第16話 魔法創造(クーラー)

 いつものように片道二時間かけて騎士団の演習場……改め魔法練習場に辿り着いた俺たちはさっそく新たな魔法の創造に取り掛かることにした。


「新しい魔法を創造する……。レイン様、いったいどのように魔法を創るつもりなのですか?」


 アリスは懐疑的な視線を俺へ向けてくる。


 新たな魔法は数年に一度開発されるかどうかという代物らしく、宮廷魔導士で組織された王立魔法協会で発表した上で新魔法として認められるそうだ。アリスによれば開発した新魔法が王立魔法協会で認められる事が、魔法使いにとって最大の栄誉になるらしい。


 辺境に住む魔法をろくに知らない7歳の子供が、どうして新たな魔法を創れるというのか。アリスが懐疑的になるのも仕方がない。彼女は俺が〈創造〉のスキルを持つと知らないのだから。


 この世界に転生する前、天使が選んでくれた十個のスキルの内の一つである〈創造〉のスキル。その効果は、スキル・アイテム・魔法を自由に作り出すことが出来るというものだった。


 実際に使ってみるのは初めてだ。どんなスキルか興味はあったが、必要に迫られなかったために試したこともなかった。


「〈創造〉」


 早速、スキルを発動させると目の前に半透明のウィンドウのような物が浮かび上がる。スキル、アイテム、魔法の三つをまずは選択できるようで、指で魔法をタップするとウィンドウの表示が切り替わって魔法のエディット画面になった。


 ……なるほど、素材となる魔法が必要なのか。


 どうやら0から1を作り出すようなスキルではなさそうだ。素材となる魔法を選んで自由に組み合わせて魔法を創るシステムらしく、俺が今覚えている魔法は〈ファイヤボール〉のみのため、まずは素材となる魔法を覚える必要があった。


「アリス、一番初歩の氷と風の魔法を教えてくれないか?」


「一番初歩の、ですか? そうですね……。では〈アイスメイク〉と〈ブリーズ〉を」


 アリスが見せてくれた〈アイスメイク〉は氷を生み出す魔法だった。アリスが作った氷は直径3センチほどの一口サイズの氷で、ニーナが美味しく召し上がった。ちなみに俺が〈アイスメイク〉を使うと直径一メートル近い巨大な氷の塊が出てきてしまう。


 〈ブリーズ〉はそよ風程度の風を生み出す魔法。そのまま使っても扇風機代わりになりそうだったが、これまた俺が使うと辺り一帯に暴風が吹き荒れた。


「初歩の魔法でここまでとは……。レイン様の才能には凄まじい物がありますね」

「おかげで使うに使えないけどな……」


 せっかくの魔法の才能が、宝の持ち腐れにも程がある。この世界がちょうど平和な時代で本当に良かった。人に向けて魔法を放つ機会が訪れないことを願うばかりだ。


 さて、素材となる魔法は覚えた。後はこれを組み合わせてどのような魔法にするかだな。


 さっそく、〈創造〉のエディット画面上で〈アイスメイク〉と〈ブリーズ〉を組み合わせる。出来上がる魔法には名前が付けられるようで、これはそのまま〈クーラー〉と名付けることにした。


 エディット画面では魔法の威力と射程距離と効果範囲の数値を、素材となった魔法に応じて弄れるようだ。威力の最小値は0、最大値は35。〈ファイヤボール〉の威力値が10なことを考えると、かなり強力な魔法にも出来るらしい。だが、威力値は最小の0にしておく。


 続いて射程距離と効果範囲。どちらも最小値は0.1、最大値は130となっていた。おそらくメートル換算だろう。今回は試しに射程距離を0.1にして、効果範囲を30に設定してみる。


 これで失敗すれば一度作り直しをすればいい。魔法の創造にはMPを消費するようだが、今の俺のMPなら100回は作り直せるから問題ない。


 エディット画面右下の保存ボタンを押して、〈クーラー〉の魔法を保存する。これで〈クーラー〉の魔法が使えるようになったはずだ。


「よし、完成だ。上手く行ってくれよ……! 〈クーラー〉!」


 俺が魔法を発動させると、周囲のマナが反応して冷たい空気が辺り一面に広がっていく。


「きゃぁ、ひんやりした!」


 ニーナが小さな悲鳴を上げたが、特にダメージを受けた様子はなく冷たい風に驚いただけだった。


「よし、まずは成功だ!」


 辺り一面が極寒の世界にならなくて安堵する。威力値を0にしたことで、俺のINT値がダメージ計算に乗らなくなったのだろう。結果、ダメージにならない程度の冷気が辺りに広がる魔法が出来上がった。


 外では冷気を出しても直ぐに夏の熱気に溶け消えてしまう。そこで馬車へと戻って再び〈クーラー〉の魔法を使うと、ようやくその効果のほどを実感することができた。


「すずしぃ~っ!」

「……夏なのに冬みたい」


「これは……とても心地が良いですね。暑さが和らいで、寒すぎもしない。魔法にこのような使い道があったなんて……」


 ニーナたちからの評価は上々。ただ、〈クーラー〉を一度使うだけではこの涼しさは10分ほどしかもたなかった。十分に一回自動で発動するというような改良が出来るか後で確かめてみよう。


「やはりレイン様は凄いです。天才とはきっと、レイン様のような方のことを言うのでしょうね。まさか本当に新しい魔法を作ってしまうだなんて」


「大げさだよ、アリス。俺は既存の魔法を組み合わせただけだ」


 それも〈創造〉っていうチートスキルを使ってのことで、全然凄くなんかない。魔法を見ただけで覚えられるのも〈魔王〉のスキルのおかげだしな。


「レイン様はきっと、歴史に名を遺す大魔法使いになりますね」


 そう言ってアリスは微笑む。


 歴史に名を遺す大魔法使いか……。そんなものよりも俺は、何一つストレスのない気楽な人生を歩みたいものだけどな。

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