第2話 何事も始まりは不幸の連鎖。

 製作者は語る。


「えぇ、そうなんですよ。乙女ゲームって世の中にたくさんあるじゃないですか?どれもこれもご都合主義満載で、ヒロインは必ず幸せになるものばかり……つまらないと思いませんか?」


 ーーーー乙女ゲームですからねぇ。


「なんなんですかね?ヒロインって必ず天真爛漫でドジっ娘で、庇護欲をそそる子犬系って誰が決めたんですか?

 それで不幸な境遇にいたヒロインが攻略対象者みんなに愛されてハッピーエンド?現実にそんなのあるわけないじゃないですか?」


 ーーーーいや、だから乙女ゲームってそうゆうものでは?


「世の中にはねぇ、お金持ちで性格良くてイケメンでヒロインをでろんでろんに甘やかしてくれる王子様なんかいりゃしないんですよ!」


 ーーーーうわっ、目がこわっ……いえ、ですからこそ購入者はゲームに理想の王子様を求めているわけでして……。


「だからこそ、このゲームです!

 出てくる攻略対象者はヤバイやつばっかり!しかもヒロインを甘やかすどころか大嫌い!死に物狂いで攻略しても、ひとつ間違えれば即ゲームオーバー!不幸の連続!

 ちなみにヒロインにはドMな隠された性格があり、ツラくされてるうちに開花されていきますがそれはそれで死ぬより酷い目に遭います」


 ーーーーヒロインになにか恨みでもあるんですか?


「このヒロイン可愛いでしょう?孤児だった子がシンデレラみたいにお金持ちに引き取られて、周りからはチヤホヤされるなんて許せない……このヒロイン、わたしから彼氏を寝とったクソ女にそっくりなんですよー!

 あぁん?子犬系だぁ?俺が守ってやらなきゃ?てめぇの背後でニヤニヤしてるその化粧オバケにはてめぇ以外に彼氏を名乗る男が何人いると思ってやがんだコラぁ!」


 ーーーーえ、こわっ。私怨?


「人がこのゲームの制作で泊まり込みの徹夜してる間に同棲してるマンションに連れ込んだあげくにボヤ騒ぎ起こすし!しかもわたしの荷物は勝手に捨てたぁ?!あげくの果てに婚約破棄!

 そんな男こっちから願い下げだ!裁判してでも慰謝料ふんだくってやる!!首洗って待ってろクソども!


 ……その勢いで一気に内容を変更して作り上げたらまさかのオッケーが出たので試作品にこぎつけました。ついでにネタバレすると攻略対象者たちも全員不幸になりますので。


 と、いうことで。この取材が終わったら長期休暇取るんです。さっさと、終わらせてください」


 ーーーーひぃぃぃ!負のオーラが見えるぅ!

 け、結局、このゲームのコンセプトとか願いとか、そそその辺を教えて頂けたら……。


「つまり世の中にたくさんいると思われる、ドMな方、不幸が大好物な方、暗黒闇落ち経験したい方々にお届けする少々マニアックな乙女ゲームとなっております」


 ーーーーぱ、パッケージデザインは素晴らしいですね。あれ?でも攻略対象者は全員イケメンですね。今のお話からだとてっきり……。


「そりゃあ、乙女ゲームなんですからイケメンじゃないと面白くないでしょう?あなたブサメンを攻略したい方ですか?」


 ーーーーいえ、やはり乙女ゲームはイケメンがいいかと思います。こんなイケメンなら闇落ちエンドもなかなかいいかと!


「そうそう、そこが乙女ゲームの良い所ですからね。ちゃんと非現実的な要素も含んでますのでご安心下さい。ちょっと性格が歪んでるだけですので」


 ーーーーそれは製作者の……いえ、なんでもありません。今回は試作プレイのモニターに応募が殺到したとか!発売前からネットで話題になってますよ。


「あなたにもサンプル版を差し上げますので、是非プレイして下さいね。

 それにここだけの話ですが、実はヒロインたちが幸せになるルートもあるんです。隠しルートの発見も楽しみのひとつですよ。

 世の中にはびこるヒロイン気取りのお花畑女たちを粛清するゲームですが、クモの糸くらいの慈悲はもたせてあります。……でないと販売許可おりなかったんで。ちっ」


 ーーーー(な、なんかぼそっと舌打ちした?!)と、とにかく今までの乙女ゲームを覆す“ヤンデレ系な暗黒ドMが好きな方に贈る乙女ゲーム”ってことですね?


「えぇ、そんな感じですわ。どうぞお楽しみください」


 にっこりと営業スマイルを見せたのは製作主任の綺麗な女性だった。噂ではこのゲームを完成させたら同じ会社に勤める婚約者(ちなみにこの人の部下)と結婚するのだと頑張っていたらしい。


 だが、仕事が忙しくてしばらく会えないでいたらその間に新入社員の女の子と浮気されていたのだとか……。


 その浮気相手をモデルにしたのだとしたら、このゲームのヒロインが幸せになるのはなかなか難しそうだなぁ。と思った。


 まぁ所詮ゲームだし、ホラー系乙女ゲームだとでも思えば面白そうかもしれない。


 新人ライターの私は、初めて任された仕事に浮き足立っていた。

 乙女ゲーム特集に載せる『ちょっと変わり種乙女ゲーム』にネットで今から話題になっていると噂のそのゲームの記事を書くためにサンプル版をプレイするのだった。









 たまにはこんな乙女ゲームも面白そう。なんて思っていた自分をぶん殴ってやりたいよー!


 そう、私はこのゲームを徹夜でプレイして原稿を書き上げた後……会社に原稿を持っていこうとして交通事故に巻き込まれて死んでしまったのだ……。


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