3章 3話 赤の女王3
前回の謁見から丁度1週間
またあの重厚な赤い扉の前に立たされている。
今度はサナ自身がドアをノックすると、扉の中からどうぞと凛としたミゲルの声が聞こえる。
カタリナから聞いた話によると、彼を含め陛下の直属の数名は国民からランダムで選ばれた処刑を間逃れた人ではなく、最初からこの王室に仕えている人達だそうだ。
先代の国王が亡くなった時、情勢に不安を覚えたり、次期国王になる今の王女に不安を感じたりで沢山の人達が王室を辞め出て行ってしまったので、長く仕えている人は少ない。
その中でもミゲルは、先代の父から国王の専属執事の跡を継いだらしい。
今の城の中の事をほぼ一人で取り仕切っている状態だ。責任感の強さも人一倍強い。
部屋に入り、サナは女王陛下の隣に腰を下ろし膝も床に付けた状態で、ポケットから小瓶を取り出した。
すると
「それは何だ!何を取り出した!」
とミゲルが叫んだ
「待って下さい。危険なものではありません」
それでも近付き中身を改めようとするミゲルの前にユリウスは腕を出して制止した。
「大丈夫です」
そう目を見て訴えるユリウスに、ミゲルも諦めてくれた。
「陛下。手をお借りしてもよろしいですか?」
「えぇ…何をするの」
「お化粧です」
「手に、するの?」
「えぇ楽しみにしていて下さい」
そう言って陛下の爪に赤いマニキュアを次々と塗っていった。
そして、最後にポケットからまた小瓶を取り出した。
それはユリウスも知らされて居なかったので、驚いた。
「これは、私からのお礼です」
サナはそう言うと、瓶から何かを取り出した陛下の赤い爪の上に振りかけた。
金色の粉が舞い、それはまるで妖精が魔法を使ったかのような美しい光景だった。
爪には金の粉がついてキラキラと輝く。
「金粉を作ってみました。陛下の結婚指輪に、よく似合うと思いまして…」
金の細工に大きな赤い石が輝く指輪と、金の粉で彩られた赤いネイルがどちらもキラキラと輝く。
「えぇ…そうね。凄く綺麗……まるで手だけはあの頃に戻ったみたい…」
そう言いながら陛下は、ずっと手を眺め続けた。
そこには、床に伏せるか弱い老人ではなく
結婚指輪に心をときめかせていた頃の少女の面影がありありと浮かび上がっていた。
仕上げの金粉を定着させる為の透明なトップコートを塗っている時も陛下は爪をしげしげと眺めながら
「この手なら、また何でも出来そうな気さえするわ…ありがとう」
とお礼を何度も口にした。
帰り道、ユリウスはどこか不機嫌そうだった。
「あれだけ喜んでくれたなら皆にいい報告が出来ますね!」
「……」
「戻ったらまたファンデーション作りですけど
また頑張らないとですね!」
「……」
「あの…何か怒ってます?」
「何で隠していたんだ?」
「別に隠していた訳じゃないんですけどねー、金を採掘してくるなんて言ったら、きっと誰かが代ってくれようとしたと思うんです。でもこれだけは自分でやりたくて……すみません。ただのワガママです」
「……」
今回の沈黙は怒りではなく、許しの意味だと
サナには何となく分かった。
分かる程長くもう自分達は一緒に居るんだなと実感して、何れにしてもこの関係が終わりに近付いて居ることが急に寂しくなった。
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