2章 7話 2mmの殺意1
雨が上がった後の湿った土の匂いが込み上げ
ピンと冷え切った空気が夜を包み込んだある日
突然コートのフードを深く被った人物がサナ達の研究所のドアを叩いた。
怪しげな出で立ちに警戒したが、その人物はフードを外すと、いつもより随分顔色が悪いカタリナだった。
「どうしたの?御屋敷からどうやって出て来たの?大丈夫?」と矢継ぎ早に質問をあびせてしまう。
それくらい異常事態だった。
本来屋敷に雇われている人達は屋敷の外に出る事を極端に制限されている。家族と会うことは勿論
好きに買い物をして歩く事すら許さない。
「実は…とんでもない物を拾ってしまって…自分1人ではどうしようもなくて…」
普段冷静な彼女が「とんでもないもの」と表現するのだから、余程のものなのだろう
「とりあえず座って、暖かいお茶を用意するわ」
濡れたコートを脱ぎ、暖かい紅茶を飲みながらカタリナは事情を語り始めた
「丁度3日前に、変な手紙を拾ったの。宛名も何も書いてない手紙。
最初は中身を見るのも気が引けたから、手紙を落とした心当たりがある人は居ませんか?と訪ねて回ったの。でも誰も居なくて。
捨てる訳にもいかないから、仕方なく中身を読んだら
_____王女を毒殺する計画が書かれていたの」
あまりの事にサナは息を飲み、ヒッと悲鳴の様な音が狭い部屋に響く。
ユリウスの方は何やら考え込み始めた。
「その計画が実行されたら、カタリナさんが1番危険ですね」
「え?何で?」
「えぇそうなの……サナも知っていると思うけど、料理の配膳の全般は私がやっているの。そんな状況でもし毒殺なんてされたら、確実に私が1番先に疑われるわ」
「そんな…でもその手紙を証拠にすれば!」
「毒殺された後じゃ偽装工作だと思われるだけだろうな」
ユリウスはため息混じりに反論した。
「今、私に唯一出来るのは、王女が毒殺される前にこの手紙を王女に見せて告発する事だけど…」
「そんな事をしたら大々的に犯人探しになるな」
「下手をすると使用人達は一掃されて、全員処刑なんて事もありえる。どちらに転んでもカタリナさんの身は危険だ」
そう言いながらユリウスは悔しそうに自分の膝を叩いた。
「それだけじゃないわ。せっかく2人が誰の血も流れない方法で王女を納得させようとしてくれているのに、王女が殺されても、この計画がバレても、その努力が全て無駄になる…」
カタリナは目を潤ませながら、拳を爪がめり込む程握り締めた。
落ち込む2人を励ましたくて、サナは務めて明るく振る舞う。
「じゃあこの暗殺を目論む人達を説得して、止めて貰うのが1番って事だよね!」
「…探せれば。ね」
とカタリナは暗いままだが
「とにかくやってみるしかないよ。手がかりはこの手紙でしょ?よく見せて!」
しげしげと眺めたが、カタリナとサナには特徴らしい特徴が見付けられなかった。
ユリウスが手に取ると
「ペンの筆圧が一定じゃない…字が汚いんじゃなく、ペンを握るようにして書いているな…所々にインクの擦れた跡がある……いやインクじゃなくこれは血だ……」
と次々と二人が気付かない情報を上げ連ねていく。
「血液から本人を特定出来たら良いのに…」
カタリナがぽそりと口にするが、ユリウスは
「こんな少量じゃ難しいだろうな」
と悔しそうだ。
「その人、手が凄く荒れているんじゃないかな?」
「「え?」」
暫く黙っていたサナの発言に
2人は思わず顔を見合わせる。
「こう、中指が逆剥けになっているとね、ペンを普通に持って字を書こうとすると凄く痛いんだよね。だから握る様に持っている」
サナ推理を二人は口を挟まず聞いているので、そのまま続けた
「それに手荒れは手のひらより手の甲から出血しやすいから、文字を書く時気を付けていても紙に血が付きやすいの」
「じゃあ、とりあえず手が荒れている人を片っ端から探せば良いの?」
「水を使うような仕事の人って居る?」
「城の中だと食器洗いと洗濯係の人かな…」
「よし、じゃあその人達に絞って探りを入れるしかないな」
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