第6話 魔王の社会見学(教会編)
勇者パーティー3人のうち、先頭の聖女に相変わらず抱っこされている魔王。
離そうともがいたが、諦めてうなだれている。
「魔王ちゃん・・・デュフフ・・・。」
最後尾にいる勇者が抱っこされて後ろを向いている魔王と目が合うたびによだれをたらしている。
その声と視線を聞くだけで体全体が恐怖でゾワゾワしてしまう。
「魔王ちゃん大丈夫だぞ。アタシが見張ってるからな。」
3人の間に入っている闘士が勇者と魔王の視線の間に割りこむ。
「う、うむ・・・。
別に勇者が怖いわけでは・・・ない・・・からな・・・。」
「んだよ煮え切らねーなぁ・・・。
まぁ、魔王ちゃんがまだこんなに可愛くて助かったぜ。」
「もっと恐れんか!?我は魔王だぞ!!」
「はいはい、そうですね。」
抱きしめている聖女がなだめるように撫でる。
「うぬぅ・・・。」
手も足も出ないことを理解して不貞腐れてしまう。
「まぁよい、して今はどこに向かっておるのだ?」
「一度私がお世話になったところに戻ろうかと。」
「・・・あそこに行くのか。」
「あー、あそこか。」
あれだけ興奮していた勇者も一気に冷めている。
闘士も気まずそうな顔をする。
「なんだお主ら?教会に何かあるのか?」
「「・・・・。」」
「まぁ、着いてからいろいろ私から話してあげるわ。」
聖女以外気まずい雰囲気のまま、ダンジョン跡地から人間の町へとしばらく歩くことになった。
うっそうとした森林から整備された道へと変わっていった。
その道を辿っていくとやがて、教会が見えてきた。
「じゃぁ、アタシらはこの辺で待ってるわ。」
勇者と闘士がある程度距離があるところで立ち止まってしまった。
「じゃぁ、ちょっと待っててね。魔王ちゃん、行きましょうか。」
「う、うむ・・・。」
教会の敷地内になんの問題もなく入り込む。
大きな建物と自分たちが食べる用の野菜を育てる、土地がある。
「この大きなのが礼拝堂。世間一般の人にも使ってもらってるわ。
それでこっちが孤児院。私も久々に戻ってくるわ・・・。」
「人が1人もおらんが?あと、我が入っても大丈夫なのか?」
「もう入れてるということは大丈夫ってことよ。」
立派な大きな孤児院の門の前で聖女が声をかける。
「ただいま戻りました。」
すると自然と扉が開き、中から老いすぎている老婆が出てきた。
「おぉ・・・これはこれは懐かしい人が帰ってきたのう・・・。
ほれ、皆も中におるぞ、入るといい。
新しい子も歓迎しよう。」
「ありがとう、マスターシスター。
さぁ、入りましょう、これが孤児院ですよ。」
中に入ると魔王は目を疑う。
そこにあったのは人間の子供だけでなく、魔族の子供もいるのだ。
「あ!!聖女様だ!!お帰りなさい!!!!」
「ふふ、ただいま、みんな。でもあまり長居はしないわ。」
「えー、そんなのつまんなーい!!」
「ねぇねぇ、抱っこしてるその子は新しい子?」
「いいえ、違うわ。一緒に旅をしている仲間よ。」
「これは・・・?」
頭が混乱する。
人間と魔族は常に嫌いあって争いあっていたのでは?
「これが勇者と闘士がこの敷地内に入れない理由でもあるわ。」
魔王である私にだけ聞こえるように話しかけてくる。
「みんなの顔がみれて良かったわ。またね。」
「「「「ばいばーい」」」」
孤児院の外に出て門がしまる。
「さてと、魔王ちゃんには全部話さなきゃね。」
木漏れ日が気持ちのいい孤児院のすぐ近くのベンチに腰掛ける。
すでに聖女から降りていた魔王も隣に腰掛ける。
「この教会の敷地にかかってる魔法がどんなのか分かった?」
「・・・皆目見当もつかん。勇者と闘士でさえ入ることを拒むのであろう?」
聖女がニコリと笑うと話し始める。
「教会を建てる時は職人さんとかお手伝いさんの祈りが込められるの。
全ての生き物が無駄な殺生をしませんようにってね。」
魔王はふと勇者がなんのためらいもなく魔物たちを吹き飛ばしたのを思い出す。
「丁寧に丁寧に建てた結果、無駄な殺生を行うものは入れなくなったの。
勇者は世を救うため・・・というよりも理想のロリを探すために、ありとあらゆる
魔物、魔人、時に盗賊も・・・ね・・・。」
「勇者ならまだ理由は納得できるわ。
だが、闘士はなぜだ?」
「それはあの子が盗賊出身だからよ。」
「・・・。」
「生きるために殺すしかなかった。
でも食べるために殺すのではなく、奪うために殺す。
だからここの中には入れない。
いいえ、入れたとしても入らないでしょうね。」
「まだ質問は終わらんぞ。なぜ人間の子供だけでなく魔人の子供もいるのだ?」
「あら、知らないの?最近は共存しようと頑張ってるのよ?」
「共存などあり得ん!!!
誰がそんなうぬぼれたこと・・・なるほど、勇者か・・・。」
「ふふ、そうよ。
確かにロリ専サイコレズではあるけれど、いろいろ考えてるのよ?
私たちが通ってきた森覚えてる?」
「むろんだとも。」
「あれは魔獣たちの保護区でもあるの。
多すぎたら猟師さんに狩ってもらってありがたくその肉をこの孤児院に分けてもら
ったり、市場にも出回っているわ。」
「なら、今の人間の都市はどうなっておるのだ?」
「あら、なら見に行きましょうか。」
ベンチから立ち上がり、再び魔王を抱き上げる魔王。
そして二人の元へと戻る。
「お、帰ってきたな。」
「おかえりぃぃぃぃ!!!!魔王ちゃん!!!!」
「・・・うむ。」
勇者を見る目が少し変わったため、ある程度のトチ狂いなら許せるようになった魔王だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます