2章 8話 2mmの殺意2
翌日
昨夜ひっそりと城に戻ったカタリナは、2人分の使用人の服を用意してくれた。
カタリナ一人では探るのも限界があるし、城の内部の人間を仲間にする訳にもいかないので、サナとユリウスが変装して潜入し、犯人を捜す計画だ。
2人ははいつもの進行状況の報告に来たフリをして堂々と城に入る。
普段なら何とも思わない道のりなのに、隠し事を抱えた今日はやけに長く感じる。
「あれ?今日はお2人一緒なんですね。珍しい」
「あっは、はいそうなんですよー」
普段も挨拶を交わす間柄の門番のおじさんが、話し掛けて来る。
想定していたが、こんな何気ない会話にも冷や汗を垂らしながら返答しつつカタリナの待つ部屋に急いだ。
普段は使われない倉庫に誰にも見られない様に扉の隙間からスっと入り
中で待っていたカタリナの顔を見るとサナは力の抜けた様にその場にへたり込む。
「ずっとヒヤヒヤしていたから、カタリナの顔見たらホッとしたよー」
「落ち着いている場合じゃないわよ。これからあの手紙の差出人を探さなきゃいけないんだから」
2人は用意されていた使用人の制服に着替えながら、作戦会議をする。
「カタリナさんは皿洗い係と洗濯係、どちらの可能性が高いと思っていますか?」
「うーん…仕事量の多さは皿洗いの方なので、不満は出やすいかなと思いますけど…」
「それなら皿洗いの方を先に探ってみましょう」
そうして3人は調理場に近付いたが、そこは人が居ないのかと思う程シンっと静まり返って居た。
「お疲れ様です」
カタリナが1番年配に見える男性に丁寧に挨拶をする。
「おぅ、珍しいな。ん?誰だそいつら」
「彼等は…新しい使用人です。仕事を覚えて貰うために一通り城を見て貰っているんです」
「そうか、勉強になるなら何でも見ていけよ。
俺は料理長のダンテだ」
そう言って笑顔で手を差し出す。
「今は休憩中ですか?もう11時近いですが昼食の準備は良いのですか?」
その手を握り返しながら、ユリウスが訊ねる。
「あぁまぁな。この城今は王族は2人しか住んでないだろ?王女は食事に興味がないし、元女王陛下はご高齢で食べられるものにも限りがあってな…
料理のメニューも毎回似たような物をローテーションするだけなんで、暇でしょうがないんだよ。
だから食事の用意も10分もせず終わってしまうんだ」
そんな会話をしながらユリウスはダンテの手をチェックしたが、切り傷は数カ所あるが、指先は綺麗だった。
「いくら調理を省けても、食器を洗う手間は省けないからそれは大変ですね」
とサナは無理矢理、話題を食器洗いに逸らした。
「まぁそうだな。なぁお前ら」
と話を振られた奥に居た人達は、比較的若そうな身なりだった。
サナが即座に近付き握手を求める。
「こんにちは。私は新人のサナです」
「あぁよろしく」
サナは握り返された手をグッと強く引き寄せ、顔の真ん前でマジマジと見る。
突然手を凝視される皿洗い係の青年は驚いた様子だが、驚き過ぎて手を引っ込めるのを忘れているようだった。
「水仕事をしているのに随分と肌がお綺麗ですね。何かされているのですか?」
「何か?……あ、あぁ。油を塗っているよ。オーリブの油」
「オリーブの油…」
「肌の薬とかもあるんだけど、あれは口に入ったら危険だからな。オリーブなら元は食べ物だから仕事中も気にせず塗れるんだよ」
「そうだったんですね。本当に傷1つない綺麗な手をされていますよ」
そう微笑み。キッチンを後にした。
「調理場の人達ではなさそうね」
「無駄足だったな」
「私は私の知らない所でこの国にもスキンケアの文化があった事を知れて嬉しかったです!」
その能天気なサナの言葉にユリウスからは
ため息しか返って来なかった。
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