第6話

 それ以来、夏休みってこともあって、俺としい………史季が会うことはなかった。






 中3の、一度きりしかない夏休みは、5年ぶりに帰国して初めての夏休みは、俺史上最高につまらない夏休みだった。






 日本に帰って来たらしい………史季と信………信我ともっと遊ぼうと思ってたのに。



 受験生だからそんなに昔みたいにできるとは思ってなかったけど、少しは。






 自分で史季との関係を悪化させたくせに、何言ってるんだか。






 宿題とにらめっこをしながら、ため息を吐いて頭を掻いた。






 カーテンの向こう、しい………史季の部屋にも、電気がついてる。






 何やってんだろってすげぇ気になる。気になってさっきから全然宿題が進まねぇ。






 昔なら何の躊躇いもなく窓を叩いたのにな。






『しい、宿題終わった?』

『まだ‼︎つんちゃんは?』

『俺もまだ』






 そんな風に。



 そしてそこからマンガやアニメの話になって、遅くまで喋ってて、結果怒られるっていう。






 遠い。



 すぐそこにある、しいの部屋が。



 そして遠い。



 すぐそこに居る………史季が。






 しい………史季のことが気になってまじ全然進まねぇし、12時過ぎたし、もういいや寝ようって電気を消したら、史季の部屋の電気がまだついていた。






 今日もだ。






 いつもだった。



 いつも、俺が寝るときに電気はついていた。



 12時過ぎでも、1時過ぎでも。






 まじ何やってんだ?






 気になったけど、聞けるはずもなかった。






 そして、毎晩遅くまで起きているはずなのに、史季は朝早くに近所を走ってるっぽかった。



 たまたま出張で早くに家を出た父さんに聞いた。






『行くときしいくんに会ったよ。ランニングしてくる‼︎って。しいくんは相変わらずかわいいなあ』って。






 だから次の日、俺は早起きして階段のとこの窓から覗いた。



 まだ夜が明けたばかりって時間に史季は、帽子をかぶってTシャツとハーフパンツで外に出てきて、軽く身体を動かした後、走って行った。






 父さんの情報は本当だった。






 30分ぐらいして帰ってきて、史季は家に入ってった。



 と、思ったら今度は水筒とボール………多分バスケットボールを持って自転車のカゴに入れて、そのまま自転車に乗ってどこかに走ってった。






 バスケ、やってんの?






 史季が運動部っていうのが、再会初日に確かに体操服着てたけど、それでもあんま想像できなかった。つかなかった。



 しいは………史季は身体が小さくて、早生まれなのもあって何をするのも俺らより下手くそで、できるようになるまでに時間がかかってたから。






 しかも史季の身長でバスケなんて、絶対に不利だろ?せめてサッカーとか。






 って、余計なお世話か。






 待っても待っても、史季が帰って来る気配が全然なくて、何かあったんじゃね?暑くて倒れてんじゃね?って不安になってきて、階段やリビングの窓あたりでウロウロしてたら母さんに何してるの?って聞かれた。






「あんたって時々変に心配性よね」






 呆れられた。






 その後しいが………史季が帰ってきたのは8時ぐらい。



 でもまた少ししてしいは………史季は、今度は体操服を着て学校のリュックを背負って出て行った。






「しいちゃんね、バスケ部のキャプテンなんだって」

「は⁉︎」






 バスケ部………は、やっぱり。だった。



 けど、キャプテン?しいが?






 信じられなかった。






 体格的にも、だし、性格的にも。



 しいが、いつもつんちゃんつんちゃんって俺にくっついてきてた、俺がいつも引っ張ってた、あの、しいが。






「夏休み明けに引退試合があるんだって。だから、絶対勝って引退する‼︎って、毎日すごい頑張ってるみたいよ。さすが、負けず嫌いのしいちゃんだわ」






 ブランク。



 5年のブランク。



 俺の知らない………しい。






 あの身体の大きさでバスケ部。しかもキャプテン。



 しいんちに行ったとき、確か家庭教師の先生がとかって言ってた。






 ってことは、部活終わって帰ってきて勉強して?



 夜は?






 いつも、いつまでもついてる電気。






 しいが………俺の知らない史季になっていて、俺はすごく………何でかショックだった。






 そして夏休みが終わっての、新学期初日。






 俺はクラスにしいを見つけて、どうしていいか分からず俯いた。

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