新宿リスタート

@raychellnk92

第1話

「未だ癒えぬ新宿の大トライアングルはサーバーの暴走よりも重くのしかかっている。血統に囚われた参議院議員よろしく深深と頭を垂れている。いたたまれない。実にいたたまれない。神の御子がお生まれになった頃から東京の草花は枯れ、人々は嘆き悲しんだというではないか。その憂いを祓うため、旧都民は今こそ立ち上がるノだ。我らの結末はただひとつ。東京の復活である。東京が再び緑に覆われる時こそ、我々は完成するであろう」


演説を終え、壇上から飛び降りた団長はマイクを放り出し、両手で握手を求めてきた。俺はそれを握り返しながら言った。


「うん、素晴らしいスピーチだったよ……感動したぜ」

俺の言葉が終わらないうちに、団長は膝から崩れていった。構えてあった担架にもたれるように深く沈み込んでいく。

会場からは拍手が起こった。団員たちは互いに抱き合い喜び合っているようだ。しかしその中にも涙ぐんでいる者がいるところを見ると、やはりこの男は慕われていたのだろうかとも思う。

団長を乗せた担架はそのまま運ばれていき、やがて見えなくなるのを見届けてから客席を振り返る。

「さあ諸君! 宴はこれからだ!」

そう叫んだ瞬間、再び歓声が巻き起こった。

その後、俺たちは宴会場へと移動し大いに盛り上がった。酒や料理が次々と運び込まれる。

浮かれた者は歌い出し、固定具を外し始める。

「やんややんや」

「華の都は花なし都♪咲く花なければ散らぬ華♪」

「帝の頭は石頭♪」

「割れて磨けば光るハゲ頭♪」



「ゲンさーん、こっち来て一緒に飲みましょうよう」

「そうだぞゲンさん、あんたがいなきゃ始まらないんだ」


「ほら早く来てくださいってばぁ」


「…………」


「どうしました?」

「ああいえね、ちょっと考え事をしてまして」

「何考えてたんですか? 教えてくれたっていいじゃないすか」

その時、遠くの方で何か物音が聞こえたような気がしたが気に留めなかった。

それよりも今は目の前にいる連中との会話を楽しむべきだと思ったからである。

だが次の瞬間にはそんな思いなど吹き飛ぶ程の出来事が起きた。

突然大きな音を立てて天井の一部が落下してきたかと思うと、そこから大量の男達が現れたのである。

それは全身黒ずくめの装束に身を包んでいた。頭巾のようなものを被っているせいでよく見えないが、あきらかに団員でも旧都民でもない人間であった。


「我々はこの日本を再び一つにすべく、貴様ら東京建設団を破壊しにきたのだ!」


リーダー格と思わしき男がズカズカと出てくる。



「なんだお前らは!?」

誰かの声を皮切りに、次々と怒号が飛び交う。

「おい誰だよあいつらに酒を飲ませた奴は!」

「知るもんかい!」

「逃げるんだよ!ゲンさん!」


団員は我先に出口に向かって走り出す。

俺はというとその光景を見ながら呆然としていた。

なぜこんなことになったのか理解できなかった。

あの団長は一体何を考えているのだろうか。

確かに新宿大広間には我々しかいなかったはずである。なのにどうしてこうなった。

いかん頭が混乱している。落ち着け俺。

とにかくまずはこの事態を切り抜けなくては。

俺は腰に差していた刀を抜き放った。

するとそれに反応するように黒づくめのリーダー格がこちらを見た。

そしてニヤリとした笑みを浮かべると、懐に手を入れたままゆっくりと近づいてくる。

他の者達も同様に武器を構えながらジワジワと距離を詰めてくる。

その様子は明らかに普通ではなかった。

まるで一対多数の決闘のようである。

リーダー格の男が何事かを呟くと同時に、手の中に隠し持っていた小瓶を取り出した。中には赤い液体が入っている。

───やばい!よく分からんが本能がやばいと叫んでいる。

これは間違いなく劇薬だ。

俺は大きく息を吸い込むと叫んた。


ニブパンラックル アバレップク、パー!!!

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