3章 2話 赤の女王2

突然の宣言と聞き慣れない言葉に全員が困惑の色を隠せない。

「まに?何だそれは」


「マヌスキュア、爪を綺麗にすると言う言葉が語源の造語で、爪に色を付ける化粧品です」

「爪に色を付けて何になるんだ?」

アーロンは呆れて様子だ

「マニキュアはね、唯一鏡を使わなくても自分で見る事が出来る化粧品なの。完全に自分の為にする化粧と言ってもいい」

「どうしてそれが今必要なの?」

ステラは不安げに訊ねる

「陛下は今、寝た切りになってしまって、唯一視界に入る自分の手から老いを感じで悲しんでいるの、だからマニキュアを作ってあげられたら、少しは元気づける事が出来るかもと思って」

「気持ちは立派だが、喜ばせる為に化粧品を作っている訳じゃないだろ」

アーロンは変わらず厳しい口調だった


「本当にそうかな?沢山の人達が化粧品を買ってくれて、中には人生まで変わる程の影響があった人も居て、その人達が私達に言ってくれた言葉は何だった?」

そのサナの問いに、厳しかった皆の表情が変わった。


「もう一度聞くね、私達が化粧品を作るのは、何のため?」


皆の頭に浮かんだのは、ありがとうの感謝や、楽しい、嬉しいなどの喜びの言葉と笑顔だった。


「分かった。作ろう」

神妙な空気が漂う室内に、ユリウスの声が静かに響いた。




「筆は必要?」

いつもはメイク用の筆を作ってくれているヒースが尋ねる。

「いつもよりずっと小さいのが必要かな。爪に塗るサイズだから爪より小さいやつね」

「なら絵画用の筆の方が良いかな」

「じゃあミアと相談して作ってみるね」


ユリウスは今までの化粧品とは全く違う注文に戸惑っているようだ。

「剤形はどうすれば良い?」

「色の発色と、乾きやすさが重要。あと薄いアルコールですぐ取れて爪に色が沈着しない事が条件かな」

「それなら化粧品というよりペンキに近いな……じゃあアーロンさんに相談してみるよ」


そうして、一通り指示を出し終わるとサナはユリウスに

「あの……私も用意したいものがあって、チェックには戻ってくるから後はお願い出来ますか?」

「構わないが、用意するものって何だ?」

「それは秘密にしておきます」

と、サナは何だか企んでいる時の笑みを浮かべるだけだった。


夕方になり言っていた通りサナが帰って来たが

全身泥だらけで皆驚いた。

「何したらそんなに汚れるんだ?」

「それは内緒ですよ!それより進行はどうですか?」

「それなりのものはすぐ出来た。ただ安全性や乾きやすさに微調整が必要だな。後取りやすさは実際爪に付けて実験を繰り返すしかないな」


そこから期限までの1週間、皆必死で自分に割り振られた仕事をこなした。

その間サナは殆ど研究所に居なかったのだが、皆の信頼関係も強固なものになっているので問題なく約束の前日の夕方には完成した。


「何とか完成しましたね」

完成した小瓶をサナは満足そうに眺める。

「私は全然協力出来なかったのに、ありがとうございます」

その言葉に、皆微妙な表情で苦笑いを返すしか無かった。

サナがサボっていた訳ではないのは分かっているが、何をしていたのか何も話してくれないのは

皆内心気がかりだった。


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