、エレナさん?」


「えーと、その」


「だから、僕だけのおねーさまだから!馴れ馴れしくしないでよね!」


「そんなのズルいわ!わたくしだっておねーさまが欲しいわ!」


「ズルくないよ!おねーさまはあげないからね?!」


 興奮気味にどんどんオーバーヒートしていくふたりに挟まれて、私はどうしたものかと頭を悩ませていた。


 うん、だから……私をはさんで喧嘩しないで……?



「ユリアーナ、何を騒いでいる……!」


 私が困り果てていると、ざわめく人集りをかき分けて姿を現したのはなんと王太子だった。金髪に緑眼の美丈夫だがこの人がエリオットの実父だと思うとピリッとした緊張が走る。それにしても色どころか顔つきも全然エリオットと似ていない。ユリアーナ様とは似すぎている事も考えるとやっぱり完全に母親似なのだなと思った。





「あら、殿下……何をお怒りになっておられますの?」


「何をだと?!お前は王太子の婚約者なんだぞ!それなのにパーティーに遅れてくるなどたかが公爵家の娘の分際で俺に恥をかかせやがって……!

 ちっ!まぁいい、俺はそこのメルキューレ女侯爵たちに話があるんだ。お前は俺の代わりに招待客の相手をしていろ!」


 イライラとした様子を隠そうともせず、王太子はユリアーナ様を睨んでいた。その表情や態度も決して“婚約者”に対してするものではないと思うがユリアーナ様は平気そうにしている。……つまり、このやりとりはいつものことなのだろう。


「あら殿下、わたくしこれから忙しくなりますのでそれは無理なご相談ですわ。ねぇ、サリヴァン殿下……さっきから?」


「はぁ?お前は何を言って────」


 するとユリアーナ様は一歩前へ出て私を隠すように立ったかと思うと、エリオットの腕を引っ張り横に並ばせた。瓜二つの同じ顔が並び、その状況に遠巻きに見ていた招待客たちがまたもやざわめき出す。


「見て下さい、そっくりでしょう?実は、生き別れになっていた弟が戻ってきてくれたのです。こんな喜ばしいことはありませんわ。ですから────ここにいる皆様には是非証人になっていただきたく思っておりますのよ」


「なっ……!」


 王太子は何かに気付いたのか、ユリアーナ様を止めようとした。しかしそれは間に合わず、ユリアーナ様は声を高くして叫んだのだった。




「この子はエリオット・ラファエ。わたくしの弟で女公爵であったお母様が命をかけて産み落とされた正統なる次期ラファエ公爵です!のせいもあり訳あって親戚筋に預けられていたのですが、の息子がやっとラファエ家に戻ってきてくれたと、お母様もお喜びになっていますわ!」と。







 この会場へ来る前に、ユリアーナ様は私とエリオットにこう言っていた。





「わたくし、王太子殿下の野望を粉々に打ち砕いてやるためにずっと婚約者の座にいたんですの。今がその時ですのよ。もちろん協力してくださいますわよね?」



 有無を言わせぬ笑顔で語られたのはエリオットの今後を巻き込む作戦だった。だがそれを聞いてエリオットは「僕、やるよ」と頷いたのだ。


 やることは至極シンプルだ。


 王太子本人や、周りがうっすらと疑っているエリオットのを捻じ曲げてやる。ただそれだけだった。

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