第3話

 きゃー♡って。





 うちの母さんとしい………史季の母さんが史季んちの玄関が開いた瞬間悲鳴をあげた。






「久しぶりーっ‼︎元気だった⁉︎」

「元気よー‼︎やっと帰って来られたー‼︎」






 ああ、うん。



 仲良かったよな。昔からな。ずっとな。



 信………信我んちの母さんとも仲良かったけど、どっちかっつーと史季んちの母さんだったな。






「昨日来たけど留守だったの。ご挨拶が遅くなってごめんね」

「ううん、こっちこそごめんねー。急に実家の母に呼び出されちゃって」

「え?お母さんどうかしたの?」

「もう年だから、最近ちょっとね」






 ………。






 俺今、絶対に確実に透明人間になってる気がする。






 俺の存在スルーで盛り上がってくふたりに、どうするかって頭を掻いた。



 俺一緒に来た意味なくね?って。






 ちらって中を見る。






 しい………史季の部屋は、2階。



 俺の部屋のすぐ横。



 よくお互いの部屋の窓越しに喋ってた。



 お小遣いの節約って、順番に週刊のマンガ買って、読み終わったら窓から呼んで、窓から渡してってやってた。



 それぐらいすぐ、俺の部屋の横。






 だから窓から呼ぼうと思った。さっきも。






 ………けど。






「しい………史季居ます?」

「え?あら、つんちゃん⁉︎久しぶり‼︎ちょっとおっきくなったわねー‼︎」

「………あ、はい、あの」

「そうなの、もう旦那と同じよ」

「いいじゃない、カッコよくてー」

「しいちゃんはどう?元気?」

「元気よー。相変わらず小さいけどね。やっと私と同じぐらい」

「元気ならいいじゃない」






 ………。






 やっぱり俺、透明人間な気がする。






 ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、ノンストップで続く会話に、俺はああもう‼︎って。






「おじゃまします」






 俺は靴を脱いで、勝手に家の中に入った。



 そのまま勢いで階段をのぼってって、そして、史季の部屋の前。






 うわこれって思った。






『しいのへや』






 プレート。部屋の。史季の部屋のドアの。何かで作ったやつ。学校で。図工で。



 記憶に残ってるまんまのそれが、何でか嬉しかった。






 しい。






 そうだ。俺がつばさではなく、つんちゃんなのは、ちっこい史季がつばさって言えなかったからって、いつだか聞いた。



 学校でもつんちゃんって呼ばれるようになったのは、史季が俺をそう呼んでたからだ。



 史季がしきじゃなく、しいなのは、ちっこい史季がしきって言えなかったからって、いつだか聞いた。



 自分をしいって呼んでたから、俺も自然としいって。






 そういうのを、思い出して………。






 ………何か、緊張すんな。






 俺はドアの前で1回大きく息を吐いて、コンコンってノックをした。

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