第12話

 そして事件は起こった。






 朝、何となくしいがジョギングか朝練に行く時間に外を見るようにしてた。



 何か目が覚めて。つい。






 でも、その日は出てこなくて。



 全然、出てこなくて。






「………そんなにしいちゃんが気になるなら、仲直りしたら?」

「………」






 しいの家の玄関が見える窓に張り付きながら朝ご飯のパンをかじってたら、母さんに言われた。






 別に、喧嘩なんかしてねぇし。






 って、言ったけど。






 言ったのは、母さんがすたすた歩いて行った後だった。






 別に、喧嘩なんか。



 喧嘩じゃ。






 その日、いつも絶対俺より先に家を出てるしいを窓から見ることは、なかった。











 しいに何かあったのかって、落ち着かなくて、落ち着かないから早めに学校に行った。



 体育館からはいつも通りバスケ部が朝練をしてる音が聞こえた。



 でも、またノーリアクションで目をそらされたらガーンだから、覗く勇気がなくて、しいが居たかどうかまでは確認できなかった。






 俺がトイレ行ってる間に行ったのかもしれない。






 そう思って、言い聞かせるみたいに思って、教室行って喋ってた。



 小学生の頃そこそこ仲が良かったやつらと。



 そしたら。






 そしたら。






 ざわっ………






 教室がざわついた。そして。






「史季‼︎どうしたんだよそれ‼︎」






 誰かの大声に見たしいは………史季は。






 ………見えねぇし。






 その大声にクラス中がいっぺんに史季んとこに集まって、史季が、その頭さえ見えねぇ。






 何だ。どうした。何があった。






 気になるけど見えねぇ。



 くそ、何でアイツはあんなに小さいんだ。






「どうしたんだよそれ‼︎」

「うん、ちょっと昨日ね」

「大丈夫かよ?試合近いんだろ?」

「うん、近い」

「出れんのか?」

「うーん、ちょっと分かんない」

「まじかー」

「痛そう」

「そうでもないよ。大丈夫」






 姿がまったく見えないから、聞こえてくる会話で情報収集。



 繋がって見えてくるのは。






 まさかの………ケガ?






「囲んでないで退け。心配するなら座らせてやれ」






 ざわざわする教室を一蹴したのは、信………信我の声だった。



 ああそうだなそうだなって、集まってたやつらがバラける。






 隙間。






 見えた。ありがとって座るしい。






 え、何。どこ。






 見えなくて、じろじろ見た。






 そこでチャイムが鳴って、みんなが何やかんやしいに声をかけて席に戻り始めた。



 それに答える、無理くり笑顔のしい。



 めっちゃ無理くり。全然笑ってない笑顔。






「………っ」






 で、やっと見えたしいの全貌。






 足、だ。






 左足が、上靴じゃなくてサンダル。



 そのサンダルの中の足に、白い靴下じゃなく、白い包帯。指先が見えた、包帯。






 ………何やってんだよ、お前。






 見てた俺に気づいたしいと、目が合った。



 けど、それは一瞬。



 すぐにそらされる。






 ガーン。






 また、俺の頭の中に、大きく音が響いた。

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