第4話 最初の一手
転覆はしなかった。しかし次があれば、どうなるかわからない。
「誰も振り落とされてはいないだろうな!」
スーデス船長の怒声に各々船員が答える。どうやら全員無事らしい。ならば次の行動にも移りやすいというもの。
「スーデス船長、腕掴んでくれて助かったよ。おかげで落ちなかった」
「軽いガキを支えただけだ。この程度じゃ労力にもならん」
「
君たちと言ったところで、スーデスの眉間に僅かにシワが寄る。何やら思うところがあるようだが、俺は無視をした。スーデスも深追いはしてこない。
それよりも船の進路変更を先に済ませる。
船首の向きに関しての口出しはしなくていい。俺が求められているのはその先の助言だ。
スーデスは忙しそうだが気にせず、汗をかく横顔に要求をぶつける。
「とりあえず武器を上まで運んでもらえます? 積んである分を全部。でもさっきみたいな波で投げ出されてはたまらないから、しっかり固定するか、すぐに甲板まで上げられる位置に移動させるように」
「それが必要なことなのか? わかった」
スーデスは船員の安否を確認したように、再び声を張り上げる。
「おまえら! 積んでいる武器、商品も全部、甲板まで上げろ! 縄での固定を忘れるな! 手が空いているやつは大砲をいつでも撃てるよう用意しろ!」
「「ヘィ!」」
船員たちはスーデスの指令に従い動き出す。ひとりひとりが自分の役割を即座に理解し、滑らかな協力作業が行われていく。
「連携が取れてる。すごい、芸術的だ」
ふと漏れた言葉は俺の本心だった。
気を良くしたか、スーデスは自慢げに頬を緩める。
「当然だ。あいつらを誰だと思っている? 俺の部下だぞ」
「これは頭が上がらないや」
「それで武器をどうするつもりだ? 剣槍斧、あとは盾もいくらかあるが」
「
「だが
「やり方があるんだよ。あの髭、意外と抜けやすいだよね」
トリプレッツガーデンでの
「確かに電気じゃ大してダメージは与えられない。でも効かないわけじゃないんだ」
「足止めにすらならないはずだ。
「その認識は少し違う」
「なんだと?」
「狩りに使うのはそのとおり。毎日電気を流しているのも間違いない。でも
「話が見えん。答えを言え。余裕がないと言ったはずだ」
「簡単に言うと、
「つまり毎日狩りをする度、自分も少しは痺れてるってわけか?」
その可能性もある。想像してみると可愛く思えてきた。
「あいつはね自分が行動不能になるほどの電気を、普段は決して流さない。つまりそれ以上の電気を流すしか無い状況を作るか、暴発させてやれば、
今回目指すのは暴発だ。髭を何本か、抜くか切り落とす。すると水面に電気が溜まった髭が浮くわけだ。体から離れた髭は、
「不安要素もあるけどね」
船の後に現れた影が、肥大を始めた。深くまで潜った
「それで武器を用意してもらった理由なんだけど」
船員が次々と武器を上げていた。木箱に詰まったそれが、順次増えていく。
「武器をやつの髭に絡ませる」
「なにっ?」
スーデスは大きな衝撃を受けたらしい。驚いた顔を隠そうともしなかった。
まあそうなるよな。
「不安要素ってのはそこでさ、剣って水に沈むじゃん。投げて外したら終わりなんだよね。理想としては投げて絡ませたいけど、最悪は泳いで近づいて直接結ぶって形になる」
「そもそも
「基本的には捕らえたものは出さないよ。髭に舌を突っ込んで獲物を食べることもあるみたいだし。武器を獲物だと誤認させられればいい。
「わかった。じゃあうまく髭に武器が絡まったとする。次は?」
「大砲を髭に向ける。できれば絡まった武器に当てたい。それで武器が折れれば、衝撃で周囲の数本は落ちるはず。落ちるようにできてる。当たらなくても髭を大きく揺らせたら、武器が振り子みたいになって抜ける」
「髭は顎下にあるんだぞ。そこを大砲で狙う? 潜られたらできないぞ」
「それは大丈夫だよ。
それを抜きにしても大丈夫だ。
ずいと巨影が接近してくる。波の隙間から、背中が浮き上がり始めた。背中に日が当たり照り返す。その輝きは見ている分には綺麗だ。凶暴性がなければ海の美として数えられていただろう。
スーデスが船員に呼びかける。
「野郎ども! 運んだ武器を、軽いものから順に奴に投げつけてやれ! 保険のために一部にはロープでも括り付けて、回収できるようにな」
船員は一斉に答えると、疑うことなく指令を実行する。次々と鉄の塊が海に放り込まれた。
「これで船が軽くなるってことですかい? ついでに奴に引っ掛けてやれば、多少は泳ぎにくくなる」
一部の船員はそういった勘違いをしているようだった。認識がどうであれ、うまくやってくれるなら問題はない。
武器は次々と投げ込まれ、水底に沈んでいく。
金属製の武器は重いだろうに、船員たちはよく投げ飛ばせるものだ。かなりの身体能力がある。
俺が関心した武器投擲だが、
船の手すりに体を預け、じっと
投げ込まれた武器は数十にものぼった。
もし髭にひとつも絡まっていなければ、早急に別の策を考えなければいけない。今も考えているが、その策がまるで思い浮かんでいない。だからこそ、武器の投擲に掛ける思いが強くなっていく。そんなときだった。
「船長! 奴が釣れましたぜ」
ひとりの船員が、ピンと張ったロープを手にしていた。そのロープは
外して沈んだときに再利用できるよう、武器に括られたロープだった。それが
「よくやった。それで次は大砲だったな?」
俺は何度も強く頷いた。
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