第14話 魔法(特訓)

「着きましたぜ、坊ちゃん」


 馬車に揺られること二時間弱ほど、ようやく目的地の高原に辿り着いた。馬車から降りると周囲には広々とした草原が広がっている。遠くにはロードンの街並みが見えた。それなりに遠くまで来たようだ。


「この辺りは騎士団の演習でも使っている場所です。滅多に人もモンスターも来ませんので、思う存分魔法を使ってくだせぇ」


「ありがとう、エバンズ」


 ここなら威力の調整に失敗しても周囲に被害は出ない。とはいえ、いちおう火の魔法を使うのは止めておいた方がよさそうだな。山火事にでもなったら困る。


 とはいえ、俺が使えるのはアリシアが見せてくれた〈ファイヤボール〉の魔法だけだ。ここはアリスに、別の魔法を覚えさせてもらおう。


「それではレイン様、よく見ていてくださいね。〈アイスランス〉っ!」


 周囲に漂っていたマナがアリスの手の先で氷の槍となって顕現し、近くにあった大岩へ向かって飛翔した。岩にぶつかった氷の槍は粉々に砕け散る。


「きれーっ!」


 粉上になって周囲に散らばった氷の破片が、太陽の光を受けてキラキラと光る。それを見ていたニーナはわぁっと目を輝かせた。


「レイン様、今の魔法を再現できますか?」

「……やってみる」


 俺は小さく頷くと、先ほどのアリスと同様に体内の魔力で周囲のマナを操作する。


「〈アイスランス〉っ!」


 顕現するのは巨大な氷の槍。それが凄まじい速さで大岩に向かって射出された直後、大岩が跡形もなく爆散した。


「わぁっ、びっくりした! レインさますごーいっ!」

「……さすが主様」

「こりゃあ見事なもんだ。こんな威力の魔法は見たことねぇですぜ、坊ちゃん」


「まさかこれ程とは……。想像以上ですね。まさか本当に見ただけで魔法を使えるようになって、あまつさえそれを何倍もの威力にするなんて……」


 ニーナやアリスたちだけでなく、護衛で付き添ってくれている騎士団の面々も驚きや称賛の言葉を次々口にする。


 本当はアリスと同じくらいか、もう少し小さい氷の槍を作るつもりだったんだけどな……。


 やはり魔法の威力の調整が思うように出来ない。これでもアリシアの時の反省から弱い魔法を放ったつもりだったのだ。それで大岩を粉々にする威力になるとは……。


「レインさま、どうしたの?」


 俺が浮かない顔をしていることに気づいたのだろう、ニーナが俺の顔を覗き込んで問いかけてくる。


「威力の調節が上手く行かなかったんだ。それがちょっと気になって」


「あれで制御が上手く出来てなかったと……。自信を無くしてしまいそうです」


 俺の言葉にアリスはため息を吐く。ただ、すぐに気を取り直して俺に声をかけてくれた。


「レイン様、魔法の制御は反復練習あるのみです。同じ魔法を何度も繰り返してモノにしていくしかありません。大丈夫、魔力切れでレイン様が倒れてしまったら私が付きっきりで看病して差し上げます!」


「ニーナもレインさまのかんびょーするーっ」

「そ、そうか……」


 これは倒れるわけにはいかないな……。


 とにかく、アリスが言うように何度も魔法を繰り返してモノにするしかなさそうだ。スキルのおかげで見ただけで魔法を使えるようになるが、まだまだ使いこなせているとは言い難い。まずは感覚を掴む所から始めるとしよう。


 それから俺は、日が暮れ始めるまで繰り返し〈アイスランス〉を放ち続けた。


 周囲が穴だらけになって「別の演習場所を探さねぇとな……」とエバンズに頭を抱えさせてしまったが、その甲斐もなく結局その日は思うように感覚を掴めなかった。

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