第5話 ダンジョン攻略(勇者パーティーによる魔王誘拐)
「さーて、またこのダンジョンに戻ってきたわけだが。」
褐色の女性が縄でぐるぐる巻きにされている勇者を引きずっている。
「ここまでしなくてもいいんじゃない?」
勇者が引きずられながら文句を垂れる。
「いいえ、ここまでしないと暴れるではありませんか。」
「しかもさ、縄に呪文かけてるでしょ。逃げられないもん。」
「あ、ばれました?
あとやっぱり逃げようとしてましたね。」
「お、ついたぞ。このままレッツゴー!!」
「うそぉん・・・。」
「はい、行きましょう。」
中に入ると、3人は違和感を覚える。
「敵倒し過ぎてもういねぇのかもな!!」
あまりに静かすぎるのだ。
物音1つしない。
それが無気味さを演出している。
「いえ・・・これは・・・危ない!!」
先頭を行く褐色の女性がある地点を通り過ぎた時、突然頭上から落石が発生した。
「逸れよ!!いっっっ!!!!」
落石を逸らせようとしたら、聖女にダメージが行った。
「おいおい!!大丈夫かよ!?」
その場にうずくまってはいたが、すぐに立ち上がる。
だが、様子は芳しくない。
「な、なんとか大丈夫です・・・。
でも、単純に落石かと思わせて実は聖職に大ダメージ与える罠なんて・・・。」
手を開いたり握ったりするが、見てわかるくらいに震えている。
「私の力が必要なんじゃない?」
「こんな強力でしかも気づけない罠だもんな・・・。」
「いえ、まだ行けます・・・う・・・。」
「・・・名付けする?」
この世界で個人名を持っているのは一般人のみ。
それ以外の人たちは基本的に役職名を名乗っている。
名付けをされている人もいなくはないが、成長限界が決まってしまうのだ。
名付けをされることによって即座に大幅な能力上昇されるが、それ以上にはならない。
「そんなふざけたこと言うんじゃねぇよ!!!!」
褐色の女性、闘士が怒声を上げる。
ポンと肩に手が乗る。
「怒ってくれてありがとう。
でも、このロリ専サイコレズを解放するか、名付けしてもらえれば、この罠
をどうにかできるかもしれない・・・。」
「・・・おい勇者。」
鋭い視線を勇者に向ける。
「はい、なんでしょう、闘士様。」
「暴れないって約束できるか?」
勇者の顔が下に向く。
顔の表情が読み取れない。
それを見てか、聖女が代わりに答える。
「この人にそんな約束できるはずないでしょう・・・。」
「でも・・・ここで名付けしちまうと・・・。」
「・・・我慢・・・する。」
勇者がぽつりと呟く。
2人は思わず驚いて勇者の方を見る。
「も、も一回言え。
全く信じられねぇ・・・。」
「我慢する。」
「すごい死にそうな顔をしてますよ・・・。」
その覚悟を決めた勇者の表情はまるで死んだ後の人間の顔だった。
「・・・ほんとだな?」
「うん。なんとか抑えてみせるよ・・・。」
「ありがとう、勇者様。」
勇者を縛っていた縄が解かれる。
「よし、改めて行こうか。」
自由になった勇者が準備運動をする。
「けどよぉ、この罠の量どうすんだよ。床下の結界だってすげぇし。」
「勇者を甘く見るんじゃない。
あの子をもう1度見るためならなんだってできるさ。」
勇者がこぶしを握り、ぴたりと地面にくっつける。
「この結界壊すつもりですか?
正気じゃありませんよ・・・。」
「まぁ、私、元から正気じゃないしね。
今行くよ!!ロリちゃん!!」
「アホだ。」
「ええ、そうですね・・・。」
今度こそあの勇者は手こずっておるだろうな。
どんな情けない姿で罠にかかっているのやら!!
頭上を見上げ、勇者がどんな目にあっているのかを妄想する。
・・・ん?今頭上の床面が少し歪んだが?
目を細める。
そして明らかに床面が大きく歪む。
「ウソであろう・・・。
あ、あ、あの3重の結界を破ってくるのか・・・。
トラップマスター!!」
「はは、は、はい、魔王様。」
「どうする!?
