第1話「微かな声」
夏休みが終わり、2学期に突入した。
他のクラスメイトたちが夏休みの出来事や話題を共有していたが、俺はというと、特に他人と会話することもなく自分の席に座っていた。
話す話題がないと言うよりは、夏休みという実感がなく、特に何を話していいかわからなかった。ただ、例の赤点の補習と琴音の面倒を見ていたので話すことはある。
んにゃんにゃ……(彼女の寝言)
とはいっても、当の本人は俺が居てもお構いなく寝ていたけどな。
本当に俺が夏休みの間、手伝いというか、面倒を見に行ったのは必要だったのか、と思ってくる。しかし、こいつは俺が居ないと勉強できないらしい。
なぜなら、彼女と俺は幼馴染の関係だからだ。幼い頃からいつも一緒に遊んだり、勉強したりした影響なのか、次第に彼女に慣れ癖が付き、『勉強するならひーくんと一緒にする!』という結果になった。
今思えば、自分自身でやらせるべきだったなと感じている。
ふと、琴音の方に目を向けると案の定ぐっすり。
「また寝てるし……、ほら起きろ、お、き、な、さ、い」
先程起こしたばかりなのにもう寝ている彼女を再び起こそうとする。ただ、中々起きようとせず、終には、絶対に起きないばかりか、全く聞く耳を持たず抵抗し始める。
こいつ、ほんと今日実力テストあること分かってるのか? とりあえず、念のため聞くことにした。
「あの琴音さん〜、今日実力テストあるの知ってる? 勉強しないと点取れないよ〜?」
案の定忘れていたのか、彼女はパッと起き上がり慌て出す。黒色の長い髪がボサボサになって、髪が顔に絡まって大変そうだ。
ずっと朝比奈の方を見ていると、朝比奈が視線に気付いたのか、こちらをチラ見。
俺はその反応に、どうせまた補習プリントの復習もしないで俺に質問責めするのかと考えてしまったのだが、彼女は真面目にノートを開き勉強し出す。
朝比奈が質問してこないのは少し寂しいような気もするが、俺は安心して勉強に専念する。その数分後、俺の机に一枚の紙ひこうきが飛んでくる。もちろん差出人は彼女だ。
えっと、「ひーくん、今日テストのこと教えてくれてありがとう」か。
いやいや朝通学している時に伝えたよね? 俺は心の中で文句を言いながら、メモ帳にテストで出そうな重要なポイントと、そうですかと一文を書いて数回折り畳んで彼女の机に置く。
彼女は何だか不思議そうな表情をしながら、折り畳まれたメモ帳を開いていく。一瞬キョトンとしたが、ありがたそうな、嬉しそうな表情を浮かべ、こちらをチラ見する。
俺は普段通りに勉強を続ける。とりあえず彼女が今日の実力テストで赤点ギリギリを取らないことを祈るばかり。
テスト終了後。
琴音は真っ先に俺に紙飛行機を飛ばす。それが見事に俺の指に刺さる。紙とはいえ、何回も折り畳んで先端を尖らせたらもはや凶器でしかない。正直めっぽう痛い。
で、中身の内容はと言うと、「ひーくんのポイント通りに出来た! ありがとう」だった。とりあえず点は取れていそうなので良しとする……? でも油断はできない。
「ところでさ、琴音夏休みの課題やった?」
琴音は俺に耳を傾けながら、メモ帳に文字を書いていく。文字を書き終えたのか、こちらをチラ見する。彼女に近づき、手元のメモ帳を確認してみると、そこには大きく堂々と『やってない』の文字。
「やってないんか……」
「それなら放課後、俺手伝うから課題終わらせるぞ」
琴音は面倒臭そうな表情でこちらに視線を送りながらも、勉強の準備をしだす。なんだかんだ慌ててるようで、俺は「大丈夫か?」と一言。すると、琴音が俺の制服の袖を引っ張り、小さな、微かな声で俺に伝えてきた。
「ひーくん、私、図書館で勉強したい」
琴音は滅多に声を発すことがなく、その声を聞けただけでもラッキーで、俺は思わず、えっ、と声が出てしまった。その驚きを見ていた琴音は、一瞬だけクスッと笑い、その後は楽しそうな表情を浮かべていた。
「そうそう俺も図書館行こうかなって偶然思ってたんだよね」
俺は恥ずかしくなり、何とか同じような会話で誤魔化そうとするも、彼女に『ひーくん。嘘ついてるでしょ?』とメモ帳で一撃をくらい撃沈。
「いやいや、待て、待て、琴音、声出して大丈夫なん」
「少しくらいは大丈夫……ゴホゴホ」
言っている傍から咳を連発する琴音。
「琴音、大丈夫か?」
琴音は首を上下に振りアイコンタクトを取る。深呼吸をして、やや落ち着いてきたのか、メモ帳に文字を書いて俺に見せる。
「少し調子乗りすぎた、ごめんなさい。その代わり、勉強はしっかりする!」
「了解。ところで、夏休みの課題はどの辺が終わってないのかわかる?」
琴音に質問を問いかける。すると、課題の紙をカバンの中から取り出し、俺に手渡してくる。その課題を確認したところ、現代文、数学、生物基礎、現代社会、英語のうち、生物基礎だけはできていたが、それ以外は全て未回答だった。
「これは、ちょっとな……、あいつも呼ぶか」
流石に5科目中4科目の課題が終わってないとなると、俺一人で解決するのは多分無理だ。そこで、俺はとある友人を助っ人として呼ぼうと考えた。
「琴音、俺友達呼んでくるから、少し待っていられるか?」
琴音はメモ帳に「分かった!」と文字を書く。俺はすぐ戻るからと言いながら教室を出て、その友達を呼びに行くのだった。
君のコトバと紙ひこうきの置き手紙 立ヶ瀬 @kokubo_kokubon
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