第4話
はーいって一般中学3年男子より高い声の返事を待ってから、俺はドアを開けた。
エアコンのふわって涼しい風。
プラス。
あ、しいだ。
しいの、史季のにおい。
部屋のにおいっていうか。
って、においで『史季だ』とか思う俺ってちょっとやばくね?
とは思ったけど。
いや、幼馴染みだし。
つまりそれぐらい史季がずっと俺の毎日に普通に居たってことだし。
「つんちゃん⁉︎」
においに気を取られてちょっとの間。
史季のテンション爆上がりな俺を呼ぶ声。そして。
「つんちゃん‼︎」
「のわっ」
俺はしい………史季から、本日二度目のタックルを食らった。
「つんちゃんだ‼︎つんちゃんだ‼︎つんちゃんだ‼︎来てくれたの⁉︎」
約20センチ下。俺の肩、首あたりにある頭がぐりぐりしている。
両腕は俺をぐるりと一周。
しいって………史季ってこんな濃いスキンシップするやつだったっけ?
考えて。
あー、あの頃は俺がいつも手引っ張って歩いてたかも。
思い出す。
だってほっとくとしいは………史季はすぐに遅れる。ついて来られなくなる。だからいつも。
とはいえ。
抱きつく史季をどうしていいか分からず、俺はハンズアップした。
抱き返すのもおかしいだろ。挨拶のハグの域をこえてるし。
あの頃誰の前でも手を引っ張って歩けたのはガキだったからだけで、15の思春期反抗期真っ只中の男が男相手にこんなの。
さっさと謝って、帰ろう。
「さっきは、悪かった」
「え?」
「すっ………すぐお前って分かんなくて」
え?で顔を上げたしい………史季は、何故か前髪をそれこそ女子のように縛っていた。
だから思わず俺はどもった。
………やっぱりすげぇかわいい顔すぎて。
ちょ、これまじでしいだよな?しいが実は女だったってオチは………ないないない。風呂一緒に入ったことあるし、プールとか。
だからそれはない。ついてたついてた。ちゃんとしっかりイチモツが。
けど俺は、しいを、史季を至近距離で直視できなくて、視線を外した。
おかしいな、向こうはハグとキス文化だし、色々進み具合も早い文化。
俺にも一応ガールフレンドってやつがいて、それなりにそれなりだったのに………だ。
それともしい………史季が、男が、女みたいな顔だからなのか、妙に妙な気持ちだった。
ブランク5年の照れ。
「つんちゃん‼︎」
「のわあっ」
がばあっ。
腰上あたりを一周していたしいの腕が、今度は首に巻き付いた。
激しい。
スキンシップが激しすぎる。
ここは日本だ。日本のはずなのに。
外国人相手なら全然平気だったのに。
固定概念ってやつか。日本人はやらないって。日本ではやらないって。
「わざわざそれを言いに来てくれたの⁉︎」
「………あ、うん。お前泣いてたし………お前はすぐ俺って分かったみたいだったし………。何かごめんって」
「………つんちゃん」
テンション爆上がりな声が、一気に落ちた。落ち着いた。
呟くみたいな声。俺の耳もとで。
だから。
どきって。
「オレは、つんちゃんが豆粒サイズになってもすぐに見つけられる自信があるよ」
「………え」
豆粒って。
「だってオレ、つんちゃんのこと、大好きだから」
言われて。
耳もとで。
ぎゅって抱きつかれて。
え?って俺は。
フリーズした。
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