第7話 おままごと(ごっこ遊び)
アリシアを探してニーナとナルカを連れ屋敷の庭を歩いていると、彼女は庭の端っこで見つかった。
外壁の方を向いてしゃがみこみ、雑草を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返している。
「おとーさまのバカ、おとーさまのバカ、おとーさまのバカ!」
どうやら相当イライラが溜まっているようだ。
さて、シルヴァ様にはああ言ったものの、どうやって声をかけようか。子供同士と言いつつ、俺は前世を含めて30年近く生きているわけで。精神年齢は立派な大人だ。子供の仲直りの仕方なんてわからない。
「うぅむ……」
俺が立ち止まって悩んでいると、そのわきをトテトテとニーナが通り過ぎていく。何をするのだろうと見ていれば、ニーナはアリシアにそのまま後ろから抱き着いた。
「おままごとしよー」
「きゃぁっ!? だ、だれっ!?」
「ニーナだよ。ねえねえ、おままごとおままごと~!」
「ちょ、ちょっと! はなれなさいよぉ!」
2人はそのままもつれ合って地面に倒れこんでしまう。アリシアのドレス、すごく高そうだったけど大丈夫だろうか……?
「も、もぉっ! なんなのよぅっ! …………あっ」
ニーナに面食らっていたアリシアはようやく俺の存在に気付いたようで、すぐに立ち上がるとドレスについた土や草を払い落して「ふんっ」とそっぽを向く。やっぱり俺のことは嫌っているようだ。
「レインさまとにゃるかもおままごとしよ~」
ニーナが地面に寝転がったまま呼びかけてくる。普段なら面倒で断るところだけど、ここはニーナの誘いに乗っかろう。思えば子供の頃は、一緒に遊ぶだけで仲良くなれた気がする。
「ニーナに付き合ってあげようか、ナルカ」
「わかりました。……ニーナかわいい」
胸元に手を持ってきてキュンとしているナルカとともに、ニーナの元へ向かう。アリシアはその場を離れようとしたが、その手をニーナが捕まえた。
「おままごと、きらい……?」
「ぅっ……」
上目遣いでニーナに問われ、アリシアは言葉を詰まらせる。てっきりニーナの手を振り払うかと思ったが、アリシアはニーナから視線を逸らしたままポツリと呟く。
「……きらいじゃ、ないけど」
「じゃああそぼっ!」
アリシアは無言でこくりと頷いて、俺たち4人はおままごとで遊ぶことになった。
「えっとえっと」
「アリシア様だよ、ニーナ」
「アリシアさま! どんなおままごとするー?」
「そ、それじゃあ! 『ちゅーきしものがたり』がいいわ!」
アリシアがチョイスしたのは、リース王国では寝物語として誰もが知っている昔話『忠騎士物語』だ。
話はとある貧しい村で暮らす少年の元に、悪い大臣にイジメられて逃げ出してきたお姫様が転がり込んでくる所から始まる。
お姫様を保護した少年はお姫様と仲良くなり、騎士の誓いを立てる。けれど大臣の家来がお姫様を捕まえにきて、少年とお姫様は離れ離れになってしまう。
それから数年が経ち、少年は騎士になって仲間の魔法使いや神官と共にお姫様を悪い大臣から救い出す。少年はお姫様と結ばれて騎士王となり、仲間たちと共に末永く幸せに暮らしましたとさ。
俺が読んだ本に書かれていた内容はだいたいこんな感じだった。
「あたしおひめさまがいいわ!」
「アリシアさまずるいよぅ! ニーナもおひめさまやりたい!」
「じゃあふたりでやりましょ!」
「うんっ!」
いきなり物語が改変されたがどうするつもりなんだろうか。
「じゃあにゃるかがきしさま!」
「わたしですか?」
「うんっ! だってにゃるかはきしさまだから!」
現実でもロードランド騎士団に所属し、今もメイド服を着ながら腰に剣を携えているナルカがニーナから騎士役に指名される。
そうなると残る配役は限られてくるのだが、
「あんたはわるいだいじんね!」
やっぱりそうなるか。アリシアから悪い大臣役に指名されてしまった俺は小さくため息を吐く。もちろん主人公の騎士役がしたかったというわけではないが、やれやれ。ここは大人として甘んじて悪い大臣役を務めてあげよう。
「ぐへへへへっ! 悪い大臣だぞー! 可愛いお姫様たちには悪戯してやるぞぉー!」
「「きゃーっ!」」
逃げ回るニーナとアリシアを追いかける大臣役は存外面白かった。
その後、おままごとはどんどん脱線していって、気づけば何時間も遊んでいた。やがて遊び疲れたのだろう、ニーナとアリシアは次第にウトウトし始めてやがて寝こけてしまう。
俺とナルカは手分けして二人を背負い、庭から屋敷の中へ戻ることにした。
「……うにゅう。きしさまぁ~」
夢の中でもおままごとが続いているようで、俺に背負われたアリシアは時折寝言を口にしている。旅の疲れもあったのだろうけど、まさかここまで無防備なアリシアを見られるとは思ってもみなかった。ニーナのおかげだな。
それに、アリシアも悪い子じゃない。おままごとを通じてニーナとは打ち解けたようで、2人で手をつないで笑いあっているのが印象的だった。俺にはまだツンツンしていたが、いきなり張り手を食らわせて来たことを考えれば随分とマシになったと思う。
シルヴァ様とアリシアが屋敷に滞在するのは1週間。
これからどんどんアリシアと仲良くなっていこう。光源氏と紫の上のように。
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