どうすればいいのだ!?」
「いやぁ、わ、わ、わ、罠ガン無視とはどうにもできませんよ・・・。」
泣きながら私の服にしがみつき、ゆさゆさと揺らしてくる。
可愛い。
だが、どうにもできないものはどうにもできない。
そしてついに床面が破られる。
「ロリ!!!!!!」
「だからさぁ、掛け声どうにかならねぇのかよ。」
「この人、いったいなんでこんなに力あるんでしょうね・・・。」
「ロリのためなら地の果て、空の果て、海の果てまで行きますともぉぉぉぉ!!!」
たった3撃で床を壊す。
そして目にしたのは。
四角い箱を背負った魔王の子供とお面を被った何者か。
「・・・あのさぁ。」
床に到着した勇者が何故かブチ切れている。
「おう、どうしたよ。」
「何かありましたか?」
「なんでさぁ、あの子はこんなにも私のど真ん中を貫いてくるわけ?
何?あの背徳的な危うさ。
え、ペロる?ペロっていいよね?ペロるね。」
「へへへへ、変態!!!!!!!!、来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
玉座の後ろに隠れた魔王。
トラップマスターは肩をすくめるばかり。
闘士もどうしたものかと楽な姿勢を取る。
「ここは、私が。」
「お、そうだな、子供相手ならお前だな。
アタシは勇者の見張りでもしておくよ。」
「ペロ・・・いやでも、ペロっても・・・だめでしょう・・・。」
「すぐにでも自我決壊しそうだからな・・・・」
玉座の後ろに隠れた魔人の少女に話しかける。
「大丈夫ですよ。」
「う、ウソだ!!
あんな変人を連れておる奴らなど信用なるか!!」
「確かに、あの人は頭おかしいです。
私とあそこにいる闘士も過去に襲われかけたことありますからね・・・。」
聖女が汚物を見るような目であの変質者を見つめる。
「でも、私はそんな趣味ありません。
子供は等しく、子供。
どんな子供でも私は等しく愛情を捧げますよ。ほら、怖がらずに。」
手を伸ばして抱きしめようとしてくる。
普段なら抗うだろう。
でも、今は圧倒的変質者のせいで、誰にでもいいから守られたいという願望がある。
思わずその人に大人しくとなしく抱っこされる
「あの人から守ってくれる?」
「ええ、もちろんですとも。」
その笑みは今までのどんな顔よりも慈愛に満ちていた。
遠目で見ていた勇者にトラップマスターが話しかける。
「ぶっちゃけあ、ああ、あの子どう思います?」
「え、可愛いの権化。ぺろぺろの対象。私の嫁。ん?私が嫁か?
ちなみにあの子何歳なの?」
「寿命が1万年で、今千歳ちょっと。」
「ふぅん・・・ふぅうん!!!!!」
「わかっちゃいました?」
「つまりあれでしょ?
私からすればずっとあの姿ってことでしょ?
やばくない?」
「さすがですね。見る目ありますね。」
「あ、あなたもその口で?よくわかってらっしゃる。」
「おいおいおい・・・やべぇ同盟誕生してるぞ・・・。」
「はい、お話はつきました。
私がこの子の保護者となればついてくるとのことです。
勇者より強いのは私と闘士しかいませんからね。」
「「え?」」
魔王とトラップマスターに衝撃が走る。
これが・・・勇者・・・?
「ええい!!我を離さぬか!!!!」
聖女に抱っこされていた魔王が暴れるが聖女の力が思ったよりも強い。
「あなたが魔王だったのねぇ・・・。
こんなに可愛いなら勇者も殺せないわね・・・。」
暴れる魔王をもろともせず、しっかりと抱き続ける聖女。
「ま、、ま、魔王様を誘拐するなぁぁぁぁ!!!!」
トラップマスターの叫び声と同時に10匹の魔物がその場に召喚される。
6つの手全てに目玉がついており、足は触手でできている魔物。
黒い球体が5つほど合体している魔物。
頭はなんでも飲み込める大きな口だが、胴はチーターで魔力耐性持ち。
尻尾が12本もあり、災厄とも呼ばれる狐の魔獣。
ぶつぶつと呪術を放ち続ける呪いの僧のミイラ。
すさまじいオーラを纏っている騎士。
ありとあらゆるチェーンが絡み合って人間の形を模した魔物。
高位の堕天使。
爆発してもいいよねと呟いているエネルギー体。
ワンと吠えるたびに増殖する魔犬。
だが、出てきたのは良い物の、闘士と聖女にと勇者によってすぐさま全部が片付けられてしまう。
「・・・まぁ、そんなわけで魔王様、お出かけしましょうか。」
「いやだ!!離せ!!離すのだ!!!!」
「あ、また機会あったらロリについて語り合いましょうね。
ロリに敵も味方も無いんで。」
「・・・はぁ、わ、わ、わかりました。またいつかお会いしましょう。」
「んだよ、もっと骨のあるやついねぇのかよ・・・。
がっかりしたぜ・・・。」
こうして勇者パーティーは魔王を拉致することに成功した。
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