第15話 お風呂(発想の転換)
アリスが家庭教師として屋敷に来てから5日。あれから毎日のように〈アイスランス〉の魔法を放っているが、威力の調節は上手く行っていない。
むしろ、威力が上がっていた。
『魔法〈アイスランス〉の熟練度がLv.2になりました』
というアナウンスが脳内に流れた直後からマナによって形成された氷の槍が一回り大きくなり、より大きな穴を着弾点に空けるようになったのだ。
それを見たアリスが「さすがはレイン様ですね! この調子で頑張りましょう!」なんて褒めてくれたがとんでもない。俺は魔法に威力を求めていないのだ。
「やはり原因はステータスか」
だだっ広い湯船に一人で浸かりながら、俺は一人言葉を漏らす。どうやら魔法の威力はステータスに依存しているらしい。読書とナルカとの稽古で得た経験値によって、俺の現在のレベルは26。まだエバンズよりは低い数字だが、ステータスはスキルの成長補正によって余裕でエバンズを上回っている。
特に〈魔王〉のスキルのせいか、MPとINTの数値はそれぞれ2985と5622に達していた。アリスがMP:470、INT622だということを考えれば、このステータスがどれだけ異常な数値かよくわかる。
どうやらこの世界の魔法は、威力の計算式に術者のINTの数値が組み込まれてしまうようだ。これはもしかしたら、感覚云々の問題ではないのかもしれない。
「どうしたものか……」
お湯に顔の半分を沈めてブクブクと泡を作る。前世の温泉のような広さのお風呂に今は俺一人。こんなにもお湯を贅沢に使えるのは貴族の特権だな。少しぬるめのお湯が心地いい。
「レイン様、お背中をお流ししましょうか?」
「ああ、頼む――って!?」
ばっと立ち上がって振り返ると、浴場の入り口に一糸纏わぬ姿のアリスが立っていた。やはり13歳とは思えない豊満な肉体が惜しげもなく晒されている。
「あ、アリスっ!? そこで何をしてるんだ!?」
「なにって一緒にお風呂へ入ろうとしているだけですよ?」
「いや、さすがにそれは問題が――」
あると言いかけて、ふと思う。7歳の男の子と13歳の女の子が一緒にお風呂へ入ることの何が問題なのだろう、と。……うん、別に何ら問題ないな。俺とアリスは将来義理の姉弟になる関係なわけで、姉弟なら全然問題じゃない。
それに、アリスの裸体を見ても何とも思わないし、体も反応しなかった。きっと、俺はまだまだお子ちゃまだということなんだろう。
「レイン様、どうぞこちらへ」
「あ、ああ……」
アリスに促され、湯船から鏡の方へ誘導される。すでに湯船へ漬かる前に体は洗ったが、せっかくアリスが洗ってくれるというのでお言葉に甘えることにする。
アリスは俺を椅子に座らせると、慣れた手つきで俺の髪を石鹸で泡立て始めた。
「随分と手馴れているな。アリシアとも一緒に入っているのか?」
「ええ、アリシアったら怖がりで一人では髪を洗えないのですよ? だからこうして、いつも私が洗ってあげているんです。あ、アリシアにはご内密にお願いしますね?」
「ああ、善処するよ」
手紙に書いてからかってやろうかとも考えたが、嫌われて得することはないので自重する。
「そうだ、アリス。どうすれば魔法の威力を抑えられると思う?」
「威力を抑える、ですか……?」
「ああ。どれだけ魔力を調節して威力を抑えようとしても上手く行かないんだ。何か良い方法があれば教えてほしいんだが……アリス?」
鏡に映るアリスは不思議そうな顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「いえ……、魔法の威力を抑えるという発想を今までしたことが無かったので……。魔法は広範囲に渡って高威力を発揮するものほど至高であると教わってきましたから」
「それは俺が覚えたい魔法とは真逆だな……」
確かにゲームでは強力な広範囲魔法の方が派手でカッコいいと思うが、実際に自分が使う場面を考えると少し尻込みしてしまう。人や生き物に向けて放つ光景なんて想像もしたくない。
「俺は魔法で誰かや何かを傷つけたいわけじゃないんだ。もっとこう……暮らしに役立つような魔法を覚えたい」
「暮らしに役立つ……ですか?」
「例えば、氷系統と風系統の魔法を組み合わせて部屋の中を涼しくする魔法とか。そういうので良いんだよ」
「部屋を涼しく……。魔法でそのようなことをするなんて、今まで考えたこともありませんでした」
魔法の歴史を紐解けば、そもそもが魔族との長い戦争の時代に生まれて発展してきた技術だ。魔族の活動が沈静化し戦乱が収まった今も魔法の発展は戦争ありきの方向でしか進んでいないらしい。
「私が知る限り、日常生活での使用を念頭に置いた魔法は存在しませんね。レイン様の知りたい魔法を教えることが出来ないなんて家庭教師失格です……」
「いや、気にしないでくれ」
今までの考え方がそもそも間違っていたとわかっただけでも収穫だ。既存の魔法がどれも戦闘用であるなら、それをどれだけ覚えたとしても俺が求める魔法には辿り着かない。
だったら発想を変えればいい。
日常で使える魔法が無いなら、創ってしまえばいいのだ。
「アリス、手伝ってくれ。俺たちで新しい魔法を創造しよう」
ちょうどおあつらえ向きに、最適なスキルも持っていることだしな。
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