第7話 発掘! 忘れられた怪奇現場 そのトンネルの奥になにがある?
長々と昔のお話をしてまいりましたが、ここからが本編のはじまりでございます。ここまでのお話、それは1990年代にあるテレビ局で放送された怪奇実話特集で紹介されたもので、いまもネットの片隅にこうした情報がひっそりと残されているのでございます。元はといえば、昔の話を発掘した郷土史研究家による本からの引用でしょうが、その本は今日、入手困難なため確かめる術はございません。
ネットの情報は極めて有用、有益なものから、無益なもの、さらには百害あって一利なしの嘘八百までございます。そんなことはおかまいなく、あるユーチューバーがこの話の拡散をいたします。さほど名は知られておらず、視聴回数も大したことはございませんが、ズバリ「怪談 蛇角山トンネル」で検索するとヒットいたしていた時期がございました。いまは、この映像も消えしまい、そのユーチューバーも海の藻屑ならぬビットの藻屑となったようでございますが……。
ともかくキーワードで検索して怪奇、恐怖、ホラーの情報を漁っていた人たちの誰かが、この動画を見て「使える」と判断し、知り合いに売り込んだりしたものですから、その道の方々は「ああ、あれね」ぐらいのうっすらとした記憶には残っております。ただこのように、実際の地名はあるものの裏づけとなる情報が皆無なため、まともに取り上げる者はおりませんでした。
それが巡り巡って、ある映像作家の元へと来まして、怪奇・心霊もののチャンネルをネットで運営している者たちに知られていきました。それがつい最近のこと。二十一世紀となって久しいある日のことでございました。
映像作家某氏、仮にAとしておこう。Aは、一応は原本を探そうといたしたことはした。まったくどこにもなく、その地域の図書館にもなく、つい三十年ほど前のことなのに誰も知っている者を見つけることができない。
「ああ、それはほら、テレビのディレクターさんや放送作家さんたちが、苦し紛れに作ったんでしょう」と言う地元の者もいて、いまさらなんだと当惑しきり。
なにしろ、放送時にトンネル周辺の写真を撮ったり、近隣の人の話を聞いたはずの放送作家の知人さえも、その後、行方ががまったくわからない。
存在していなかった、あるいは放送作家による苦し紛れの創作だった、と言われても仕方がない。
かといって、蛇角山トンネルには雨のときには近づかない人が多いのだと、地元の「常識」はいまなお存在している。
「危険だからですよ」と合理的な解釈をされてはいたが、Aは納得しない。
「道路といっても林道ですよ。舗装なんてされちゃいません。街灯もない。ガードレールもない。危険極まりない。トンネルだっていまの車が通れるほど大きくない。途中、何ヵ所か崩落しているという話です。文化財にする案も立ち消えて、いまはただ封鎖しているだけです」
いつしか立入禁止になっていると役所では言う。
物好きな人はいつの時代にもいる。Aからこの話を聴いた者たちもそうだった。「だったらこの埋もれた話を発掘してみよう」と思い立つ。もちろん、いまもなお、この人たちはプロあるいはセミプロとしてその業界で仕事をしているかもしれず、ここでは名は伏せておこう。男もいれば女もいる、そんな同好の士でありながら、それを生業としている方たち。フリーランスが中心だ。
そして、この人たちによってたちまちできあがったのが、一本のネット番組企画。「発掘! 忘れられた怪奇現場 そのトンネルの奥になにがある?」だった。現在につながる蛇隅山トンネルの話は、そのすべてがこの番組が発信源となっている。
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