2章 2話 マゼンタの約束2

数日後


サナは自宅のある田舎に帰って来た。


父と母に王女の顔の痣の事は伏せ、化粧品を作る事が処刑を逃れる条件になった事だけ説明すると

当然心配したが「サナになら出来ると信じているよ」と励ましてくれた。

でも今回サナが返って来たのは、両親への報告だけが目的ではなかった。


サナは一秒でも長く一緒に居たい素振りの両親と渋々別れ、隣の家に向かった。

ベルを鳴らすと、現れたのは小さな少女マノンだった。

「サナ⁉どうしたの?ママがサナは遠くにお仕事だから帰って来ないって言ってたのに!」

ひっくり返るのではないかと言うくらい驚いている。

マノンの驚く声が聞こえたのか

「マノン?誰が来たのー?」と奥からマノンの弟の赤ちゃんを抱っこしながら母親も顔を出した。

「え!サナ!サナなの?戻って来られたのね!」と目を潤ませ赤ちゃんを抱きながら片手でハグをしてくれた。

「今日は、マノンにプレゼントがあって来たの」

「え!本当?なになに?」

「これよ」

と小さな入れ物を取り出した。

「本物の口紅よ」

その言葉に母親はビクッとしたが、マノンは即座に蓋を開けると

「わぁ……ピンク色だ」

と感嘆の言葉を漏らした。そして手の上の小さな入れ物の中に吸い込まれてしまうんじゃないかと言うくらい、じぃっと見つめている。

「でもサナ、ピンク色は作れないんじゃなかったの?」

「そう、私1人じゃ作れなかったけれど、魔法使いみたいな人が、あっという間に作ってくれたの」

「サナ魔法使いとお友達になったの?」

「うん、そうよ」

でどこか心配そうな母親の目線を感じて、サナはマノンに

「マノン。私は今マノンがこの口紅を外に付けて行っても誰も怒らない、ママも心配しなくていい世界にするために頑張っているの。だから大丈夫になるまで使わないって約束出来る?」

「えーせっかく貰ったのに……」

「マノン……絶対に、絶対に安心しておしゃれをして、好きな恰好で歩ける日を私が作るから。信じて欲しいの」

手を握り真剣に伝えるサナに、マノンも何かを感じてくれたのか、真剣に考える仕草をして

「わかった。サナがんばってね」

と最後には承諾してくれた。


マノンの家から出ると、マノンへのプレゼントの内容を知る両親が家のドアから心配そうにこちらを伺っている。

サナが笑顔で手を振ると、安心したように家から出て来た。

「それじゃ私は戻るね」

「一日くらい泊まっていけないのかい?」

父親は残念そうに食い下がる

「ごめんね。時間が無くて……」

「貴方、サナが困るでしょ」

母親は父親を窘める。

「次会うときは、何日だって一緒に居れますわ」

見送りに出てくれたマノンの母親も励ましてくれた。

「サナ、バイバイ。早く帰って来てね」

何も知らないマノンだけが無邪気に別れの言葉を述べる。


「大丈夫。絶対帰って来るわ」

そう力強く、自分にも言い聞かせる様にサナは誓った。

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