88作品目

09話.[こういう感じに]

「へえ、じゃあまだキスはしなかったんだね」

「うん、焦る必要もないからということでね」

　そういうことをしたくて従っていたわけではない。

　とにかくあの日は先輩の近くでゆっくりしていたかった。

　だから泊まってくれと言われたときはありがたかったのだ。

　私がいきなり泊まってほしいとか頼むのはなんか違かったから。

「でも、もし誘ってきたらどうする？」

「そうしたらもうがばっといくよ」

　そうなったら許可をしてくれているようなものだから遠慮せずにいく。

　また今度と後回しにしてしまったらきっとできないまま終わってしまうから。

　それに少し前までとは関係が違うから全くないというわけでもなかった。

「玲美がしそうだね、なんとなく先輩は恥ずかしがってできなさそう」

「照れたり慌てた瑠衣先輩を見てみたいと考える自分もいるけど、普通に存在してくれているだけで力を貰えるからね。その点は純も同じだよ？」

「なんかおまけ感がすごいんだけど……」

　そんなことはない、けど、彼女にとっては違うから駄目なのだ。

　とはいえ、何度も物を買って渡すというのもお小遣い的に現実的ではないので、

「おお、丁度いい力加減」

「でしょ？　結構やってきたからね」

　これまた肩揉みをして少しずつ返していくことにした。

　なにもしないで彼女にとっては違う～なんて思考を続けるよりはよっぽどいい。

　あと、考えれば考えるほど動けなくなる可能性があるから危険というのもある。

「だけど肩揉みよりももっといい方法があるよ？」

「そうなの？」

「うん、それはねー――」

　彼女が全てを言い終える前に「成里には肩揉みだけで十分だろう」と先輩が言う。

　背後から来ているというのもあったけど全く気づかなかった。

「玲美大好きの成里のことだ、『抱きしめてくれればいいよ』とか言うつもりでいたのだろう」

「え、違いますけど、私は先輩と仲良くしているところをもっと見せてくれればいいと言おうとしたんですけど。ま、誰かさんのせいで言えませんでしたけどね」

　ああ、どうしてすぐにこういう感じになってしまうのか。

　先輩もぷるぷると震えてしまっているし、彼女もあくまでやめるつもりはないみたいだった。

　私はひとりこの先のことを考えて微妙な気持ちになっていた。

「ぷふ、意外と先輩も可愛いところがあるんですね」

「ぐぐぐ……」

「いいじゃないですか、無表情でいるよりは感情豊かでいいと思います」

「……だったらそれだけ言っておけばいいだろう」

「嫌ですよ、私と玲美の時間を邪魔したんですからね」

　今度こそ止めておいた。

　だって喧嘩をしてほしくなかったから仕方がないのだと片付けて。

　彼女も煽るようなことはやめてほしかった。